#002 もしAIによって先に著作権を取られたらどうするべきか

とりあえず最近話題になっている著作権の話題をしてみましょうか。


なお、私は法律の専門家ではないので、内容はあくまでも個人的な意見であることにご注意ください。


本記事を元にして何かあった場合でも、私は一切の責任を持ちません。




2022年10月12日、ある絵師さんのお絵描き配信にて、ある視聴者が絵師さんが作成中のラフをスクショして、AIを使って先に「完成した絵」としてSNSに投稿するという事件が起きました。


しかも、あろうことか後から投稿した絵師さんに対して、「自分の絵をパクった」と言いがかりをつけたのです。


これは有名な絵師さんだったから明るみになりましたが、無名の絵師が同じ事態になったら、誰も気付かないでしょう。




実はこの事件の直前である10月9日に、私は『AI絵師イラスト集を販売している謎の業者に、自分で描いた同人誌を訴えられた件について』という短編を投稿していました。


●『AI絵師イラスト集を販売している謎の業者に、自分で描いた同人誌を訴えられた件について』

https://kakuyomu.jp/works/16817330648203905078


これは、同人絵師がイベント会場にてAIイラスト業者に著作権侵害だと脅される話です。


AIイラスト業者は大量のAIイラストを画集として出版していました。それと同人絵師の絵が一緒だというのです。


同人絵師が確認ツールで自分の絵を送信すると、確かに類似する絵があるという結果になりました。


しかし実際は、送信した絵をimg2imgで少し変換したイラストを返していただけだった、という詐欺であることが分かる、という内容です。


話の流れは違いますが、AIを使って先に出力してしまえば著作権侵害として訴えることができる、ということが悪用されたという点で同じでした。




このようにAIをずる賢く使えば、「著作権」を先回り取得できる世界になってしまいました。


これは商標の先使用権の問題に似ています。


最近だと、ゆっくり茶番劇の商標登録問題が話題になったので、覚えている方も多いと思います。


●ゆっくり茶番劇商標登録問題

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%A3%E3%81%8F%E3%82%8A%E8%8C%B6%E7%95%AA%E5%8A%87%E5%95%86%E6%A8%99%E7%99%BB%E9%8C%B2%E5%95%8F%E9%A1%8C


商標のように「先に取った者勝ち」の世界になってしまうと、私が『AI絵師イラスト集を……』で書いたように、とにかくAIで大量に生成した人がクリエイターということになってしまうでしょう。


これはイラストに限らず、小説や音楽、CG、映画など、あらゆる芸術に当てはまるでしょう。




もう少し似た話を続けますが、現在のお絵描きAIを使って別の人が偶然同じ絵を出力して公開した場合、著作権はどうなるのか、という問題もあります。


現在のお絵描きAIは、プロンプトと呼ばれるテキストを入力することでイラストを生成することができます。


これはtxt2imgという機能で、他にも前述したimg2imgのように、画像を入力にすることで、構図などを反映させて新しく画像を生成するなど、色々な機能があります。


ここではtxt2imgに限って話をすると、現在のお絵描きAIは同じプロンプトで同じパラメータならば、同じ絵を出力します。大抵の場合、ランダムにシード値が設定されていますし、プロンプトも複雑ではあるので、これが同じになることはめったにありません。


しかし有用なプロンプトの情報は生成者の間で共有されていますから、偶然同じプロンプトで同じシード値になり、同じイラストが生成される確率はゼロではありません。


生成したイラストの権利についてまとめてみましょう。


Midjourneyは、無料プランの場合、Creative Commons 4.0 by-ncライセンスになり、商用プランなら商用利用が可能になります。


stable diffusionは、作成者に権利があります。


NovelAIは、ユーザーに権利があります。


したがって、多くの場合、作成者に著作権が認められる「可能性」があります。




しかし必ず著作権が認められるかというと、そうではないという考え方が一般的です(※「一般的」と言っているのは、まだそういう判例が出ていないので、現状での弁護士さんの判断としてそうなる可能性が高いという意味です)。


著作権の考え方に沿うと、その生成過程において人間が関与しているかどうかが判断の分かれ目になります。


下の記事の「4 第3 画像生成AIにより自動生成された画像に著作権が発生するか(論点2)」に、詳細に書かれているので、こちらを参考にするのが良いでしょう。


●Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権

https://storialaw.jp/blog/8820


簡単に言うと、詳細なプロンプトを使って生成した場合や、試行錯誤を繰り返して生成したり、複数生成した中から選び出した場合、人間が後から加工を加えた場合には、著作権が認められる可能性が高いです。


逆に、誰でも思いつくような短いプロンプトで一発生成した場合は、認められない可能性があります。




これに基づいて、AIを使って先回り大量生成をしたケースを考えてみましょう。


この場合、機械的に大量に生成しているので、「人間が関与している」とは言いづらいように思います。


長いプロンプトであれば認められる可能性もありそうですが、そのあたりの判断は私には分かりません。


大量の良いプロンプトを参考にして、プロンプトを自動生成するプログラムを開発し、そこから大量生成した場合は、人間が関与していると言えるのか、という問題もあります。


専門家の意見が待たれるところでしょう。




また、最初に紹介した、配信画面をスクショしてimg2imgで盗作されるケースについては、この記事では触れられていません。


しかし先ほどの記事の「5 第4 学習に用いられた画像と同一の画像が『偶然』自動生成された場合、著作権侵害に該当するか(論点3」のところに、著作権侵害は「類似性」と「依拠性」が必要と書かれています。


下の記事に、具体的な判例が出ているので、これを読むとラインが分かりやすいと思います。


●著作権侵害の判断基準(デザインの「パクリ」を題材に)

https://www.businesslawyers.jp/practices/304


特に「依拠性」については、既存の著作物に依拠しているかどうかが問題になります。


スクショパクリについては、img2imgで絵師さんのラフに「依拠」していると言えるので、パクった側が侵害しているように見えます。


しかし「既存」のものかどうかという点では、パクった側が先に投稿してしまっています。


もちろん今回は絵師さんが配信されているので、それを証拠に絵師さんが先だったと証明できそうです。


しかしそうした証拠が残っていない場合は、難しくなるのかもしれません。


例えば、パクる側が先に完成させて、絵師側に「著作権を侵害してますよ」と善人を装って報告し、絵師さんのイラストを取り下げさせる、ということが起こる可能性は考えられます。


それに上記は日本の国内法に基づく話で、海外の人間にパクられた場合にどうなるかは私もよく分かりません。


いずれにせよ、クリエイターは自分が先に作ったという証明を残す必要性が高まったといえるでしょう。




では、同じプロンプトで偶然同じイラストが生成された場合は、どうなるのでしょう。


両者が偶然それぞれ独自に同じプロンプトを作成していた場合、これは人間のイラスト同士が偶然似てしまった場合と同じ対処になるのではないかと思います。


「Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権」の記事によれば、依拠性はないと判断され、著作権の侵害にはならないと考えられそうです。もちろん専門家の方の正確な判断が必要ではあります。


それなら公開されているプロンプトをそれぞれ別の人が使っていた場合はどうなるのでしょう。


私も分かりませんが、関与が少ないですから、著作権が認められないと判断される可能性もありそうです。


そう考えると、すでに多くのプロンプトがネット上に公開されていますから、そういう意味では「もはや著作権が発生するAIイラストは少ないのでは?」とも思えてきます。


この辺がどうなるのか、弁護士さんの意見が聞いてみたいですね。




改めて最初の話題に戻ると、証拠さえあれば著作権上はクリエイター側に軍配が上がりそうですが、悪意のある何者かによってパクられる可能性は残ります。そしてパクられた絵師側がそれをいちいち探して、通報して、裁判を起こすというのは労力が必要です。


そうした体力がない絵師さんは、泣き寝入りすることもあるでしょう。


そのためにJASRACのような管理組織が必要だという声もあったりしますが、私は難しいのかなと思っています。


むしろ著作権という考え方が時代に合わなくなってきたようにも感じています。


長くなってきたので、そろそろこの辺で一区切りにして、次回にその辺の続きをお話できればと思います。


それでは、また。

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