#004 生成社会における「過去」の価値

前回、著作権という考え方が古くなりつつあり、オープンにした方がいいのでは、という話をしました。


その背景として、生成系のAIにより検索が機能しなくなる未来という可能性を紹介しました。


今回は、生成社会において、「過去」の扱いがどのように変わるか考えてみようと思います。




すでに現代はSNSが発達して、消費者は現在提示されたものを消費することに時間を取られています。


全てをAIが生成する「生成社会」になれば、誰も話題にしていない過去の作品に価値を感じる人は、少なくなっていくでしょう。


「クリエイターは過去の作品を鑑賞した経験が必要」という人も多そうですが、AIは一人の人間が鑑賞するよりも多くの作品を学習しています。


「AIの方が過去の作品をよく学んでいる」と評価される未来がくるかもしれません。


「温故知新はAIに任せて、人間は今まさに生み出され続けている膨大な新しい創作物を消費し続ける」という未来は、それなりに現実味があるのです。


「過去の名作は他人と共有できる」という反論も聞こえてきそうですが、古いものを消費する人が減っていけば共有できる範囲は狭くなり、むしろ今バズっているものを刹那的・一過的に共有する方が共感を得やすい社会になる可能性はあります。


というより、現在がまさにそうなっていると思います。




もちろん過去の作品を探す人も一定数は残るでしょうが、検索が機能しなくなれば、それはまさに未知の世界の冒険者のようになるでしょう。


書評家の方々がそれに当たります。


また「小説家になろう」には、以前からそうした過去の良い作品を探す方々がいて、「スコッパー」と名乗っているようです。


そうした活動は、過去に目を向ける一助になるかもしれません。


一方で、今後そうした活動を通してしか過去の作品が見つからないということになれば、「評価されたければ見返りをよこせ」という「スコッパー」が出てくるのかもしれません。


書評活動が権威化する危うさは、今後注視すべきでしょう。




このように、検索が機能不全になり全てが生成される未来を考えると、著作権のある作品をネット上に置いておく意義は薄れると思います。


出版社がネット上で見つけて読んでくれるということは、ほぼ起こりません。

スコッパーに読まれるのを待つのは、ジャングルの奥地で遭難して誰かに見つかるのを待つのと同じようなものです。


昨日タイムラインを流れていったフォロワーのツイートを、あなたは覚えていますか?

一週間前は?

一ヶ月前は?

小説もそうして過去に流れていく力を、これまでより大きく受けるでしょう。


公募についても、AIが自動生成した作品が人間と同等レベルになり、それらが商業で売れるようになれば、締切を守らない人間にこだわる必要はなくなります。「飲み友達の編集者によくしてもらう」なんてことも、編集者がAIになったら無意味です。ネットに置いた作品が将来的に書籍化される望みは、限りなく低くなるでしょう。


それならば作品をオープンにしてしまい、自由な利用を許した方が、生存戦略としては正しいように思います。




そう言われてもピンとこないかもしれませんが、似たような動きはYouTubeで既に見られています。


ある配信者の動画の面白い部分を短く編集して投稿する「切り抜き」という文化です。


配信者によって、切り抜き動画を全て許可している人もいれば、ガイドラインを設定して一定の収入を切り抜き元の配信者に還元するよう求めている人もいます。


こうした切り抜き動画は、単純に配信者の収入元としてだけではなく、面白い部分を凝縮して伝えることで、切り抜き元の配信者の視聴者を増やす宣伝効果が見込まれます。


Kindleは、書籍の内容を引用してツイートできる機能を提供していますが、それに似たものですね。


実際、円城塔さんがGitHubで公開されている小説は「CC BY-NC 4.0」なので、「切り抜き小説」を作ることは可能です(非営利に限定されているので、収益化はできませんが)。


そういう切り抜き可能な小説が増えれば、市場ができる可能性はあるでしょう。


小説なら、第三者が面白いと思った一節を紹介して、そこで得た利益の一部が原作者に還元されるようになったら面白そうです。


そうした切り抜きをしてもらえるように、小説の形も変わっていくのかもしれません。例えば、短い文章で相手の心を動かすことのできる技術であるとか。


ただし、現在のYouTubeにおける切り抜き動画は「二次創作」であることには注意が必要です。小説を非営利利用のみでオープンにした場合は、切り抜きで利益を上げられません。




しかし「作品をオープンにしたり二次創作可にしたとして、切り抜きだけでは作家は儲からないのでは?」と考える方もいるでしょう。


次回は、ポストAIにおける作家の稼ぎ方について、もう少し考えてみます。

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AIとクリエイターの未来を空想するエッセイ 葦沢かもめ @seagulloid

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