空との/あはひ 🌅

上月くるを

空との/あはひ 🌅





 向かうからやつて来るひとが、笑つてゐるか、泣いてゐるか、だうして分かるの。


 マスクの上の目は笑つてゐても、隠れた頬にはなみだが光つてゐるかも知れない。


 大きな双眸はうるんでゐても、口もとには小さな幸せが宿つてゐるかも知れない。




      👒




 ぼくはこらえてゐるんだ、何年も、何か月も、何十日も、何時間も、ずつとずつと。


 逢ひたくてたまらない人たちと犬に、逢へないんだ、逢ひたいよう逢ひたいよう。


 泣きながら歩いてゆくと、すれちがつた心がティンカーベルのように共鳴し合ふ。




      🔔




 ぼくはこれからいつまで生きるんだらう、十数年か、数年か、数日か、数時間か。


 そのあひだに、逢ひたい人たちや犬に逢へるだろうか、そのことにひどく怯える。


 だからマスクに隠れて、ときにサングラスの援けも借り、泣きながら歩いてゆく。




      🦖




 だけど、ふと分かつたんだ、空と地、ふたつの世界はつながつてゐるんだなつて。


 案じなくていい、地で逢へなくても空で逢へる、あはひなんて存在しないんだから。


 だから、ぼくはもう泣かないよ、太宰が好きな人の玻璃はりのような歌声を聴いても。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空との/あはひ 🌅 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ