第21話事後

「はい、どもーー、異世界帰りでーーす」


 居間のカメラに向かい、相変わらず一人で話続ける。でもなぜか誰かに見られている気がする。カメラからではなく、背後からワサワサと……。


「いやーー、参ったっすよ! 過去一の再生回数、通報してくれた人、マジ感謝っす。ヤバかったっすね、海老みたいになってたっすから。いまだにトラウマで、編集のときとか吐いたっすよ」


 肝心の異世界での記憶は、病院で精密検査を受けている間、捻りにひねって創作した。

 俺は未来人に拷問され、仕事の不手際を責められていたが、人違いだと発覚。

 今度は口封じに殺されそうになりながらも、なんとか戻ってこれたって筋書きだ。

 自分でもくだらないと思うが、全く覚えていないのだから仕方ない。それに、異世界に行っている間の動画で、俺が泡をふいて痙攣している動画がバズり、そんな話にも信憑性が出たようで、順調に再生数を増やしていた。

 ――ただ、あのあと、妙にアイツのことばかり思い出し、俺は駅ナカをぶらつきがてら、現場を見に行った。

 そこである女性と出会った。

 駅のホームで、手に掴んでいた一輪の紫色に染まった細長く細かな花びらの花を、そっとホームに放った。

 彼女が振り向くと、俺と目があった。


「一神君……」


 何か言うべきだ。せめて、名前を思い出せれば……。

 しかし俺はその場をそそくさと後にした。そのときの自分に腹を立てているせいで、動画の話し声に怒気を含んでしまう。


「まぁ、とにかく、誰かの過去に責任を持たないとってことっす」


 そう締めくくりながら、次に会うときはちゃんと謝ろう、そう誓った。


「ちょっと、ちょっと、父川さん大丈夫?」


 隣人が私の姿を見つけ、慌てて駆け寄ってきた。


「ええ、もうすっかり」

「びっくりしたわぁ。皆もパニックよ、私達運命共同体みたいなもんでしょ? みんなプカプカ浮いてるんだから」

「いやぁ、お騒がせして申し訳ない」

「でも、ずっと眠ってたって、なに、悪夢でもみてたの? 私ここに来てから夢なんてみてないわよ」

「それがお恥ずかしながら、全然覚えてないんですよ」


 脳波が眠りから覚醒されない、私の異常事態に会社は相当慌てたようだ。すぐに噂は広まりクレームの殺到、管理体制の問題など、体を持っている人達の間でも大きなニュースになったようだ。

 結局、私がそうなった原因も、覚醒できた理由もわからずじまいだったが。

 目覚めてからすぐ、弟が電話をしてきた。大丈夫なのか、具合はどうか、そう聞く弟に私はポツリと呟いたらしい。


「母さんに会ったよ」


 まだ完全に覚醒してはいなかったのか、弟が二度目に電話してきたさいに、そのことについて聞かれたが、なんのことだかわからなかった。

 ただ、弟には近々本当のことを言おうと思う。

 それから手紙を書いた。大切な人と、私の子へ。怖い思いをさせてごめん、自分勝手でごめん、君たちは私の未来だと。


「皆が見えるよ!」

「そうじゃの」


 満たされた世界で、二人は皆を見守っていた。時空を越えて二人を閉じ込めるものなどない、どこまでも確かな世界で――。


「あ、蝶蝶! 見て! 虹色だ」


 蝶は二人の間をヒラヒラと舞い、詩門の眼帯をするりと外した。

 詩門は二つの宝石のような瞳で、おじいさんに笑顔を向けた。


「あなた! 泣いている場合ではありません! 叱ってください! 見習い前に魂を天国に送るなど、聞いたことがありません!」

「良かった、本当に心配で、危うく悪魔と契約するところだった」

「なんてこと! 間違ってもそんなことを口になさらないでください!」


 私の前に泣き崩れたパパに抱きつく。本当は不安でいっぱいだった。目覚めてから、一目散に詩門とおじいさんを迎えに行った。でも、二人が見つからなくて、翼が千切れるような思いだった。


「こっちよ、マーガレット。そっちの男の子を翼に抱いて」


 姉が来てくれなかったら、二人を天国に送ることも、天使のままでいることも許されなかっただろう。


「この人達、浄土じゃなくていいの? さっき向こうの神様……仏、様? と会ったから、この二人は私達が引き受けると話したけど……」

「ええ、お姉様。二人はもう無宗教だから」

「……そう……」


 姉はわかったようなわからないような、戸惑った表情ながらもしっかりと仕事をこなした。

 私も初仕事を終え、詩門を無事送り届けた。

 これで晴れて、他の兄弟たちを飛び越えて、ママとパパの仲間入りだ。

 そこへ、ママが立ちふさがった――。


「マーガレット、これからはお菓子を食べてはいけませんよ。禁欲の修行です!」



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ホワイトドリーム 昼星石夢 @novelist00

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