第1章:全ての始まりは東から

 


薪を一通り集め、オレはズワートさんのいる場所へと戻って来た。



「ハルト!おかえりなさい」


「おかえり~」


「セイラ姫…!ウイットさん…!」



すると、そこには既にセイラ姫とウイットさんの姿があった。

高らかな声を上げてオレを出迎えてくれるセイラ姫とウイットさん。


…良かった。二人とも無事に戻って来れたんだ。

見たところ怪我をしている様子もない。オレは心底ホッとした。



「ハルト、怪我とかしてない?大丈夫?」


「大丈夫ですよ。姫の方こそ大丈夫でしたか?」


「うん、大丈夫…」



ここに来て、姫の顔付きが変わった。

その表情は妙に真剣で、次第に厳しい顔付きへと変化していく。



「姫…?」


「…あのね、実はハルトに話しておきたいことがあるの。」



セイラ姫の表情から察するに只事ではない状況であることをオレは瞬時に理解した。



「…分かりました。けど、その前にこの薪をズワートさんに渡しにいっても良いですか?」


「あ、それなら僕に渡してくれるかな。あの人いなくなっちゃったから」


「え」



突拍子もない言葉にオレは思わず声を漏らした。



「…勝手に殺すな」



…どうやら先走り過ぎたようだ。

茂みの奥からひょっこりと何事もなかったような顔で姿を表すズワートさんだったが、思いがけない格好に結局オレは動揺してしまった。


何故か、全身が濡れていたのだ。まるで水でも被ったみたいにびっしょりと。



「ズ、ズワートさん…!?どうしたんですか、その格好…っ!」


「・・・」



ズワートさんは何も答えようはしなかった。


険しい表情といいこの格好といい…この感じからしてズワートさん自身もそうなんだろう。


何かが、あったんだ。オレのいない間に。



「よし、じゃあ役者が揃ったところで…そろそろ本題に入ろうか。」



ウイットさんの一声に皆んなの視線が集まった。

中央には焚き火が小さく燃え上がっている。



「…火は付きますね」


「んー、どうやらそうみたいだね…ちゃんと熱も感じるし、焚き火の爆ぜるような音も聞こえるし…」



…なんだろう。この時点で既に違和感がある。

セイラ姫とウイットさん…なんだか火が付いたことに驚いてるみたいだ。


「一体、何があったんですか?」


「…ねえ、ハルトは気づかなかった?この森…何かがおかしいって」



不安そうな顔でオレを見るセイラ姫。

おかしい…といえば、この森に関して一つだけ気になることがあった。


…だけど、まさかこんなことが本当に起こり得るのかと思って今の今まで口には出さなかったんだ。



「……一つだけあります。」


「うん、言ってみて」



セイラ姫の促すような、また尋ねるような問いかけにオレは迷いながらもこう答えた。



「・・・#この森にはオレ達以外の生物が存在していません__・__#」


「…はい、正解。さすが姫様の守護者(ガーディアン)やっぱり気付いていたんだ」


「ウイットさん…でもまさか、そんなことが有り得るんですか?」


「信じられないって顔だね。まぁ僕もセイラ姫に言われるまで有り得ないだろうと思っていたから口には出さなかったんだけど…一応アイツが証拠になるのかな…」



そう言って、ウイットさんはズワートさんを指差す。


全身ずぶ濡れだったことと関係があるのだろうか?

今は焚き火のおかげもあって、服も大分乾いたようだけれども。



「ズワートさんが…?」


「そうだよ~、僕達が手ぶらで帰って来たことがよっぽど気に食わなかったみたい」


「誤解を招くような言い方をすんじゃねえよ。いくらなんでも何もねーってことはあり得ねぇって言っただけだ」


「ーだから、わざわざ川に潜ってまで確かめに言ったんだよね?川に魚がいるかどうか。それで結果はどうだったかな?」


「・・魚が一匹たりともいねぇ。一体どうなってんだ、この森は…」



さすがのズワートさんも頭を抱え、驚きを隠せない様子だった。


魚が一匹もいない。

確かにこれは自然界では先ずあり得ないことだろう。


そもそも姫とウイットさんが手ぶらだったということも気になる。

何もないって、それは文字通りの意味だと捉えてもいいのだろうか。



「…あの、因みに何もないっていうのはどういう意味ですか?」


「ああ、やっぱり守護者(ガーディアン)くんもそこは気になっちゃう感じ?普通に文字通りに受け取ってくれて構わないよ。食べれそうな果実や木の実、なんなら野草とかも見てみたけど全部駄目だったよ。」



姫とウイットさんのことだから相当探してくれたに違いない。

その二人がここまで言うってことは…間違いないんだ。



「…ね、ハルトはいつ気付いたの?」



セイラ姫は一拍置いてオレに問いかけた。



「オレは…薪を拾っている時に気付いたんです。森の奥まで来たというのに、鳥や獣の声が一切聞こえない…ましてやこんな森の中…さすがに一切聞こえないのはおかしいと思いました」


「ー後…虫もだよね?」


「!そうです!」



そう、オレが一番疑問だったことはそこだった。


こんな森の中…鳥や獣がいない以上に虫一匹すら見ていないことの方が何よりも異常に感じたのだ。



「ウイットさん…どうして分かったんですか?」


「ん~、分かったというか…なんとなくそうかなぁって。焚き火のおかげでいなくなってるだけかもしれないけど、思えばこの森に来た瞬間から違和感があったなぁって…」


「違和感…ですか?」


「そ、だからその確認のために火を起こしてみたんだけど…多分僕の見解は違うのかも」



違うとは言いつつ、どこか確信めいた様子で答えるウイットさん。


そして、淡々とした口調のまま驚きの言葉を吐いたのだった。




「あるいは・・・この森自体が、現実じゃない…とかね」

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タイムリミット 本音云海 / へのくちさん @henokuti

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