第1章:全ての始まりは東から

 


「・・違っていたらすみません。もしかしてズワートさんって、気そのものを感じなかったりしませんか?」



青龍と刀を交えた時のズワートさん…一切隙がない構えに立ち振る舞い至ってもまさに完璧だった。


だけどそれは、あくまで青龍が現れたからこそ出来た芸当であることにオレは気付いてしまった。


実際、森に入った時のズワートさんは何かを感じ取った様子は見られなかった。


オレを含めてセイラ姫やウイットさんは森の中に入った瞬間から青龍の放つあの強大な気を感じていたというのに、ズワートさんだけが終始何も変わらず、平然とした様子で青龍と対峙していたことにオレは違和感を抱いたんだ。



「・・・」



ズワートさんはその場に腰を下ろし、何か考えこんだ様子で俯いていた。


言葉を選んでいるのか、はたまた迷っているのか、定かではないけれど…オレはただただズワートさんの答えを待ち続けた。



「……良く、分かったな」


「!ズワートさん…」



この答えが、全てを物語っていた。



「じゃあ…もし、あの時…姫が声を上げなければーー」


「ああ、そうだ。俺は青龍に気付かないままだった。あのドラゴンがあの場に現れたこそ、俺は気付いたんだ」


「やっぱり…そうだったんですね」


「・・・そうなった理由は聞かねーのか」



ズワートさんの鋭い視線が針のように突き刺さる。



「…いえ、それだけ聞ければ充分です。」


「・・・気にならねーのか」


「気にならないっていえば嘘になります。けど、本当にいいんです。オレはただ…自分の中に抱いた疑問を解消したかっただけですから」


「フンッ…変な餓鬼だな、お前…」



そう言って、ズワートさんはフッと笑った。


そういえば…ズワートさんの笑った顔、初めて見たかもしれない。


セイクリッドット王国では常に稽古をしているせいなのか、険しい顔ばかりで笑顔の印象がまるでなかったんだよな。


本当に…青龍の言う通りだ。

人は変わる。オレの持つ印象だって、当然のように変わって行くんだ。



「ズワートさん、色々とありがとうございます」


「…礼言われるようなことはしてねーだろ」


「でも、オレは嬉しいんです。こんな風に話の場を設けてくださったことやズワートさんの気遣いが…本当に嬉しかった」


「お前…」



この時、何故かズワートさんは目を見開いていた。


…少し過剰に言い過ぎたかもしれない。

なんだか妙に気恥ずかしくなって、オレは慌てて話題を変えた。



「そ、そうだ。ズワートさん!オレ…寝床を作りたいんですけど先ず始めに何をすれば良いか分かりますか?」


「寝床なんざ後でいい。先ずは…そうだな。夜に備えて火を起こすのが先決だろ」


「分かりました。じゃあオレ、薪を探して来ますね!」



その場からそそくさと立ち去ろうとすると、ズワートさんが急にオレの手を引いて来た。



「ズ、ズワートさん…?」


「・・・気をつけて行って来い。」


「!はい…っ!」



少しずつ、少しずつだけど…オレ達の中で確実に何かが変化しているのは明白だった。


ズワートさんの人柄…まだ全部は分からないけど、いつかもっと打ち解けたい。


もちろんウイットさんだって、そのことには変わりない。



「ー行って来ます。」



こうしてオレは薪を探すため、森の奥へと向かったのだった。

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