ささいな重大な

#365日ショートショート 285

　小さいことを気にするなと、父は言う。結婚を考えている人と一緒に暮らすのは忍耐の始まりだと、母は言う。確かにそうなのかもしれない。笑って済ませて、心の中で舌を出しておけば良いのかもしれない。

　健斗と暮らし始めて一ヶ月が経った。仕事をしていない私は、半ば専業主婦のような毎日を送っている。正式なプロポーズも秒読み。健斗は出世コースまっしぐら。仕事が無い日は家事を手伝ってくれるし、優しいし、あっちも相性がいい。私たち、きっと上手くやれるはず。そう思ってた。

　でも、許せないことは許せないんだって、気づいてしまった。今からの人生、もし健斗と共に歩むことになったら、これとずっと付き合わなければならないのだろう。これ。しょうもない、これ。なんてことはない。数秒で終わるかもしれない、これ。でも、頭にこびりつくように、これが私の結婚への想いを曇らせる。

　些細なことだろうか。でも、結婚って、これを許せる相手とするべきじゃあないだろうか。

　彼が用を足したあと、トイレットペーパーをちぎる位置が20センチも下なのだ。まるで、ベロンと垂れたおばけの舌のように。