電車で一時間の幼馴染に誕生日プレゼントを贈ったらお返しは彼女自身だった件
久野真一
電車で一時間の幼馴染に誕生日プレゼントを贈ったらお返しは彼女自身だった件
ピロピロリン。ピロピロピロリン。ピロピロピロピロリン。
特徴的な、彼女から通話があったとき専用LINEの着信音が深夜の個室に響く。
「こんばんは~、
僕の幼馴染は、どこか弾むような声だった。
「こんばんは、
電話の相手は
小中と一緒だったけど高校で県外に進学した幼馴染の女の子。
可愛くていつも優しくて、昔からの親友でもある。
「もちろん届いてたよ!今年は大和とは離れちゃったから、余計嬉しかったよ!」
電話の向こうの声はとても機嫌が良いのが嫌でもわかる。
機嫌が良いか悪いか。喜んでいるか悲しんでいるか。
そんなことがすぐわかる間柄が僕たちの距離だった。
「今年のプレゼントは結構悩んだんだけどね。秋紗的にはどうだった?」
季節はもう秋半ば。冬の足音も近づいて来ている。
少しお洒落な手袋を送ってみたのだ。
「すっごく良いよ。センスばっちり!冬になったら使わせてもらうね♪」
喜んでくれたようで何よりだ。
「ところで、さ。実は秋沙の誕生日に伝えようと思ってたことがあるんだ。いいかな?」
少し声が上ずるのを感じる。
「うん。ちゃんと聞くよ。大和のことだからきっと大事な話だと思うし」
僕のことだから。大好きな秋沙がそう言ってくれるのは少し照れ臭い。
「本当は、直接会ってから言おうか迷ったんだけどね。でも、タイミングは今日しかないと思ったんだ」
「そっか。学校終わってからだとこっち来るの難しいもんね」
ちょっとだけしんみりした様子で大事な幼馴染は言う。
「僕は秋紗のことが好きだよ」
「女の子として、だよね」
「もちろん。驚かないんだね」
「時々、そうなのかなって思ってたから」
「意識したのは高校になってからだけどね。全く、秋紗には勝てないや」
昔から彼女は人の気持ちに本当に敏い。
それでいて慌てるでもなくこの冷静さだ。
「でも、返事はすぐじゃなくていいから。少し考えてくれると助かるよ」
僕の秋紗に対する感情は自分でも整理しきれないところがある。
好きなのは確かだけど、同時に親友でもあると思っている。
僕の都合で返事を急かしたくもない。
落ち着いてそれだけを伝えた。
「いいの?早く返事が欲しいと思ったんだけど」
「気持ちはきちんと伝えたから。あとは秋紗の望むように」
「全く大和には勝てないなあ」
くすっと笑う可愛らしい声が電話口から聞こえてくる。
柔和な顔がはにかんでる様子すら想像できてしまう。
「それならね。半月後の大和の誕生日に返事でいい?」
「結構待たせるね?」
「いつでもいいからって大和が言ったんじゃない」
もう、と。そんな声が聞こえる。
「冗談。じゃあ、誕生日当日に電話くれる?」
「せっかくだから、そっちにお邪魔したいな。いい?」
「ちょっと待って……うーんと、土曜日だし大丈夫」
「おばさまとおじさまは?」
「秋紗が来るって言っておくから」
「……わかった。じゃあ、返事はその時に」
今、彼女は何を考えているんだろうか。
でも、断られるにせよそうでないにせよ。
気持ちを受け止めてくれるのは嬉しい。
「あ、そういえば、誕生日プレゼントのお返し期待してるから」
少しだけ悪戯めいた声でからかってみる。
「もう。大和はハードル上げてくるんだから。りょーかい。色々考えてみる」
「お。これは本当に期待してもいいのかな?」
「それはハードル上げ過ぎ!」
その後は近況を軽く話して、
「お休み」
「お休み」
いつもの挨拶で解散。
「秋紗と離れてから初めてのプレゼントだけど喜んでくれて良かった」
同封したメッセージカードも読んでくれるだろうか。
電話で言うのは恥ずかしいから、細かいことはそこに書いたのだけど。
「でも、つい強がっちゃったけど。やっぱり半月は長いかも」
ベッドに倒れ込んでぼやく。
それから半月は瞬く間に過ぎて行った。
中間試験もあるし、文化祭の準備もある。
返事は気になったけどやるべきことはいっぱいだ。
あわただしく毎日を過ごしてみればあっという間に僕の誕生日当日。
幸い、今日は土曜日で父さんたちには「夫婦水入らずで楽しんできてよ」
と親孝行な息子のフリをしてペア宿泊チケットを渡してある。
なけなしの小遣いをはたいた作戦だ。
(さて、そろそろかな)
時刻は15時前。
ぴーんぽーん。ぴぴぴぴーんぽーん。
秋紗の懐かしいチャイムの音が鳴り響く。
「秋紗。そのチャイム連打止めた方がいいよ」
仕方がないんだからと玄関に出てみれば。
「いいじゃない。懐かしくなったんだから」
肩までの薄茶色の髪。ブラウンのセーターに黒のスカート。
少し落ち着いた装いで微笑んだ幼馴染がそこに居た。
----
「なんだかちょっと緊張するね」
何度も来たことがあるだろうに。
少し笑ってしまう。
「何よ。笑うところ?」
「だって、中学のときは何度も遊びに来てたでしょ」
「半年以上ブランクが空くと違うの」
「そういうもの?」
「そういうものなの」
紅茶を飲みながら、少しの間、お互い無言。
「あ、そうそう。誕生日プレゼント。はい」
手提げ袋から何やら立派にラッピングされた綺麗な箱。
「開けてもいい?」
「もちろん」
リボンを丁寧にほどいて箱を開けてみると―
「マフラー?」
「そ。冬も近いでしょ?手袋もらったし、こっちはマフラーにしようって」
「助かるよ。首元寒いしね」
「その割に冬はいっつもマフラーなしだったくせに」
「買うのが面倒くさかったの」
「大和って面倒くさがりなのかマメなのかときどきよくわからないよね」
呆れたようだけど、こんなやりとりも昔からだ。
「それで……返事、半月待たせちゃったけど。今、いい?」
こほんと軽く咳払いをして恥ずかしげな幼馴染。
緊張してるなあ、なんて少し微笑ましく思ってしまう。
「うん。どうぞ?」
「返事待ちの大和がなんで落ち着いてるんだか」
じとーっと不満そうだ。
「やるだけのことはやったからね。どっちでも悔いはないよ」
なんて思えるのも、彼女の人柄ゆえだ。
優しい秋紗は振った相手でも露骨に避けたりしたことは一度もない。
だから、振られても友達でいられると信じられるんだ。
「そっか。その前に、メッセージカード読んだけど。すっごく恥ずかしかった。私がした何気ないことをすっごく覚えてくれてるから。私、こんなに大和に想われてたんだって、あの夜は寝られなかったくらいだよ」
「ちょっとやり過ぎた?」
「素直なのは大和のいいところだけどね。それに、私も高校になって、大和がいないことが寂しかったから余計嬉しかったし」
全く彼女も嬉しいことを言ってくれる。
「だからね、私もその……」
と少し深呼吸をしたかと思うと。
「大和のことが大好き、です。遠距離……ううん、中距離になっちゃうけど、恋人になりたい」
「こちらこそよろしく。僕も大好きだよ」
言い合ったあと、どちらともなく笑い声が漏れる。
「もう。なんで告白の返事なのにそんなに落ち着いてるの?」
「それは秋紗もでしょ。少し顔が赤いけど」
「なら余裕そうな大和も、少し肩が上がってる」
「そりゃあ。僕だって、緊張はするよ」
「なんだかうまくやっていけそう」
「だね」
思えばこういうところが波長があうんだろう。
のんびり屋で、告白でもペースが崩れないところとか。
「と、ところで。これ、笑わないで欲しいんだけど!だけど!」
と思ったら、急に何やら秋紗はそわそわ。
「別に今更笑うことはないけど?」
一体何なんだろう。
「実は……もう一つ、誕生日プレゼント、用意してきた、の」
「それは嬉しいけど……そんなに挙動不審になるもの?」
ちょっと想像がつかない。
「だって……あ、ちょっと後ろ向いてて」
「別にいいけど、なんで?」
「いいから!」
「了解」
そこまで恥ずかしがるとは一体。
「まだー?」
もう一分も経っている。
「もうちょっと待って。あと五分くらい」
「長いなあ」
「準備に時間がかかるの!」
「はいはい」
秋沙も一体どんな準備をしているのやら。
さらに十分ほどたっぷり待たされてから。
「もういいよ」
「ようやくだね……え?」
振り向いた僕はさすがに言葉を失っていた。
だって、そこにいたのはTシャツ一枚の彼女。
いや、問題はそこではなくて、身体中に巻き付けられたリボン。
「ちょ、ちょっと……これは僕も予想外なんだけど」
いわゆる裸リボンって奴のソフトバージョン?
にしても、刺激が強すぎる。胸がドクンドクンと高鳴る。
「だって。大和はOKしてもなんだか落ち着いてそうだったから。だから、ちょっとはドキドキして欲しかったし。でも、裸リボンとかはさすがにありえないし……」
つまり、折衷案がTシャツリボンだったと。
「と、いうわけで。私からのもう一つのプレゼントは……私。どう?」
どう、と言われても。まじまじと彼女を凝視する。
無駄な贅肉のないスリムの身体にほどほどに出るところは出る体型。
それがTシャツで強調されてるところに、リボンがぐるぐる巻き。
長いブラウンの髪にもリボンが巻かれてるところが凝ってる。
「か、可愛い、と思う。ちょっと……反則。完敗」
きっと秋紗も色々考えたんだろうけど。
「よし!半月考えてきたかいがあった!」
ガッツポーズの幼馴染さんである。
「半月もそんなこと考えてたの?別に普通に返事でもOKだったけど」
顔が熱い。
「だって、大和は普通の返事だと冷静なままだろうし」
「否定はできないけど」
「というわけで、彼氏としての感想は?」
「微妙にえっちいようなそうでないようなところが……いい」
「大和、妙なフェチがあったんだね」
「フェチ言わないでよ。僕だからいいものの、秋紗も下手したら変態だよ」
「そ、それは……。興奮する大和も変態だよ!」
むー、とお互い仲良く睨み合う僕たち。
「やめない?これ以上は不毛だと思うの」
「賛成。でも、さ。お話だと裸リボンだとエッチなことOKなわけだけど」
「も、もちろんさすがに今日はナシだからね!」
「わかってるって。でも、そう挑発的な格好してたら文句は言えないけど」
「でも……そんなに遠くない内に、別にいいとも思ってる、けど」
Tシャツリボンでそんなこと言わないで欲しい。
いちいちツボに来てしまうから。
「それじゃあ、そろそろ帰るね」
「ちょっと早くない?」
せっかく誕生日だというのに。
「このTシャツリボンで精いっぱいだったの」
「んー。じゃあ、また来週会える?」
「それは……私も会いたいし」
「わかった。なら、来週、初デートしよう」
「うん。楽しみにしてるから」
こうして、誕生日の、ちょっと変な告白の一日は終わりを告げたのだった。
ところで、手提げ袋の奥をみると一つのメッセージカードがあった。
「納得。これを僕の前で読まれたくなかったわけだ」
ゆっくりしていけばと思っていたのだけど、それなら仕方がない。
「さて。何が書いてあるのやら……」
便箋を取り出してまじまじと眺めてみると。
『Happy Birth Day 大和!先月は気持ちのこもったプレゼントにメッセージカードありがと。あれ見て改めて惚れ直しちゃったよ。ああ、こんなに私は大切に想われてたんだって。
でもね。私も気持ちは負けてないつもり。毎年の誕生日もそうだけど、一緒に過ごしたことはいつも楽しかったよ。大和はカッコイイ、とは少し違うけど、いつも私のことを気にかけてくれたし。でも、中学のときは仲の良い友達のつもりだったんだけど、高校に入って大和とあんまり会えなくなって気づいちゃったんだ。ああ、こんなに私はあなたのことが好きだったんだって。
だから、今日はちょっと、変なもう一つの誕生日プレゼントをあげてみることにしたの。普通ならひかれそうだけど、大和なら最悪でも笑ってくれそうだし。でも、大和のフェチにうまいことハマればいいな、なんて思って色々準備したこの半月はちょっと楽しかった。そんな準備をしながらもやっぱり大好きだなって思えたし。
今日から少し離れた恋人同士になると思うけど、あなたと積み重ねた思い出はいつも大切だったし、マイペース同士だからこそうまくやっていけるとも思ってる。あ。先に言っておくけど、たぶん、恋人になった私はすっごい大和に依存しちゃうと思うから。下手したら毎日LINEして欲しいなんて思っちゃうかも。とにかく、そんな私だけどこれからもよろしくね。
昔からの親友へ
そして、これから恋人になるあなたへ
真山秋紗』
そんなことが書かれていたのだった。
「まったく……この手紙の方がよっぽど照れるよ」
もう今は彼女は家に帰ったころだろうか。
ちょっとLINEでもしてみようか。
【さっきぶり。あの手紙はちゃんと読ませてもらったけど、秋紗がさっさと帰った理由はよくわかったよ。読んでて僕も恥ずかしくなったから】
【でしょ?】
【あ。でも、そのうち本物の裸リボンしてくれると嬉しいかも】
【馬鹿。いずれは……してあげてもいいけど】
一つ隣の県にいる彼女はきっと今頃顔を真っ赤にしているんだろう。
内心でこれからが楽しみになってきた僕だった。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
今回のテーマは「誕生日プレゼント」でしょうか。
高校になって少し離れた二人のやりとりを楽しんでいただければ幸いです。
楽しんでいただけましたら、応援コメントや★レビューいただけると励まされます。
ではではー。
☆☆☆☆☆☆☆☆
電車で一時間の幼馴染に誕生日プレゼントを贈ったらお返しは彼女自身だった件 久野真一 @kuno1234
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