透明人間

「俺、透明人間になったみたいだ」


友人がそう言って、姿を消してから約一ヶ月。

各地では謎のポルターガイスト現象、人気のない場所での痴漢事件、そんなことが多発していた。

おそらくそれは、友人の仕業だろう。

最後に顔を見せたとき、ひどく歪んだ笑顔を見せていた。そこからスッと姿を消したときは、さすがに驚いたが。


非科学的な事件が相次ぎ、日本政府はとうとう透明人間の存在を認め、とある科学者が妙な眼鏡を生み出した。


特殊な周波数でなんやかんやして、透明人間を視認できる眼鏡だそうだ。

人間か透明人間かを区別できるよう、透明人間がメガネに映されたときには少し靄がかかるようになった。


有力情報提供者には賞金一億円。捕縛者には10億円が与えられる、非現実的な話だが、これが現実に起こっている。


そして現在俺は、その透明人間になった友人と鉢合わせした。

俺は眼鏡をかけていなかったが、透明化を解除していたようで、俺はひと目で分かった。


彼はまだ気付いておらず、呑気に買い物をしていた。

服を買っているらしい、その金の出どころはどこやら。


情報提供で一億円を手に入れるのもアリだが、ここで捕縛してしまえば10億円、就活を必死こいてしているのが、次第に阿呆らしくなる。


政府は透明人間のメカニズムを解明する為に、おそらく人体実験でもするのだろう。

彼には同情するが、犯罪者。自業自得と言っていいのかもしれない。


「あ」


突然、元友人の透明人間と目が合う。彼は冷や汗をかきながら、ひと目のつく場所で透明になる。

周りの人間はアイツが透明人間だと、すぐに察知。

あっというまに捕らえられ、すぐに賞金は誰に渡るのかと大騒ぎ。

メガネをかけた老若男女が大騒ぎ。


俺のおかげで捕まえられたんだぞ、とも言えるわけもなく、俺はため息をついて家に帰った。


その後テレビをつけると透明人間が捕獲されたというニュースが放送されていた。

どうやら、人体実験をして、透明人間になれる方法を探すらしい。


そして一年後、とうとう透明人間になることができる薬が開発された。

しかしそれが人間社会に流通した瞬間、犯罪が巻き起こるかと思いきや、案外平和なままであった。

それは、あの眼鏡のお陰で透明人間が視認できるので、犯罪を犯すのはかなりリスキーだからである。

おまけにコンタクトレンズ型も発売されたということで、誰が自分を認識できるのか分からない状態とまでなった。


透明人間化の薬はすぐに誰も買わなくなった。

誰にも見られることのない力が、誰にでも見られ、むしろ目立つことになる力など、誰が使うものか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨は降らない 逆立ちパンツ @hrhsn197575

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る