雨は降らない

逆立ちパンツ

シーソーの秘密

「シーソーの左側が下がったとき、右側は上がるでしょ? それは均衡だよ、互いに互いを監視して、動きを変える。そう、それは、教室の風景」


髪の長い少女は、最近妙なオカルトにハマったようだ。

コンビニの隅に配置されたそのオカルト雑誌。中学生のパワーポイントで作られたような雑な表紙、彼女は何故かそれに衝撃を受けたという。


僕は彼女のことが好きだが、それだけはどうしても受け入れられなかった。

自分の好きなミュージシャンが、自分の嫌いなミュージシャンを尊敬していたときの心情と似ている。


恐らく今日、僕は彼女で自慰行為をすることができないだろう。明日になったら、分からないが。


「聞いてる? 吉野くん、私は気付いたのさ。まさかあんな場所に、世界の真実が記されているとは、思いもしなかったなぁ」


彼女は楽しそうに笑いながらそう話している。僕には九割理解できないが。


「何かが存在するなら、その存在を証明するための何かがあるんだよ。そしてそれが一つでも欠けたら、世界は崩壊するのさ」


「シーソーから壮大な話になったね」


「たしかに、世界は言い過ぎかもしれないね……矛盾、そう、矛盾が生まれると、よくない。辻褄が合わないことが起きれば、それは消滅するんだ。多分、私達も思い出せない」


辻褄が合わないことが消滅する、それこそ、矛盾だろう。辻褄が合わないことなど、そもそも世界には存在しない。

何らかの動きには、何らかの要因が存在する。


……だからこそ、存在を忘れる、と言いたいのだろうか。


「例えば、シーソーの片方が下がったとき、もう片方も下がっていたらどうなるだろうか。私達はその現象を認識できるだろうか。山の形になるとか、そんな単純な話ではないんだよね」


矛盾を引き起こせば世界が終わる、理屈は全く理解できなかった。

例えば何もない空間で突然物体が動いたら、それは矛盾と断定されるのだろうか。

あり得ないものにも理屈はあると、どこかの偉い学者が言っていた。

つまり、どんなにありえないことが起ころうと、必ずその現象を説明できる何かがあるということだ。


矛盾なんて存在しない、人の創作話ならともかくだが。


「UFO、ポルターガイスト、エスパー、まぁ色々あるけど、それは矛盾ではない。存在している時点で、矛盾ではないのだ。存在していないとしても、存在していないのだから矛盾ではない」


驚いた。彼女もそれは理解しているようだ。


「だから、外の外の外の世界から、この世界に何か、何か一つ、一欠片でもいい、それを持ち込めばいいんだよ。この世界において、それは存在しないのだから、存在することは矛盾になる」


その移動方法が証明できれば、それは矛盾ではないだろう。

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