一つのメルヘン、ナイン説
では筆者の本音の吐き出されたところで解決編といこう。一つのメルヘン、ナイン説。その根拠に迫っていく。
もう一度ナインの謎を提示しよう。
①空白の中堅手
②正太郎の正体
ナインを読み切ってもわからずじまいであったこの二つの謎がこれから明らかにされる。その鍵は一つのメルヘンの中にあるのだ。それではもう一度一つのメルヘンの全文を提示する。
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といつても、まるで
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの
狭い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……
それでは根拠を上げていくとしよう。
根拠1
まず一つのメルヘン作者である中原中也からである。中原中也の親友には後にいい感じの仲であった長谷川泰子を奪い取った文芸評論家の小林秀雄がいる。
ん? 秀雄? ひでお? なんとナインに登場する英夫と読み方が同じではないか! さらに秀雄と中也は親友であった。ナインに登場する英夫も正太郎と親友である。
根拠2
①空白の中堅手。彼は一体何者なのか? 明らかに小説内で存在することは明示されているにも関わらず、なぜか忘れ去られたかのように説明が存在しないのか。それは存在していないからである。彼は劇中世界にはすでに存在していないのだ。何故なら彼は一つのメルヘンの世界に存在しているためだ。
第一連、秋の夜。この秋とはもう戻れないということを暗喩している。一年において秋とは夏の次であり、冬の前である。つまり冬に入るともうその年は終わるということになる。そう、空白の中堅手はもう戻れないのである。
さらにはるかの彼方。これはもはや直喩だ。「向こうの世界」のことを表している。ナインの世界から見た向こうの世界に空白の中堅手はいるのだ。そして彼は小石という弱々しい存在となってしまったのだ。
根拠3
根拠2であげたように空白の中堅手は一つのメルヘンの世界へと飛ばされてしまった。そして彼は助けを求めているのである。第一連、第二連の表現である陽。これは空白の中堅手の助けを求める声なのだ。
この作品での陽の性質、表現をあげてみよう
・さらさら射している
・硅石のようである
・粉末のようである
・さらさらとかすかな音を立てている。
これらから考察するに空白の中堅手の助けの声は硅石の粉末のように目に見えない微細かつ弱々しいもので、かすかな音を出せるほどしか力がないことを表しているのだ。
根拠4
第三連にて登場する蝶。その蝶は狭く、くっきりとした影を落としている。
……む? 影? 皆よ、思い出してほしい。あの新宿区の少年野球大会の決勝戦で新道少年野球団がとった行動を。なぜ英夫は12回も投げ続けられたのだったか?
そう、それは主将の正太郎がかんかん照りの日差しににぐったりしている英夫の前に影を作ったからである。人一人分しか入らないほどの狭い影を正太郎は作り、英夫を助けた。
そして蝶が止まったのは小石の上、つまりは空白の中堅手の上である。蝶は小石に影を作った。言い換えると正太郎は空白の中堅手に影を作った。
そう、正太郎は時空を歩き、仲間である空白の中堅手を救いに来たのである。
根拠4
第四連にて蝶は去る。そしていつしか今迄流れていなかった川は水がさらさらと流れていた。
これは正太郎の行いのことを指している。ナインにおいて正太郎は仲間である英夫と常雄の欠点を自身の行動によって解消している。そしてそれは正太郎が去った後に起きていることなのだ。
つまり、正太郎は空白の中堅手の元を訪れ、そして去ることによって空白の中堅手を救ったのだ。水が流れず、乾き、終わりを迎えようとした彼を、正太郎は助けたのである。
以上の根拠をもとにナインの謎二つを証明する。
①空白の中堅手
彼はナインの劇中時間軸においてはすでに存在しておらず、一つのメルヘンの世界へと転移してしまった。そのためにナインの世界ではあたかも存在ごと無かったかのように説明が存在しないのだ。そして彼の弱々しい助けの声は正太郎へと届き、彼は救われたのだ。
②正太郎の正体
正太郎の正体は時空を歩き渡る超能力を持った人間である。彼がナインの作中においてわたしの前に現れないのは、その時に空白の中堅手を助けるため、ナインの世界から一つのメルヘンの世界へと飛んでいたからであると考えられる。そしてメルヘンの世界では蝶となり、小石の如き存在となってしまった空白の中堅手を助けた後、次の仲間を助けるためにさらに時空を渡り歩いたと考えられる。
これが筆者の唱えた
「一つのメルヘン、ナイン説」である。
念押しのために言っておくが、これはあくまでも「説」である。確定された真実ではないことを忘れないでほしい。そして皆には型にとらわれず、時代にとらわれることのない、自由に作品を楽しむ心を持ち続けてほしいのである。それが筆者の一番の願いだ。良い話をあまり聞かないこの令和の時代において、少しでも、こんな馬鹿げた話でもいいから、笑い合って生きられる世界になってほしいと筆者は思うのだ。
完
一つのメルヘン、ナイン説 NAO @913555000
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