月に照らされる

Chan茶菓

月に照らされる



時刻は深夜1時前。

仕事帰りは街灯のない道を歩く。

ワンポイントの長袖のパーカー、フードを深く被り歩く。

それは俺の中で絶対に譲らない、というわけでもないが決めている事だ。



フードを目深に被るので目線は自然と下を向く。



ふと斜め右下を見ると、俺と一緒に動いているものが見えた。


それは黒い影だ。




___影?

俺の頭の片隅に”違和感”という形で湧き上がる『影』という言葉。

街灯一つないこの暗い帰り道に、影がある。

影を辿り、明かりの元へと左斜め上に顔を上げる。



うろこ雲が空一面に広がっている。

その真ん中に一際光る大きなまん丸い光。



あぁ。そうか、今日は満月か。



いつもならコオロギや鈴虫の声が暗闇に溶けていくが、今日は一際明るい夜空に響いていた。


太陽のようなギラギラ鋭い光ではなく、明るいはずなのに包み込むような光。



夜空とは、こんなに心打たれるものだったか?

こんなに見惚れるものだったか?

夜空をこんなにマジマジと見つめた事はあったか?

そもそも、夜空を最後に見たのはいつだったか?



パサ、と音を立てて深く被っいたはずのフードが抜げた。

目の前がより明るくなる。


月に背中を預けるように後ろを向いた。



真っ黒な俺が足元にたっていた。



拳を握り、まっすぐ立っている。

その足元は俺と繋がっている。

俺を軸に立っている。



そうだ。俺も立っているんだ。

俺もこいつの足を軸に立っている。




俺は1人では無いのだ。






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