問、人間は機械ですか。部品ですか~そのシステムは崩壊してますか~

幽美 有明

そこは国という巨大な機械

 世界は機会と人間に溢れた。その昔、気が遠くなるほどの昔に。人は国、ひいては社会の歯車だと揶揄やゆされていたらしい。あくまでも、例えであり。部品だと思ってはいなかった時代の話。今や世界は国は。一握りの人間。そしてイアと呼ばれる、人工知能生命体によって作動する巨大な機械になっていた。


「さぁ、仕事だ仕事!」


 一握りの人間とイアによって作動する世界。それでも昔と何も変わらないのだと勉強した。かつての人間も同じように働き、同じような社会を形成していたと言うのだから。現在のようにイアが存在していなかっただけで。


『M7539514683、本日の業務は午前中はデスクワークです』

「わかった」

『では開始してください』


 人間は、生まれた時からイアと共に存在する。培養槽で生み出される時から、体内に詳しくは脳内に。イアの宿る小型機械が埋め込まれる。

 イアもまた人工知能生命体であるから。それぞれの人間に組み込まれるイアは、それぞれが別個体だ。オリジナルのコピーでもない。

 人間が人間を生み出す際。それぞれの人間に組み込まれたイアもまた、互いの情報を掛け合わせ新たな個体を作るのだ。人間に自我があるように、イアにも自我がある。だからイアは人工知能生命体なのだ。入れの中にいるイアとは生まれてからずっと一緒にいる。そして色々なことを学ぶ。知識や価値観多くのことをだ。


「仕事はどれくらい残ってる?」

『午前中の仕事は、残り半分です。時間的余裕は十分にあります。仕事効率が上昇してきているようですね』

「ありがとう」


 イアには自我がある。俺のイアという表現は正しくないか。相棒のイアはすごく機械らしい応対をする。組み込まれた人間に適した人格形成をイアは行うそうだから。俺に適した性格がこれなのだろう。実際ほかの人間のイアは、お喋りだったり。フレンドリーだったり。暗かったり。多種多様な性格をしている。イア同士も会話をするから、良く他の人間に。「お前に似て、イアもお堅いな」といつも言われる。そんなにお堅いだろうかと、イア共々悩むが答えが出た試したは無い。


「終わった」

『お疲れ様です』

「イア、昼は何を食べたらいい」

『塩分が不足してるようなので、味が濃いものがいいでしょう』


 仕事の管理だけではなく、体調管理もまたイアがしてくれる。昔の人間は、自分で自分の管理をしないといけなかったらしく。自己管理が出来なくて働けなくなることが多かったらしい。とても可哀想だ。


「候補は何かあるか?」

『ジャンクフードやラーメンなどはどうでしょうか』

「今日はラーメンにしよう」

『空いている店まで、ガイドを開始します』


 店が近くだったので、今日は歩いた。交通網はむかしと大差が無いのだと勉強した。テレポーテーション技術で瞬間移動をする。そんな研究が昔からされているが、未だに成功することは無いんだと言う。もちろん人間が培養槽で生まれることや、イアの存在など。技術的進歩は沢山あるが、人類の進化空想の多くは実現出来ていない。車は空を飛ぶが、人間が運転している。個人で車を所有することはないが、いつでもどこでも車に乗れる。そんな時代なのだ。


『午後はの業務は、セクターA56Cで取引です』

「わかった」


 ラーメンを食べ終え、今度は車で移動する。目的地を運転手に伝えて移動だ。食事の時も、今車に乗る時も。金銭取引は行われない。これからする取引もだ。かつては経済システムとして、金が必要だった時代があったらしいが。今は金という概念そのものが無い。それは世界、そして国が巨大なシステムそのものだからだ。全ては国、そして世界のため。仕事は国のためにする。そして食事や移動は結果的に国のためになるのだから。お金は必要が無い。食べなければ、人間は働けない。運転手がいなければ、遠くへ移動ができない。全てが繋がり、全てが循環するから。金が必要ないのだ。


「それでは、今回の取引はこのような形で」

「こちらとしても、問題は無いです」


 取引は順調に進んだ。当たり前の話だが、争う必要が無いからだ。この取引も全ては国のためになる。金がないのだから、利益を気にする必要もなく。取引自体が、国のためになるからするのだ。取引をすると決まった時点で、既に成功しているものだ。

 そもそも今の時代に、争い。犯罪という概念もまた存在しない。国のために働くのだから、争う必要が無い。もし致命的欠陥を抱えていて、暴力もしくは犯罪といったバグが発生すると。イアが人間を止める。脳にあるイアの本体から高圧電流が流れ、脳を焼くのだ。イアは人間にバグを生み出した責任があるので共に消滅する。使えなくなってしまったのだから、しょうがない。システムが完璧では無いから、仕方ないことだ。


『本日の業務は、全て終了しました。帰宅しましょう』

「わかった」

『ストレス値が上がってるので、帰宅後に気分転換はどうでしょう』

「ちょうどいいゲームあったか?」

『前回の気分転換時に、クリアしてないゲームがあります。まずはそれを終わらせてみてはどうでしょう』

「そうだな。クリアしたら別のを探そう」


 家に帰って、気分転換をする。食事をする。寝る。昔と何も変わらないし、今の世界の方が幸せだと思う。だから、昔の時代の人間は大変だったのだろうと思うのだ。

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問、人間は機械ですか。部品ですか~そのシステムは崩壊してますか~ 幽美 有明 @yuubiariake

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