人生初めて追放モノにハマりました

正直、Web小説界で今も流行っている追放モノと自分は縁がないと思ってました。生理的に無理だとすら考えていました。

理由は単純。主人公が追放され残った者たちが報いを受ける展開(いわゆるざまぁ展開)があまりにその流れありきで繰り広げられるから。予定調和とでも言いましょうか。

主人公こそ世界で一番! それをわかろうとしない奴らは酷い目に遭って当然の悪者!

悪者が天罰をくらうのは確かにカタルシスがありますが、主人公を持ち上げるためだけにやってるという意図が透けて見えて気持ちが悪いなぁと、モヤモヤした気分になってしまってました。

しかし、そんな私が初めて夢中になった追放モノが本作『魔法生物管理局を追放されたので、夢だった魔法生物カフェを開いてまったり暮らします(以下略』なのです。

冒頭、魔法生物管理局に勤めるフィートは上司からクビを宣告されます。やれやれお約束だなぁとため息をついていると、どうやらこの上司、自分の作ったマニュアル偏重主義の専門家で、実際に魔法生物たちと命がけで触れ合って絆を深めてきたフィートを疎んじている模様。

……おいおいおいおい、いてほしくないのにいてしまうよね、こういう役人! こういう専門家!

マニュアルに従えと上司はフィートに言いますが、そもそも魔法生物は魔法が使える”生き物”のことであり、常にマニュアル通りに行動してくれるわけがありません。だのにこの上司、自分の権威を傘に着て実際の魔法生物を顧みることなくフィートを追放してしまうのです。魔法生物たちを汚い獣だと蔑みさえして、ろくな飼育環境を整えないまま。

個人的なことで恐縮ですが私、怪獣やモンスターといった空想の生き物が大好きです。ゴジラはもちろん、ドラゴンやスライムといったファンタジー世界ではお馴染みのモンスターも、みんな愛すべき存在です。

そんな空想生物をよくもないがしろにしやがって貴様!! 主人公はどうせ後でチートでもなんでも使ってざまぁできるだろうが魔法生物たちはそうはいかないだろなんてかわいそうな事を!!!!

と、追放されたフィート以上にただの一読者の自分は怒り狂ったわけです。

しかしある意味この時点で、ようやく自分に合う追放モノに出会えたと嬉しくもあったのです。心の底からざまぁ対象を憎める作品に巡り合えたと!!(良いのかそれで)

こうなったらもうページをめくる指が止まりません。追放されたフィートは魔法生物のエルフキャットと出会いますが、その気性の荒さから人々に魔物(この世界における害獣)と呼ばれ、駆除対象となりかけていました。その現状を憂いたフィートはエルフキャットとの正しい付き合い方を知らしめるべく、我々の世界からの転生者である友人の話をヒントに、魔法生物カフェを開くことを決心するのです。

このエルフキャットがまたカワイイ! 手懐けるにはコツがいるものの、現実世界のネコを彷彿とされるツンデレっぷりには読んでるこちらもニヤニヤしてしまいます。こういう愛嬌あふれる魔法生物の描写が上手いんですよね。

人と空想生物が共に生きているこの世界観はポケットモンスターに似ているかもしれません。サトシとピカチュウの絶妙な相棒っぷりが好きな人にはきっと気に入ってもらえるでしょう。

一方で、”命は平等ではない”というシビアな面にも触れているのが自分は好感を持てました。フィートが魔法生物カフェにおいたエルフキャットは、あくまで彼自身の手に負える存在であり、そうはいかない魔法生物(魔物)はギルドの依頼があれば普通に退治し肉を食います。

フィートは命を平等に扱わない酷い奴でしょうか? 私はそうは思いません。人を襲うクマを銃殺するのに抗議する人がときたまいるようですが、ではそのままクマを放置して人命を危険にさらして良いのでしょうか?

飼いならせる生き物は大切にし、そうではない生き物は場合によって殺す。非常に人間本位で身勝手な差別ですが、フィートはそれを重々承知し、それでも救える命があるならと行動するのです。はなから命を守るつもりがない元上司とは根本的に違います。

やらない善よりやる偽善。私はフィートのこの姿勢を支持しますし、見守りたいと思いました。

私が読んだのはカフェが開店するまでのエピソードですが、案の定フィートがいなくなった魔法生物管理局は管理下の生き物たちが扱いきれなくなって大混乱。一方でフィートも人々に根付いた魔法生物への恐怖の感情に壁を感じる一幕があったりと、なかなか一筋縄ではいかなさそうです。

本作はとてもよく考えられ、よく練られた作品です。テンプレ展開に乗っかった安易な作りの作品ではないということは強く訴えたいです。

空を羽ばたくペガサスに憧れ、サトシと常にともにあるピカチュウを愛したすべての人にお薦めします。

ようこそ、魔法生物カフェへ。魔法生物たちとの素敵なひと時を、あなたに。