第5話 結婚
私は長いこと絶望の淵をさまよって、やがて心を改めた。都内に住んでいながら、兄弟で全く行き来がないなんて異常だった。あちらのご家庭も、我が家のことを心配しているだろう。会った時だけは、仲のよさそうなふりをするべきだ。それが兄に対する本当の愛なのだ。兄のことがまだ好きで、忘れられなかった。胸板の大きな兄に顔を埋めて、両腕にしっかりと抱きかかえられている時の幸福感と安心感。一番大変な時期を支えてくれた兄。あれは優しさではなく、性的に搾取するためのエサだったとしても、私は兄に救われたのだ。
私は兄に電話した。
「今までお兄ちゃんを避けてたけど、これからは祝福する。私、お兄ちゃんが好きすぎて受け入れられなかったの・・・」
私が泣いて弁解すると、兄は俺も悪かったと謝ってくれた。
「私、お兄ちゃんのお嫁さんになりたかった。一生一緒にいたかった」
「俺もそのつもりだったけど、俺たち近親相姦だから・・・」
兄は身もふたもないことを言って弁解する。普通の女性と付き合えるようになって、私が邪魔になっただけだ。
「お兄ちゃんから誘ったんじゃない」
「俺もお前のことが好きで・・・我慢できなくて。ごめんな」
***
赤ちゃんは無事産まれたそうだ。ずっと流産か死産になることを願っていたが、奥さんは入院したりもせず、8カ月まで働きながら無事出産を迎えたらしい。子どもの性別は女の子。義理姉は、今、32歳だから、余裕でもう1人産めるだろう。何から何まで恵まれていて腹立たしい。
赤ちゃんが生まれて1ケ月経った頃、私は新居に遊びに行った。横浜の某所にある、3LDKの新築一戸建て。共有で購入したそうで、かなり立派だった。6,500万くらいと高額だった。兄たちはいわゆるパワーカップルで年収1,000万は余裕である。中小零細の事務をやっている私とは、そもそも住む世界が違う。私は兄の奴隷か使用人のようなものだったと気が付く。
***
私は1年ぶりに兄と再会した。頑張って笑顔を作るが、2人の前にいるとどうしても泣いてしまう。
「どうしたんだよ」
兄は笑いながら言っていた。兄嫁は、兄が立派に結婚して、子どもまで出来たことを喜んで泣いていると勘違いしているみたいだった。
「実は私、兄の子どもを妊娠してるんです」
私は打ち明けた。おなかをさすっていると、本当に子どもがいるような気がしてくる。奥さんは固まっていた。
「兄は避妊しない人だったので・・・」
「お前、何言ってるんだ!お前、子宮全摘してるから子どもできないだろう」
姉はその反応を見て、事実だと悟ったらしい。賢い人でよかった。
「私は小学校の頃から兄に悪戯されていました」
「えぇ!ちょっと待てよ。そんなことしてない!」
「兄はロリコンで、妹フェチだったんです。小学生の頃から私の裸の写真をたくさん持ってました」
「嘘だよ!」
兄はうろたえていた。
「私、兄が怖くて逆らえませんでした。私は10代の頃も、ずっと彼氏もいなくて、兄の奴隷でした。みんな彼氏がいて青春してる時に、私にはその時代もなくて・・・25歳の時、子宮頸がんになったんですけど、兄にウイルスを移されたんです。私は兄しか知らないので・・・兄は私を一生幸せにするって言ってたのに、好きな人が出来たって言って、私を捨てたんです。本当は祝福してあげるべきだったと思うんですけど、うつ病になってしまって、どうしても真帆さんに会えなくて。
でも、その赤ちゃんもきっとそのうち、兄の餌食になるんだろうなって思うと辛くて・・・それは絶対言わないといけないなと思って、今日は頑張って来ました」
私は涙ながらに訴えた。
「ロリコンは一生治らないです。保証します。」
「博之さん、なんてひどいことを!」
義理の姉は泣き出した。いい人らしい。こんな風に出会うんじゃなかったら、きっと仲良くなれただろう。
「お前、何でそんな嘘つくんだよ!」
「博之さん、本当なんでしょ?妹さんに謝りなさいよ。嘘だったらこんなこと言わないよ」
義理姉は半狂乱になっていた。
「大変だったね。話してくれてありがとう」
姉は私を慰めてくれた。
***
その日、奥さんは実家に帰ってしまい、そのまま戻って来なかったそうだ。兄はそれからしばらくして離婚した。
私は兄に殺されるかと思って怯えていたら、向こうから謝って来た。
「そんなに好きでいてくれると思わなかった」と。
私は今、兄と一緒に新築の家に住んでいる。
私は兄と結婚できてとても幸せだ。
そういえば、私は手術前に私は卵子を冷凍保存していた。
代理母を使えば2人の子どもを作れる。
今の夢は、兄との子どもを共に育てることだ。
その目標に向かって、私は前向きに頑張っている。
私の兄 連喜 @toushikibu
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