第56話 見届人

 私の名前は桂子。


 私は夫を愛し、気心の知れたパートナーたちと大切な日々を育みました。

 幸いにも、私たちは子宝に恵まれ、私でさえ、子供を授かれました。

 私は人間ヒトではありませんでしたが、政府の卵子バンクに登録されていた過去の身体むかしのわたしに備わっていたを用いることで、子を成すことが可能でした。


 やがて、夫もパートナーたちも去り、次代に彼らの思いは託され、私は後見人となりました。

 歳を取ることのない私。

 筐体からだにガタが来れば、私自身なかみを新しい筐体からだに移すだけで、私は存在できます。

 当初は、視覚と聴覚のみであった感性の回路も、筐体からだを切り替えるごとにその枠は広がり、限定的ではありながらも五感 (視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を取り戻すことが出来ました。


 私は私であることに疑念を持ちながらも、日々を送っています。

 私は何者であるのか?

 私は何処に向かおうとしているのか?


 これは私が私である限り、永遠の命題なのかも知れません。


 今、ひ孫の二人が私という存在に挑んでくれると言ってくれました。


 とても楽しみです。

 私自身、自分が何者なのかを定義出来ていないのですから…


 私は桂子。

 生ける人工知能オーパーツ

 かつては人間ヒトであり、電子の海へこの身をやつしてしまったモノ。

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aiDoll たんぜべ なた。 @nabedon2022

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