第10話 赤いアネモネの花2/2

「カーサン、私イツキの元に行って来る!」と言ってマリィはベッドから降りて走り出した。

マリィはたくさん血を失ったのにニガヨモギの治療のせいか、はたまたカーサンの看護が良かったのか元気いっぱいだ。

マリィ良かった…と胸をなで下ろすカーサン。


マリィが宿屋の廊下まで行くと、イツキは目の前が見えない程の花を持って廊下を歩いていた。

「…イツキ!」マリィが声を掛けると、驚いたイツキが花を落とす。

「マリィ! 目が覚めたのか!」とイツキは嬉しそうに声を掛ける。

マリィはイツキにそっと近づいた。そこにはどことなくいつもの子供っぽさが抜けたような気がした。

イツキ「マリィおいで」と言ってそっとマリィを抱き寄せた。

マリィはイツキの腕の中で微笑んでいた。

そっと離れるとイツキはマリィの頬に触れてこう言った。

「…ずっと君を守ります」

マリィは愛おしいパートナーの目を見て言った。

「私もあなたを守るわ…」

ふたりで微笑み合うとそれは神様に一生の幸せを約束されたように感じた。

イツキは思わず笑って言う。

「あの幼稚な人が! ここまで強くなるとは‼」

マリィは頬を膨らませて「何よ!」と怒った。

イツキは「マリィ、俺が置いた赤いアネモネ花の事は気が付いてるでしょ?」とマリィに聞いた。

「…カーサンがイツキのところに行けと言ってくれたのよ。私の感ではないわ」

マリィはそう答える。

「…ふうん」

とイツキは含み顔で答えた。

マリィは不思議に思えて「何か知っている顔ね」とイツキに問う。

「ああ、マリィは知らなかったよねえ。カーサンの本名」

イツキは解った顔をして笑う。

マリィは自身のカーサンへの謎が増えてしまいイツキに問うた。

イツキは答える。

「実はカーサンって歌姫なんだよ」

マリィは驚いて絶句する。

「マリヤカラスって知ってる? 異国の歌姫だけれども」

「…知らないわ…」

イツキは苦笑する。

まあ、カーサンの現在の武骨な体格ではまさか歌姫だとは誰も思わないだろう。

「カーサンにマリィの前でも歌って貰おうね。そう時間は掛からないさ」

マリィはイツキの発音にまた不思議に思う。

「…そう時間は掛からないさ?」

「あるだろう必ずたくさんの人に歌って貰える時が」

イツキは覚悟を決めている。

マリィは驚きを隠せず頬を赤らめる。

思えばマリィの初恋はニガヨモギの生命を犠牲にしてしまったものだった。

何分やり方の汚いニガヨモギだったが、単に暗黒魔法の家系に産まれてしまった運 命をマリィが救えなかったからこんな事になったのではないか。

マリィの中に迷いが生まれた。

「…マリィ」

いつの間にかマリィの唇はイツキによって塞がれていた。

マリィは思わずイツキの唇を払う。

マリィの胸は張り裂けそうにドキドキしていた。

「マリィ、もう俺がいるんだから。迷っては行けないよ」

何故イツキは自分の思っている事が解るんだろう。

マリィは苦笑する。

「…そうね。イツキがいるんだもんね…」

そしてマリィは無言でイツキの唇を塞いだ。

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自然の中のマリィ~マリィの初恋~ 大野真愛 @oonomariya_1224

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