第9話 赤いアネモネの花1/2

ようやく目覚めたマリィのベッドにはたくさんの花が飾られていた。

しかしひとつも枯れていない事に気が付くマリィ。

「カーサン…いるの…?」と目覚めたマリィはカーサンを呼んだ。

窓辺でタオルを洗っていたカーサンは「マリィ起きたのね」と声を掛ける。

マリィは悲しげに「イツキ、イツキは助かったの…」とカーサンに問う。

カーサンは「ええ、もちろんよマリィ」とマリィに言い、マリィは顔をぱあっとほころばせる。

そのときマリィは左手を見ると、その陶器のような皮膚には痛々しい大きな傷が付いていた。

「反転秘術…成功したんだ…」と言ってマリィは笑う。

そしてマリィは自身の腕が縫われている事に気が付いた。

「ニガヨモギ、ニガヨモギは!」マリィがカーサンに問うと、「…行っちゃったわ」とカーサンは肩を下ろす。

「マリィ、よく聞いてね。その花の理由よ」カーサンはマリィにそっと言い聞かせた。

「イツキは花を取りに行ったから今いないのよ」


カーサンが言うには、イツキは自分の為に倒れたマリィの大きな酷い傷に驚くとカーサンから事情を聞き愕然としたそうだ。

マリィは反転魔法を使うためにイツキの為に生き血を捧げ、何度もその陶器のような肌を割いたとカーサンはイツキに話したと言う。

マリィが言うには生き血を絞り取れれば別の生物の血でもこの反転秘術は使えるらしい。

しかし簡単に死んでしまう生き物の生き血程効果は薄いし、そもそも死ななくていい生き物を殺す選択は出来ないとマリィは言い切ったという。

イツキは想像を絶するマリィの自分の為の行動にたじろいだ。

そして自分の身を割いてまで自分を助けたい程マリィに愛されていたのかと涙が出る。

そしてマリィの痛みを想像してイツキは絶望する。

自らの身を割く痛みとはどれほどの苦痛なのだろう。

マリィは自分の為に身を割いて生き血を捧げた。

何度も身を割いて。

何度も何度も何度も何度も…。


「イツキ…」

カーサンはイツキにそっと手を添える。

「マリィはね。ああいう事を誰にでもやってしまうのよ」

イツキはその言葉を理解出来ずに驚く。

「誰かを生かす為なら自分が犠牲になっても構わない。マリィはそういう子なの。だってマリィは一緒にいてずっとそうだったでしょ」

カーサンは笑う。

「あの子はね…酷く迷惑な子なのかも知れないけどもね…だけども私は偉大な子だと思う。私はマリィに出会えて良かった」

イツキも思わず笑う。

何だかおなじ人間なのかとマリィを疑ってしまう気持ちはイツキもカーサンも感じていた。

だけれどもイツキは今、マリィに特別な感情を持ってしまっている。

イツキは答える。

「はい、俺もマリィに会えて良かったです!」

そしてイツキはマリィの腕の縫い糸に気が付く。

こんな弱小パーティにこんな細密で丁寧な医術を施す金銭的余裕は無い。

「ニガヨモギがね…マリィの手を縫ったのよ…こんなに身体を裂いたら普通は死んでしまうからね」

カーサンは笑う。

「ニガヨモギはよっぽどマリィが好きだったのね」

イツキは思う。

ニガヨモギは悪い人ではないと。

「そう言えばニガヨモギは?」

ふとイツキはカーサンに問うた。

「ニガヨモギはマリィの反転秘術で自分の魔法が返ってしまったから。もう余命幾ばくも無いの…それでもマリィは出来るだけ余命を伸ばすって言っていたけれどもね。ニガヨモギは美味い酒を飲みに行くって言い残していつの間にかいなくなっちゃったわ」


「そんな事が私の寝ている時にあったんだ…」とマリィは驚いていた。

マリィはベッドの花瓶にわざわざ分けて飾られている花が赤いアネモネの花である事に気がついた。

アネモネの花の汁は皮膚に付くと皮膚炎を起こすからだろう。

カーサンは言う。

イツキの所に行きなさいと。

イツキはマリィに不器用な自分はマリィに花を捧げる事しか出来ないからと言っていたからとメーテルは笑う。

そしてマリィは赤いアネモネの花の花言葉を知っていた。


「赤いアネモネの花の花言葉は、『君を愛す』だわ…」

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