わるいこ

寝る前、新しくなったカードに貼ったシールを眺めているとぼくは胸のあたりが苦しくなった。今日全力で走ったときのとは少し違った。あのときのお母さんが苦しかった分がぼくに返ってきてるのかもしれない。

裏返すとお母さんのきれいな字で「いいこポイントカード」と書いてあった。ぼくはおもちゃ箱からクレヨンを取り出すと「いい」の部分を消して「わるい」と書いた。お母さんの字とは全然似てない。ミミズみたいな字だった。


「空、何してるの?」急に声を掛けられてびっくりした。ぼくは慌ててカードを隠した。

「ううん、なんでもない……」

「そう?そういえば空、空の考えたお願いってなんだったの?」

「え?あ、ううん、もういいんだ」

ぼくはお母さんを布団に引っ張っていった。

「今日はこれ読んで!」

「空は本当にこの本好きだね」

お母さんにいつもの本を読んでもらって、ぼくは夢の世界に行った。



翌朝起きると、隣にお母さんがいなかった。もう朝ごはんを作っているのかもしれない。

キッチンに行こうとすると枕もとに小さな木箱が置いてあるのに気が付いた。箱の上にカードが置いてあった。ミミズみたいな字で「わるいこポイントカード」と書いてあった。まるでぼくの字……いや、ぼくの字そのものだった。裏返すと、昨日貼ったシールの続きのマスが真っ赤なクレヨンで塗りつぶされていた。

なんで……?ぼくはこんなことしてないのに!


箱を見るとぼくがやっと抱えられるくらいの大きさだった。昨日のプレゼントのようにラッピングはされてなかった。……お母さんが置いていったのかな。

膝の上に乗せてゆっくり蓋を持ち上げる。少し空気が入ったような重さを感じてスポっと蓋が取れた。しかし、それをどかして中身を見る前にぼくは蓋から手を離してしまった。蓋はもとの位置に被さった。

手を離してしまったのは中から変なものが出てきたからだ。赤っぽくて少しどろどろしてる……。箱からずっと出ているそれは、ぼくのズボンに染みて床にまで広がっていった。そのぬるっとした感覚に前に鼻血を出したときのことを思い出した。あのとき、なかなか止まらなくてぬるぬるして気持ち悪かった……。箱から出ているこれもそっくりだ。


「っ!!」


思わず木箱を乱暴にどけてしまった。木箱からはまだまだ赤い液体が出続けている。いくらあの箱いっぱいに入れたってもう止まってもいいはずだ!それでもあの箱の中が別の場所につながっているみたいに液体があふれていた。床はもうびちゃびちゃだった。

よくみると箱の端から何かが見えていた。赤に濡れている小さい四本の……。その正体に気づいてしまったぼくは座り込んでしまった。お尻の下がびちゃっと音を立てて、生ぬるい感覚が伝わってきた。


動けないでいると赤い液体に流されてきたのか、ぼくの手には「わるいこポイントカード」があった。ぼくは保育園で考えた「とびっきり」のお願いを思い出した。




ぼくは……「兄弟」が欲しかったんだ。

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