別の物語

天使像でも町おこし

 佐藤は3年の入試の時に見事に落ちた。神大、太平洋、八景学院、相模、新子安大学…ものの見事に全部落ちた。彼の偏差値は何と3教科で38しかなかった。

「探せ!どこかに受かる大学はあるはずだ!!」

教会員が総出で探した大学に彼が受かった大学は厚木学院大学というミッション系の大学であった。厚木の山奥にある大学である。拓哉や洋子と友人だったことから佐藤もスターレット資格を目指した。聖職者課程はどうにか3年に取り終えた。聖書100点免除を武器に世界史100点を4回目にしてようやく合格した。みんなで喜んだ。しかしペット霊園の需要は限られていた。そこで東北のある神父が発案したプロジェクトに彼が最前線で行う事となった。

「君は洗礼を受けてないよね?だったらカトリックだ、プロテスタントだなんでしがらみは無いよね?」

「はい」

彼は横浜司教区のスターレット職に内定が決まった。この時、もう大学4年の1月になっており卒業式まで2か月前であった。


 これはもう一つの町おこしの物語


◆◇◆◇


20XX年、日本。

日本は未曽有の少子高齢化・人口減少により廃村が相次いでいた。

たしかにペット霊園は都市部の空き家問題を解決した。

だが、それは都市部や郊外の話。地方では誰も人が住んでいない廃村があちこちに点在する。どうしたら廃村を蘇らせるのか・・・。

その時坂田洋介神父は見た。

石仏だ。石仏の周りを「宗教法人」の所有と言うことにして固定資産税が掛からないようにしてるのだ。しかし廃屋を解体する費用がないのか空き家のままだ・・・。

ーここは廃村が多い。石仏が朽ち果てて行くのが目に見えている。

周りを見渡す。周りは森林しかない。

まてよ、森林!?

そうか、オーストリアと同じ事すれば!?

この発想が彼が起こした地域創生物語の出発点だった。

 持って来たのは木質バイオマス用のボイラーと発電機。そう発電事業で廃村の村をよみがえらせるという秘策を取ったのだ。オーストリアは木質バイオマス発電の先進国。原子力発電が法律で禁止され、他国から原子力で発電されたものを輸入することも禁じられたオーストリアは森林大国であることを逆手に木質バイオマス発電を積極的に行っている。おかげで天然ガスや石油の輸入量も減ったのである。とはいえ、「持って来た」のは小型の木質バイオマス発電機である。バイオマス発電所のような巨大プラントではない。それでも小型のバイオマス発電機とは言え家10軒分の年間発電量を誇る。しかも太陽光と違い天候に左右されない。そう、雪国でも再生可能エネルギーで安定供給ができるのである。しかも風力のように低周波公害も起きない。

まず、売電で収入は確保である。

この売電で得たお金で廃屋礼拝堂に改造する。そこに天使像を置き、礼拝することができる。教会と違うのはミサなどはやらないという点にある。あくまで天使を礼拝するための施設である。

間伐材ロボットが樹の間伐を行い、間伐材収集ロボットが間伐材を拾い工場に持って行く。次にペレット化をする機械が自動的におり、あとはペレットボイラーでタービンを回すだけである。

冬は間伐材を集めることが難しい地域は秋の間に備蓄する。工場内の清掃と機械の故障時に業者が対応して終わりである。さすがにペット霊園のように1日6時間労働というわけにはいかないが1日8時間労働にぴったり収まった。

家にはペレットストーブもある。キッチンはIHクッキングヒーターである。管理人は機械のメンテナンスを1人で行うだけである。それと礼拝堂の清掃も・・・。

買い物も基本ネット通販でOKという状態である。

こうして「ぼっちでコミュ障」でも勤まる職場が日本にまたしても誕生したのであった。


◆◇◆◇


 佐藤守が配属されたのは神奈川県山北市の天使像兼宿坊施設がある場所である。まず、売電で得たお金で家屋の解体を行うこととなった。そもそも解体費用も無いから廃屋になるのである。そして廃屋は不審者、不審物の巣窟になる。廃墟マニアの不法侵入も後を絶たない。こうした負の連鎖を断ち切ったのであった。横浜司教区は山北市にある山林ごと買ったのかって?

違う。単に間伐材の権利を買っただけである。当然、権利料を地主に支払うことになる。今まで山林は地主にとってただの重荷でしかなかったのがお金になった瞬間であった。もちろん林業が盛んな時代は元からそうだったのであるが・・・。

さらに売電でお金で天使像を作る。これが無いと宗教行為とみなされない。残ったお金は機械の保守費用と人件費である。こうしてわざわざ都会に人が流れる心配がこれで無くなった。それどころか佐藤のように横浜市から移住する人間が出たことになった。

究極のエコシステムをこうしてカトリック教会が作り上げた。

本場オーストリアから逆に視察団が訪れたほどである。そもそもオーストリア自体がカトリック教国である。教会の運営費になると大絶賛であった。日本製ロボットを見るたびに「ハイテク!」と驚いている。

すべてのロボットがAIで動くのでモニターを佐藤が監視するだけである。山北市から始まったこの「天使像で町おこし」プロジェクトは全国の地方に広まって行った。


◆◇◆◇

 

 天使像はまず4大天使から作り上げることとなった。しかし仏教の七福神のように7大天使という形にして護符を集めるという形にすることとした。

さて、残り3天使をどうするか・・・。

ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル、ラジエル、オリフィエル、ザカリエルが基本7大天使とされている。しかし自分が所属するカトリックはウリエルを4大天使から外しているのだ。処罰の天使というだけあって畏れ多く一回なんと公会議で墜天使つまり悪魔に落とされたことがある天使なのである。後の公会議で名誉回復した天使だが...

またサマエルはエデンの園の蛇、つまり魔王と同一視される墜天使なので外すこととなった。

そこで替りにハニエルとラジエルを入れようと言うことになった。7大天使めぐりがこうして完成した。ミカエル像、ガブリエル像、ラファエル像、ハニエル像、ラジエル像、オリフィエル像、ザカリエル像がそれぞれ作られることとなる。護符めぐりもミカエル→ガブリエル→ラファエル→ハニエル→ラジエル→オリフィエル→ザカリエルとなる。護符が欲しい人や拝観希望者は予約制で拝観できることとなっている。


◆◇◆◇


 こうして「ボッチ、陰キャ、コミュ障大歓迎。1人で黙々とできる簡単な作業です。ニート・フリーター大歓迎。もちろん正社員。月収24万(手取り22万)。1日8時間勤務。洗礼の有無は問わないし宗教不問。夏ボーナス1か月、冬ボーナス1か月支給。完全週休2日」の求人広告に人が殺到した。佐藤もその1人である。それだけではなかった。パート主婦も生活していく年金額が足りない老夫婦も次々応募した。

 ペット霊園管理人兼宿坊管理人の給料よりも2万円高い反面、勤務時間も2時間長い。スターレット資格は必須とした。この木質バイオマス発電所管理人兼礼拝所管理人の最大の特徴は地元で働けると言う点にある。それどころかUターン就職もJターン就職も出来る点にある。

 仏教系の宿坊に行く方が「ボッチ、陰キャ、コミュ障」にとって需要も就職先も多いという部分をこれで解消した。たしかに日本全国津々浦々仏教寺院はある。しかも墓地は地方ほど参拝者もあまりおらず荒れてしまう。しかし発電所ならば別に僻地でも構わない。要は送電線があればいいのである。

土日に参拝客が来るので基本平日が休みとなる。それも連続して休みが取れるのだからうれしい限りである。こうしてミッションスクールにおけるスターレット資格者需要の増大を起こすことに成功した。


◆◇◆◇


 木質バイオマス発電所兼礼拝所管理人は寮に住むことによって住居費がタダに出来る。つまりペット霊園管理人兼宿坊管理人と同様住居費はタダなのである。それだけではない。ペット霊園の横にある宿坊に泊まると礼拝堂の無料拝観券を一泊につき1枚もらえることになっている。もちろん都道府県別の無料拝観券となっている。お互いを支えあう仕組みになっておりペット霊園横にある宿坊の宿泊需要を増やす目的としても機能する。

 彼ら木質バイオマス発電所兼礼拝所管理人が旅行でペット霊園横の宿坊に泊まると福利厚生の一環として40%OFFとなる。40%OFF分はカトリック側が負担することになる上に優先的に予約を受けることができる。ぼっち旅行好きにはたまらないシステムなのだ。いつ都会が恋しくなっても気軽に一泊二日の旅行に出ることが出来るのである。

 売電先もカトリック教会が優先的に買うシステムになっている。つまりエネルギーが自給できるシステムが完成している。つまり月々の電気代を支払う事でちょっと社会に適応できない人を社会参加させる仕組みがこうして完成したのである。電力自由化によって実現したマジックと言えよう。なお、新電力の会社名は「天使でんき」である。


◆◇◆◇


 木質バイオマス発電所兼礼拝所管理者はいきなり1人勤務となるわけではない。またボイラー整備士の資格取得も義務である。これがないと1人で業務に付けないのである。それまではたとえお互い苦痛でも2人勤務で仕事することになる。マニュアルは完備されている。機械が新しくなるたびにマニュアルは新しくなるので覚えなおす必要があるのだが・・・。

 ボイラー整備士の資格はなめてはいけない。文系卒が多いこの世界で理科系の知識を勉強するのは大変な事なのである。神父らは仕方なく補習講座を作ることとなった。ボイラー整備士の合格率は70%近いとはいえ、油断はできない。ボイラー整備士合格後は「整備の補助業務に6か月以上従事した経験を有する者」でないと免許を取得できない。つまり合格後最低6カ月は補助業務のままなのである。佐藤は2年もかけてボイラー整備士の資格を取得した。もう一人の伊藤正則が人間嫌いで極力人間と関わわないというタイプだったからこそどうにかこの職場に耐えきったともいえる。

 そう、木質バイオマス発電所兼礼拝所管理者は単に聖職者というだけでなく建築設備のプロという意味にもなるのである。したがっていくら「ぼっちでコミュ障」と言えども1~2年は補佐業務で2人態勢で業務をこなすことになる。さすがに寮も2人というのはつらいだろうから、空いている寮に移動する。


◆◇◆◇


間伐材の乱伐は厳禁なのでその場合は輸入品木材ペレットに頼ることとなる。この場合間伐用ロボットも必要なくなる。そしてロボットを使い人件費を削減しているにもかかわらず輸入ペレットに頼らざるを得ない部分がある。そのくらい海外の木材は安い。しかし海外から間伐材経由のペレットを輸入するとなると輸送中に原油を使用していることになるのでエコじゃなくなってしまう。そして間伐材どころか樹そのものを切り倒す乱伐が起きているのも現実である。

 現在神父だけでなく木質バイオマス発電業界は杉の間伐をすることによって医療費からも援助を受けられるようシステムを整えることにしている。杉間伐をするとスギ花粉排出量が抑えられ、イコール医療費の抑制につながるからである。逆に言うとそのくらいもう日本の山林は荒れ放題のうえで本来樹そのものを切り倒す時期に来ている樹を放置しているがために起きている現象である。「スギ花粉現象のためにも木質バイオマス発電の普及を」とCMを打つことによって木質バイオマスの理解を得られるべく努力している。


◆◇◆◇


廃村にあった石仏はなるべく近所の寺に移設することにしている。神社の場合はそのあたりだけ残す形となる。発電所とペレット貯蓄室と寮と礼拝所は廃屋をなるべく改造したものである。それ以外の廃屋は解体されることとなる。完全に朽ちている廃屋は当然解体して新設ということになる。

 こうして「ぼっち」町が完成した。しかし難関はまだ待ち受けている。道路の崩落時の修復や水道管の老朽化と言った問題である。こういった問題もなるべく教会がお金を出して対処するようにしている。

 廃村から生き返ったぼっち町の子はスクールバスまたは自転車での通学となる。近所にあった周りの学校も統廃合して消えている。これが日本の現実なのだ・・・。

 本来は学校を買い取る方が楽である。しかし学校は公有地。宗教法人が買い取っていい場所ではなかった。朽ちて行く元学校の施設。なんかいい方法は無いものであろうか。

 自家用車も電気自動車である。自家消費とはまさにこのこと。自分で発電したエネルギーを入れるため実質0円である。小中学生が乗る自転車は電動自転車で高校生になると電動原付バイクとなる。

 ぼっち町の激増により変化が起きた。元ガソリンスタンドが充電スタンドに変わったのである。こうして急速充電器でチャージする。たまに洗車もする。少しずつであるが人が農村に戻ってきたのである。


◆◇◆◇


更地になった場所でキャンプを開くことが可能になった。つまりキリスト教青年団のキャンプ地にもなるのである。万が一の時は寮に逃げることも可能である。つまり、ここは更地ではない。教会が保有する「キャンプ場」なのである。もっとも「ぼっち」でも出来る仕事である。お金を取ってあとは火の始末とゴミの始末さえ出来ればいいのである。

 キャンプに来るのはやはり外国の子どもたちが中心である。超少子化が進行しているため日本の子どもがキャンプに来ることはなかなか難しい。

 ある管理者がこう提案した。教会経由で申し込むと言う形でキャンプを通年開場することはできないかと。その意見に賛同があつまりキャンプ場があちこちに出来上がった。

 また少子化を理由に閉鎖されていたキャンプ場も木質バイオマス発電所、ペレット貯蔵所、礼拝堂が設けられた。これは外国人の子弟が多いカトリックだから出来た話である。

逆にプロテスタントは外国人信者が少ないためキャンプ場運営は苦しく再開にこぎつけられるキャンプ場はまだ多くない。現在プロテスタント系は将来文化財となる何かを展示する事を模索中である。


◆◇◆◇


周りは誰も居ないということは近所付き合いも無いということである。コミュ障にとって最高のロケーションである。子供がコミュ障になっても親の跡を引き継ぐだけでいいので将来に絶望することが無くなった。もっとも対人コミュニケーションに問題の無い子にとってこの辺境暮らしは苦痛そのものであろう。ゆえに大学・専門進学時または高校就職時に都会に流れてしまう者が多い。

しかしブラック企業に就職して戻る子も多い。その時親と親の職業の凄さを身に染みるという。人間と触れ合うことが果たして幸せだったのかと言う哲学的問が常に突き付けられる。ぼっちこそ幸せな生活なのではないかと。

 また仮にそのまま都会に移住する子が多くても替りに都会で生まれたコミュ障の子どもが大人になって木質バイオマス発電管理人兼礼拝堂管理人として地方に移住するので人口減にはつながることは無かった。

 物は通信販売や巨大SCですべてそろう。何も不自由などない。ネットにつなげばいつでも親友に会える。コミュ障と言ってもネット上ではコミュニケーションが出来る人が多いのであまり僻地だからと言って不自由することなど実はないのである。


◆◇◆◇


もちろん木質バイオマス発電所兼礼拝所管理人にも巡回調査員の調査対象である。業務が楽とはいえさぼったりしてないかをしっかり監視する。もしサボっている場合は懲戒解雇となる。特に発電所のメンテナンス、礼拝所の掃除、ロボットのメンテナンスを怠った場合は懲戒解雇となる。そこまで酷くなくても明らかに酷い場合はペット霊園管理兼宿坊管理者同様に「ベルフェゴールカード」を渡す。便座に座っている変わった悪魔の絵が描かれたカードを満3年間で3枚もらった時点で懲戒解雇処分となる。もっともそのような人物はめったに居ない。

 また人手が足りない場合はバイトを雇うことが許されている。夫婦ともに1か所で勤務することも可能である。夫正社員、妻パートと言う形で可能である。ただしこの場合は世帯年収が大きく下がる。

 逆に新人研修する側になった場合は特別手当を支給されるがなにも新人に教えなかったりパワーハラスメント、セクハラ等を起こした場合も懲戒解雇となる。ごくまれにいるが非常に残念なケースとなる。佐藤は幸いなことに「ベルフェゴールカード」をもらったことが無い。


◆◇◆◇


ペット霊園の時も行ったのだが、外国人研修生を入れることとなった。特に森林が豊富で奥地がある国で電力が不足している国から来る外国人研修生である。まずアフリカ諸国が選ばれた。次に中南米諸国特にコロンビアやブラジルが選ばれた。木質バイオマス発電用ボイラーの動かし方、日本語の勉強はもちろんの事ロボットの手入れや遠隔操作などを学ぶ。全部1人で行うことになる。木質バイオマス発電所は電力不足の地域には文字通り福音となるだけに研修生は真剣だ。休日はやはりこれでもかと外国人研修生は神社仏閣に通い日本文化を堪能する。また「ぼっち」で「コミュ障」でも務められる職場を構築するかと言うこと考えられて作られたこの職場は全くと言っていいほど研修生との摩擦は起きなかった。ただし、外国人研修生用の寮も用意する必要が生じた。そしてまたちょっとした「町」が増えて行った。

アフリカ諸国も南米諸国も中米諸国も治安が悪く、経済もうまく行っていない国が多い。まずエネルギーの自給自足を強化し、自国通貨を強くしていかないといけないのである。

 それだけではなかった。水道、特に下水道が碌に整備されていない。こうして合併浄化槽も整備していく必要が分かった。場合によっては浄水場もである。浄水場にはポンプが必要である。水道を敷くには電気も当然必要なのだ。

 今度は我々日本人が木質バイオマス発電と礼拝堂と寮と上下水道を建設することとなる。その話は後ほど・・・。


◆◇◆◇


ぼっちで、コミュ障を救うのはなにも社会に出た人だけではない。バイトもままならない(出来ない)大学生にも住み込みバイトとして斡旋することとなる。特に夏季休暇に入る時期でもあり、またキャンプの需要が最も多い時期は募集する。学生バイトにはもってこいなのだ。バイトするにはスターレット資格の聖職課程を受けていることか、既にスターレット資格を持っていることが条件である。こうしてボイラーの運転方法やロボットの遠隔操作方法、キャンプの清掃などを行う。バイトであっても正職員と変わらぬ月収を手にする。そのお金で運転免許の費用などに充てることができる。バイト歴は事実上のインターンとして就業証明書を手にすることができる。つまり就職時にさらに有利になるわけである。もっともこの仕事に向いてないと分かった時はペット霊園兼宿坊管理人に志望を変えるもよし、一般企業や公務員に志望を変えることも仏教の住職兼宿坊職や神道の宮司に志望を変えることも可能だ。また、バイトの期間はボイラー運転士資格の実務経験要件期間には合算できない。

バイトを入れることは重要である。木質バイオマス発電所兼礼拝所管理人がベルフェゴールカードをもらうことを防ぐことにも役に立つ。もっとも人格に難ありのコミュ障はバイトを入れる事すらためらうので難しいのだが。

結局外国人研修生用やバイト用の寮も必要ということで廃屋を転用する家が増えることとなった。


◆◇◆◇


ペット霊園兼宿坊管理人の時と同様、「ぼっち料理教室」を開くこととなった。当然食生活の乱れを防ぐのはもちろん、住込みのバイトが来たとき毎日コンビニ弁当ではバイトの方がまいって最悪バイトが辞めてしまうので木質バイオマス発電所兼礼拝堂管理者には職務命令つまり出張で来てもらい料理を学ぶことになる。そこがペット霊園兼宿坊管理人と違う部分である。僻地で勤務しているということの重責を感じる瞬間となる。コミュ障なのに料理教室なんてうまく行くのかと言う方もいるだろうがコミュ障でもマンツーマンなら案外うまくいくものである。

「ぼっち料理教室」受講免除者は主婦経験5年以上、調理師免許所持者、栄養士免許所持者、管理栄養士免許所持者、家庭科教員免許所持者である。それ以外は基本来ていただく。妻が居るから大丈夫という理由もNGである。男女平等・家事分担の理念から男子も厨房に入るのを当たり前とする。もちろん佐藤も受講した。

「ぼっち料理教室」参加者は本来休む休業日にわざわざ教会に来て学ぶのでその分代休を取ることになる。通常は代休と有給合わせてクリスマスの次の日から一気に年末年始に取得するのが一般的である。年末までに有給を全部使い切った場合は年末年始は開業日となる。ペット霊園兼宿坊管理人と同様弔辞休暇は取得義務となる。

 産休や育休の方が出た場合はバイトで穴を埋めることになる。定年はペット霊園兼宿坊管理人の時と同様75歳の前日となる。年金支給額が低い場合はペット霊園の聖歌隊のバイトなどを斡旋することとなる。


◆◇◆◇


小規模木質バイオマス発電事業者は思わぬ出費を強いられた。木質バイオマス発電事業者にも蓄電池設備が強要されたのだ。これはあまりにも太陽光発電事業者特にメガソーラー事業者が多くなりすぎてしまったために電力供給過剰時には電力供給供給をストップするか蓄電池に貯めて夜間に送電するかという事態になったのである。木質バイオマス発電が主体ならこういった事態にならないのだが太陽光が先行したためにこういった事態を引き起こしてしまったのである。電気供給をストップするということは収入のほとんどを絶つと言う行為に等しい。やむなく蓄電池の設置に踏み切った。こうして供給過剰の日は蓄電池に電気を貯めて夜間に送電するということとなった。思いのほか蓄電池の設備投資額が重荷になった。

 トラブルはこれだけではない。特に落雷は天敵とも言ってよい。落雷が発電所を直撃すると命に係わるので発電をストップし一旦寮に避難することとなる。

 逆に大規模災害時は電力供給ステーションとして威力を発揮することとなる。


◆◇◆◇


佐藤は30歳になって見事天使像で町おこしの模範職となった。

「これで地方は救われ、社会に居場所の無い者も救われた」

この発言はマスコミに取り上げられ、名句となった。廃村はちょっとした町となっていた。

それだけではなかった。エネルギー自給率が向上したのであった。国産の木材を使用することでエネルギー自給率が上がったのである。また原子力依存を脱却することができた。原子力全廃には至ってないが・・・。

日本はオーストリアや北欧諸国の模倣を教会の場で実現した。この日本式バイオマスは欧州に伝わり世界標準となって行った。日本全国から廃村という光景は無くなり新しい形の里山が復活して行った。佐藤は同じスターレット資格者の伊藤玲子と結婚した。戸塚教会で式を挙げ愛を誓った。2人とも世帯平均年収に等しい収入を持って将来安心しながら子育てに専念している。子の名前は佐藤広。広い森林を守って行けるようにと願いを込めてつけられた。男の子だった。もちろん佐藤広も将来通信制小学校、通信制中学校、通信制高校に行かせ、いずれはスターレット資格を取らせるつもりである。もう学校で苦しむ光景は過去のものとなったのだから。

「ぼっちって、最高っす!」

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ペット霊園で町おこし らんた @lantan2024

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