第87話「番組本放送~全力で駆け抜けていく~」
※ ※ ※
………………。
…………。
……。
そして、ついに番組本放送の日がやってきた。
今日も俺たちはホテルの部屋に集合して、パソコン画面を見守る。
「しゅしゅしゅしゅーくーん! どうなるかなーーーっ!?」
いつもは強気と前向きの塊である菜々美も、珍しく不安げである。
「……大丈夫……瑠莉奈たちはベストを尽くした……」
「でも、やっぱり緊張しますよねっ」
今回の本放送の反響が今後を占うといっても過言ではない。
でも、まぁ、一番プレッシャーなのは黒歴史を公開される俺なのだが……。
なお、今回は神寄さんも同席している。
「今回のアクセス数によって今後の展開規模が変わってきますからね~♪ 楽しみですね~♪」
ニコニコしているが、相変わらず怖い笑顔である。
「むううー……! 大丈夫だよー! きっとここから菜々美ちゃんの第二のサクセスストーリーが始まるはずーーー!」
菜々美は負けん気を取り戻し闘志を燃えたぎらせながら、画面を睨みつける。
俺たちも同様に画面に注視した。
……って、すでに待機数だな!?
コメント欄もすでに賑わっていて期待に満ちたコメントがやりとりされている。
これはいい感じかな?
そんな雰囲気の中、いよいよ配信開始時間となった――。
まずは、近況――。
次に、しりとり――。
その次は、食レポ――。
……こうして動画配信のかたちで見直してみると、すごいカオスだな……。
というか、キャラが立ちすぎである。そして、埼玉ネタが多すぎである。
肝心のコメント欄はというと――。
<カオスすぎる>
<でも面白い>
<埼玉県民の俺歓喜!>
<ローカルネタ多すぎるけど、かわいいから許す!>
<みんな個性的でかわいすぎ!>
<よくわからないけど勢いがあって面白い!>
などなど……。
おおむね好評である。
次は、いよいよ問題の黒歴史公開処刑コーナーなのだが……。
……嫌な汗が滲み出てきた……。
「しゅーくん! 大丈夫だよー! わたしがついてるよーーー!」
俺の変化に気づいた菜々美は、俺の手をしっかりと握ってくれる。
なんだか恥ずかしい。しかし、まぁ、変な汗はとまった。
そして、コメント欄は……。
<黒歴史公開キターーー!>
<誰得!?>
<さらにカオスになるのか……>
<公開処刑wwwwww>
<ワロタw 越草修人はこれで許されたなw>
謎の盛り上がりを見せて、さらに俺へのアンチコメントも減っていった。
コーナーが終わったときには、かなり好意的なコメントも増えてきた。
というか憐みのコメントが増えた。
「やったよ、しゅーくん! みんなに受け入れられてるよーーーっ!」
まあ、生温かい雰囲気ではあるが……。
でも、俺の尊い犠牲も無駄にはならなかったようだ。
「……おにぃの黒歴史も意外なところで役に立った……」
「修人、えっと、どんまいっ!」
そのあともお便り(怪文書)紹介コーナー、埼玉ネタ大喜利コーナーと続き、コメント欄は謎の盛り上がりを見せていた。
そして、菜々美の電波ソング『埼玉の埼玉による埼玉の埼玉!』は割と好評だった。埼玉県民だけじゃなくてほかの場所に住む人にも興味を持ってもらえたようだ。
……まあ、菜々美のエネルギーはすごいからな。
見ているだけで元気になれるし、歌を聴いているだけで謎の力がみなぎってくる。
最後の締めの感想コーナーのときには、もうほとんどアンチコメントはなくなっていた。
<いやー、楽しかったなー>
<これは次回も楽しみだわ>
<毎週の楽しみができた!>
番組が終わり、コメント欄は今後に期待するコメントがいくつも投稿されている。
自分たちの出演した放送に好意的なコメントを投稿してもらえることは、とてもいいものだな。
エンターテインメントのなんたるかを、知ることができた気がする。
「わーい、しゅーくん! 大成功だよぉーーー!」
「……ん……瑠莉奈たちは芸能界における輝かしい一歩を踏み出せた……」
「あー、よかったっ! ほっとしたっ!」
三人とも表情をほころばせる。
番組視聴中は黙って俺たちの背後から見守っていた神寄さんが立ち上がってこちらにやってきて、改めて俺たちに向き直った。
「四人ともよくやりましたね~♪ 視聴者数もすごいですし、ファンも喜んでますし~、これなら番組は継続していけますよ~♪」
おお、神寄さんから太鼓判をもらえた!
「わーーい♪ 神寄さん、ありがとうーーー♪」
「……ん……よかった……」
「こ、これからもがんばらなきゃっ!」
いいものだな、みんなの笑顔を見られるのは。
「しゅーくんさんもお疲れさまでした~♪ 前回の謝罪会見もですし~、今回のネタ提供もしゅーくんさんが尊い犠牲になってくれたからこそ成功した面はあると思いますよ~♪」
「そうだよ、しゅーくん! しゅーくんがわたしたちのために体を張ってくれたからだよーーー!」
「……おにぃの犠牲は無駄にはならなかった……」
「そうだよねっ、修人のおかげっ! あたしたちだけだとここまで面白い番組にならなかったと思うしっ!」
被害担当艦としてだけでなく、ネタ枠としても役に立てたか……。
卒アルを晒され、文集を晒され、自宅には怪文書まで送られてきた。
今後ネタにされる人生からは逃れられないのかもしれない。
でも、こうして三人の役に立てるのなら本望だ。
「しゅーくん! これからもわたしとイチャラブしながら動画配信活動していこうねーー! 世界中にわたしたちの活躍を拡めていこうーーー!」
「……おにぃ……これからも黒歴史を提供し続けて尊い犠牲になってほしい……」
「修人、ふぁいとっ!」
この先なにがどうなるかまったくわからないが――なんだかんだで楽しいし周りを楽しませられている。それだけでいい気がしてくる。
人生は一度っきりだからな。
菜々美じゃないが全力で駆け抜けていこうと思えた。
「しゅーくん! 大好きだよーーーーー!」
ハイテンションのまま抱きついてくる菜々美。
ほんと、いつも暴走だらけだ。
だが、それでいい。それが菜々美の魅力なのだから。
俺も菜々美に相応しい男になれるよう、がんばっていこう。
そして、いつか必ず菜々美と結婚する。
俺たちの
アイドルになった幼なじみが俺のことを好きすぎて大炎上! ひたすら迫られまくるエキセントリックな生活が始まったのだった。 秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家 @natsukiakiha
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