1. 魔法、あります。

 ——光を感じる。ゆっくりと目を開けると立ち並ぶ木々が見えた。

 どうやらここは森と平原の間あたりのようだ。

 日の角度から見て朝か夕方、足元の下草が露に濡れているので朝だろうか。

 近くにの気配は無し。

 少し安心して息を吐く。

 たまに喚ばれたと思ったら即戦闘、みたいなこともある。

 そこがどんな世界か判らないのはまだいいんだけど、自分の手札もろくに確認できないまま、全力の獣を相手取るのは中々に骨が折れる。……実際折れたりもする。

 周囲には小動物の気配がいくつか。たぶん害はないやつ。

 人やそれに類する、文明を持つ者は近くに無し。建物なんかも見えない。

 続いて自分の姿を確認する。ごわごわした布の上下に、革製の胸当て。腰には革製の小物入れがいくつかと、短めの片手剣を提げ、背には旅の荷物だろう物の収まった雑嚢。

 背格好や顔立ちは……近くに川でもあれば確認できたけど、あいにくと無し。性別は男、年齢は——だいたいいつもそうであるように——十代半ばから後半のはず。

 次に、周囲の開けた場所に移動、腰の剣を抜いて軽く演舞の真似事をしてみる。……身体能力はおそらく年齢なりくらい。

 外側はこんなものかな、と目を瞑り、集中して意識を内側に向ける。

 ……超能力の類は、ダメ。集中しても力の動きが重い。何かに押さえつけられるような感じ。こういう場合は使と言われているようなものなので、無理に発動させようとはしない。

 続いて別の力を、身体の内側に巡らせるように意識する。

 先ほどとは違って、温かな力が体内を巡るのを感じた。

「よしっ!」

 思わず声が漏れた。

 体内を巡るのは、大抵は魔力だとか呼ばれるもので、つまりこの世界では魔法が使える。

 最初に住んでいた世界では、魔法は物語の中にしか存在していなかった。だからだろうか、いまだに魔法にはときめくものがある。ロマンというやつだ。

 もっとも、この世界の魔法がどういう扱いなのか、そもそも発動の手順がどうなのかとかの知識は無いので、実際に使うには慎重にならなければいけない。

 だいたいこの一通りが、召喚されてすぐの確認事項だ。

 周囲の警戒と自己の確認、何より使えるの精査は、獣相手だけじゃない、荒事に巻き込まれた時の対応のためにも必須だった。

 ……しかし、今回は魔法ありかー。魔法の扱いは文化によっては禁忌の場合もあったりして慎重にならざるを得ない。

 でもまあ、最近は剣ばっかりだったから、楽しみでもある。


 雑嚢に数日分の食料と水があるのを確認して歩き出す。

 森を背にして、草原の中を。

 人が見つかればいい。そうでなければ、人が通っていそうな道でも見つけられれば上等だ。

 未だ昇り切らない太陽を頭上に。

 目指すは人の街。

 今回もよく使う設定で行こうと思う。田舎から出てきたばかりの少年で冒険者か旅人志望、剣術と体術にはそこそこ自信あり。場合によっては……魔法、あります。

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世界渡り 長濱芳人 @be2note

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