養殖④(完結)

 この会話は彼等が、その属する文明圏の中で、どのような階層の構成者なのかが明確にわかるように直訳とした。


 「あんちゃんヨォ、養殖場のサルども、ちゃんと育ったみてーだべ。さっそく獲りに行くんべェ。」

 「おう、そうけェー、今度ァーちゃんと育ったかァー、そりゃー良かったんべェー。前はヨォー、ちょこっと目ェ離した隙にトカゲどもが繁殖しやがってヨォー。おかげで大損ぶっこいたかんなァー。あん時ゃァーヨォー、オヤジに散々怒鳴られたかんなァー。奴ら、図体ばっかでかくてヨォー、肝心の脳みそはヨォー、スカスカっちゅう代物だったかんなァ。そんなことよりヨォー、オラのことちゃんと船長ってよべ。この船じゃ、オラが一番偉ェーんだぞォ。」

 「なに言ってんだ、あんちゃん。そもそもこのオンボロ船にゃァー、オレとあんちゃんしか乗ってねーじゃねェーか。へんなとこで見栄なんか張んなよ、サルじゃあるめーし。それにヨォ、この船だってヨォ、実際にゃァ全部コンピューターが動かしてんだからヨォ。」

 「そりゃそーだったなァー。へんなこと言って悪かったべェー。しばらくサルども飼ってたから、奴らの馬鹿がうつっちまったみてえだァ。」

 「あんちゃんヨォ、あんな馬鹿ども見習ったって、オレらにゃァーなんの得もねえべェ。あいつ等ァヨォ、なんも考えねーェまま生きてんだァ。本能だけで生きてんだァ。馬鹿なくせに、この世で一番偉ェーと思って生きてんだァ。オレはそれがなんか頭くんだァ。だから、こんど同じこと言ったらヨォ、あんちゃんだからって許さねーぞォ。」

 「わりィー、わりィー、そんな怒んなァ。もう二度と言わねえからヨォー。でもヨォー、今回はヨォー、トカゲどもが育っちまった時の大損をヨォー、取り戻すどころかヨォー、最新の船を買ってもお釣りがくるぐれェー儲かりそうだぜェー、なァーおとうとヨォー。」

 「まったくもってその通りだべ。これでヨォ、やっとこのオンボロ船ともお別れできるってもんだぜェ、なァーあんちゃんヨォ。」

 「そーだ、そーだァ。それもこれも全部オメエーのおかげだぜェ、おとうとヨォー。」

 「そんなこと言われるとヨォ、オレもなんだか嬉しくなるべェ。」

 「オメェーがヨォー、サルどもの習性をよく調べてくれたおかげでヨォー、サルどもの養殖で一番金のかかる脳細胞活性素粒子剤のばら撒く量をヨォー、めちゃくちゃ減らすことが出来たかんなァー。今までみてェーに、全部のサルどもの脳みそが熟成するまで撒き続けてたらヨォー、それこそ天然物より高ェーものになっちまうからなァー。オメーにゃァー、特別ボーナスでも弾まねーとなァー。」

 「そりゃーありがてェ話だァ。でもなァー、あんちゃんヨォ、オレもなァー、こんなに効き目があるとわヨォ、まったく思わなかったぜ。サルどもといやァー、自分勝手で、いつも自分のことしか考えていねーからなァ。奴らはヨォ、自分が威張れるんだったらなんでもやっちまう。それこそサル山みてーな群れを作っちゃヨォ、いらねえ争いごとばっかり繰り返しやがってヨォ、挙句の果てにゃァ平気で仲間を殺しちまう。オレには信じられねえことばっかりだァ。」

 「そりゃァーしょうがねえべェ。サルみてェーな下等生物のことなんざァー、養殖でもしねェーかぎり誰も関心なんかもたねえしヨォー、調べなんかもしねーべさァ。今じゃ、オメーがサルの生態の第一人者だべェー。でもヨォー、今回の成功はヨォー、こんからのいい手本になんなァー。サルどもの生育環境だけちょこっと作ってやりゃァー、物凄えー繁殖力で増えるわ、ほんのちょびっと脳細胞活性素粒子剤を撒きゃァー、あとは奴らが勝手に大量の上級規格脳みそを作り出してくれんだかんなァー。」

 「あんちゃんヨォ、これでオレ達も大金持ちになれんなァー。さあ、早ェーところ収穫しちまおうぜ。グズグズしてんと奴ら、勝手に喧嘩をおっぱじめて皆死んじまうぞォ。」

 「おっしゃァー、さっさと収穫おっぱじめんべェー。そんでもって、次の仕込みの準備だべェー。おとうとヨォー、収穫終わったら、すぐに隕石ぶち込むから、ちゃんと準備しておけェー。」

 「まかしとけェ、あんちゃんヨォ。」

 「そんだァ、おとうとヨォー。収穫終わったらヨォー、今晩はヨォー、特別にヨォー、収穫したサルの脳みそ喰いながらヨォー、一杯飲むんべェー。こんだけいっぺェー獲れりゃァーヨォー、オヤジも、カーちゃんも、大目に見てくれんべェーからよォー。上級規格の新鮮な脳みそなんざァー滅多に喰うこと出来ねえかんなァー。」

 「そりゃーいいなァ、あんちゃんヨォ。珍味の中の珍味、サルの脳みそぐれェー旨ェーもんはねえかんなァー。」

                           

                                    完

 

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養殖 川田 海三 @19844

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