養殖③

 「民衆派戦線」による革命戦争は「上級人種」による圧政からの解放を謳い、すべての民衆から支持され熱狂的に進められてきた。「上級人種」からの解放を目的に一つにまとまってきた民衆は、この目的が達成されれば自分達の願いが叶えられると信じており、新国家の成立直後から新しい政府に対して様々な要求を主張した。だが、あまりにも当然のことであるが、すべての人間の願いを叶え、すべての人間が満足できる世の中を作ることなど不可能なことである。「上級人種」によってもたらされる恐怖と苦痛に満ちあふれた屈辱の日々から解放されただけでも十分な満足に値すると考えていた新国家の指導者である超能力者達は、民衆からのとめどない要求と不平不満の声に疲弊していた。

 

 「革命戦争の時にはともに戦おうともせず、ただ右往左往するだけの役立たずどもが、いざ新国家ができた途端に、国家の主役は民衆であり、指導者達は民衆のために身を捧げて働けなどと、そんな事を平気で口にする奴らのために、我々超能力者は命を懸けて戦った訳ではないのだ。」

 新国家の超能力者の一人がこんな発言をしたのだが、それに賛同する超能力者が一人また一人と増え、やがて新国家の超能力者達は「上級人種」による支配の復活を密に望むようになっていった。

 新国家の超能力者達はテレパシーによって民衆の身勝手な本音を否応なしに知ってしまっているうえ、民衆が今でも超能力者のことを、「頭のデカい怪物」と呼び捨て、軽蔑し、恐れていることも知っていた。

 (神に選ばれ、人類として進化を成し遂げた超能力者である「上級人種」が、何故一般の民衆と自由で平等な生活を送らねばならないのか。あまりにも不公平なことだ。我々には民衆を支配する権利があるのだ。)

 これが新たに権力の座についた超能力者達の本音だ。


 実は新国家の超能力者達は「上級人種」による支配の復活という点での考えは一致していた。では、何故ふたつの勢力に分裂してしまったのか。それはいたって簡単な話であった。この新国家のトップの座を巡る、醜い泥沼のような権力闘争が起こっていたのであった。いまだ自由と平等を掲げた新国家の理念を信じていた民衆は、超能力者達による、この権力闘争を口々に非難し、そんなことよりも早く自分達の生活を満足させろと叫び声を上げていた。まだ、この時点では新国家の指導者の中にも対立

を収め、新国家の理念に立ち返ろうとする空気が僅かながら残っており、この革命戦争の初期段階から指導的役割を担ってきた元勲の一人が「この際、一般国民にも広く国家運営に参加してもらい、本当に自由と平等を実現させようではないか。そのためなら私の残り少ない人生を、すべてこの新国家に捧げたいと思っている。」と発言し民衆から熱狂的な支持を受けた。この発言から数日後、その元勲は死体となって発見された。死因は複数の超能力者から受けたと思われる念力による圧死であった。この出来事を境に超能力者達は露骨に本心を晒し始めた。


 新国家は指導者達による激しい権力闘争の末、とうとう二つの国に分裂してしまった。両国の指導者達にとっては、どうすれば敵国よりも一人でも多くの超能力者を自分達の陣営に取り込むことが出来るのかが最大の関心事となった。もはや、そこには自由も平等も眼中になく、むしろ超能力を持たない大多数の民衆は、人類として進化を成し遂げた「上級人種」を支えるための道具となることで、初めてその存在意義が認められるものだと公言するようになった。超能力者達の恐ろしい変化に気付いた民衆は、ただ恐怖し絶望するしかなかった。

 分裂して二つの国に別れた新国家は万事においてことごとく対立し、常に緊張に包まれた関係となっていた。だが、正確に言えば緊張関係にあるのは全人口の数パーセントにも満たない超能力者達だけであり、大多数の民衆はその争いのための消耗品として使役された。年月の経過とともに二国間の関係は益々悪化し全面戦争も時間の問題となっていた。

 両国とも自国の戦力向上を最大の目標に掲げ、クローンによる超能力者の増産に明け暮れ、そこに資源もエネルギーも食糧も、持てるものをすべてつぎ込んだ。民衆は国家存亡の名の下に老若男女関係なく強制労働に駆り立てられた。両国の超能力者達は(「上級人種」を繁栄させることがお前達一般民衆の存在理由である。)と声高らかに掲げ、民衆を家畜のように扱い、民衆は地獄のような最低な環境の中で生活を送り次々と死んでいった。

 やがて地球はあらゆるものが枯渇した不毛の地となり、一般の民衆はすべて死に絶えてしまった。そして地球には神によって選ばれし進化した人類である「上級人種」で埋め尽くされた。



 地球から遥か彼方の宇宙空間に一隻の時空間航行船があった。それは地球での尺度ではまったく及びもつかない高度な文明を持った異星人の船で、その船内では人知を超越した異星人が二人、高度なコミュニケーション手段を使いながら概ねこんな内容の会話をしていた。

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