養殖②
世界各国の指導者や権力者達は超能力者について重大な点を見落としていた。彼等は超能力をもっているということ以外は普通の人間と何ら変わることのない存在で、感情はもちろん、人間が持っているすべての欲望も当然のことながら持っていた。超能力者達は黙々と権力者達に従うふりをし、その裏では権力者達の心理を覗き読み、世界中の超能力者同士でテレパシーを使いながら密に通じ合い、この機会を伺っていたのだ。
社会から隔離され、その利用価値を最大減に活かすためだけの教育と訓練を受けて育ってきた超能力者達だが、その持ちうる能力がゆえに人間の表裏を嫌というほど見せつけられ、超能力者以外の人間を信用せず憎悪するようになっていた。国の立派な指導者達も、政府や軍の優秀な高官達も、にこやかで親身な表面とは裏腹に、内心では超能力者の事を「頭のデカい怪物ども」と呼び捨てにし、軽蔑し、何よりも恐れていることを知っていた。
自分達の希少価値を十分に理解していた超能力者達は、クローンによる超能力者の
量産化によって、今、ここにいる自分達の優位性が希薄化されることに我慢ならず、人類の頂点に君臨すべく反乱を起こし、難なく成し遂げたのだ。
瞬く間に世界各国を制圧した超能力者達は恐怖による支配を徹底的に行った。恐怖こそが手っ取り早く、かつ、もっとも効率的に人間を支配できることを熟知しており、自分達の持ちうる超能力を最大限に活用して、超能力者達が頂点に君臨した統一国家、「世界連邦国」を創り上げたのだった。
超能力者達は、人類が新たなるステージに進化した姿こそが自分達であり、一般の人間達を支配する権利を天より授かったのであると主張し、恐怖の力でそれを全世界の人間に認めさせた。そして、自らを「上級人種」と称し、嫌悪感を催すほどの選民意識を持って「世界連邦国」を支配した。人類史上初めての世界統一国家「世界連邦国」は、その全人口の1パーセントにも満たない「上級人種」を繁栄させるためだけに建国されたのだった。
特権階級となった「上級人種」は圧倒的な支配者としての優越感に浸りながら、贅沢で優雅な生活を満喫した。彼等は政治にも経済にも全く関心を示さず、ただ自分達のこの快適な環境が維持される事だけを考えこの新国家の中枢機能を独占し、「上級人種」以外の人間達を恐怖の力で服従させた。
この新国家は支配者達の圧倒的な力によって永遠に続くのではないかと思わせるものだった。しかし、この超能力者のために創られた国は超能力者みずからが衰退を招き入れる形で滅亡へと進んでいくことになるのであった。
「世界連邦国」政府は新たな超能力者の出生の報告を受けると、その子供を「上級人種」として特権階級に受け入れ超能力者の数を保っていた。たとえ両親が超能力者であっても、そのあいだに生まれた子供が超能力者である可能性は一般的な超能力者の出生率と同じで、ほとんど皆無に等しかったからだ。この「世界連邦国」の体制を維持するには絶えず超能力者を見つけ出し、支配階級に組み入れ恐怖支配を継続させる必要があった。しかし、この新国家の建国者達はそのことを十分に理解していながら、それを完全に実行することができなかったのだ。
超能力者はその持てる能力以外は普通の人間と同じだ。当然ながら歳を取り能力も衰えていく。だが「世界連邦国」の建国者達はそれを認めることができなかった。圧倒的な力で支配者となり、人間が持つ本能的な欲望に目覚めてしまった建国者達は、富や権力がこれ以上分散されることが許せなくなり、超能力を持たずに生まれてきた我が子に次々と権力の座を譲渡した。そして、自分達は衰え行く超能力を使いながら裏で支配を続けるようになった。欲に目がくらんだ超能力者達は血縁者以外の超能力者を受け入れることを禁止し、新たに生まれくる超能力者をことごとく処分していった。「世界連邦国」の支配階級から超能力者の数が減りはじめたのであった。
「上級人種」による冷酷な恐怖政治のもとでの生活を強いられている「世界連邦国」の一般民衆の中には、こうした支配階級の変化を察知し反政府活動を始める者達が現れた。「世界連邦国」政府は総力をあげてこの活動を取り締まった。密告を推奨し、強制収容所を作り、残酷な拷問や公開処刑などあらゆる手段を使い弾圧を加えた。だが支配階級から超能力者の数が減るのと反比例するように反政府活動は広がっていった。
反政府組織の中でもっとも大きな勢力は「民衆派戦線」と呼ばれ世界のあらゆる場所に拠点を作りあげていた。そして、「民衆派戦線」は「世界連邦国」によって処分されようとしていた各地の超能力者達を密かに救い出し、自らの勢力に加えながら拡大していった。当初、「世界連邦国」政府はこの組織に対して厳しい弾圧を加えその活動を抑え込もうとした。だが、「民衆派戦線」に属する超能力者の数が明らかになるにつれ弾圧を控えざるを得なくなった。「民衆派戦線」はもはやそのリーダーをはじめ幹部達もことごとく超能力者で占められており、「世界連邦国」の超能力者の数を遥かに凌駕するようになっていた。
もはや何も恐れるものがなくなっていた「民衆派戦線」は革命戦争を宣言すると、瞬く間に「世界連邦国」を圧倒し世界全土を掌握した。「民衆派戦線」に属する圧倒的な数の超能力者達を後ろ盾に得た民衆によって行われた「世界連邦国」の残党に対する粛清は熾烈を極めた。
こうして、自らを「上級人種」と称し、持って生まれた超能力を武器に恐怖で世界を支配した「世界連邦国」は消滅した。革命軍は全世界に向け「世界連邦国」からの解放と、自由と平等を高らかに掲げた新国家の建国を宣言した。
革命軍が新国家の建国を宣言してから一年が経った。
自由と平等を掲げ、「上級人種」による圧政から世界を救いだした新国家は大混乱に陥っていた。指導部が二つに分裂していたのであった。
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