第6話 夕焼けと広っぱ


 親父が死んでから、50年が過ぎた。




 今日まで、僕なりに頑張ったと思う。

 何がきっかけだったのか、よく覚えていない。

 多分……親父との別れが、それからの生き方を変えたんじゃないかな、そう思う。


 僕はあれから、少しずつ人の中に入っていった。

 ずっと避けていた、大きな壁。

 でもなぜか、挑戦しようと思った。


 最初の内は酷いものだった。

 元々周囲から浮いていたんだから、当然なんだけど。

 でも、親父の息子として恥じない生き方をしたい、そんな思いが僕を進ませた。





 3年後に結婚。

 式の当日になっても、自分が結婚することが信じられなかった。

 あれだけ心の壁を作っていた僕を好きになる人なんて、絶対いないと思っていたから。


 彼女には本当、何回も聞き直した。

「本当に本当? 本当に僕なんかでいいの?」って。

 その度に頭を小突かれた。

「私が好きになった人のことを、例え本人でも『なんか』なんて言うのは許しません」って。






 そして今。

 僕もいい感じのおじいさんになった。

 親父よりも長く、この世界で生きている。


 僕は子供や孫たちの頭を、必要以上に撫でていたと思う。

 親父から。母さんから。

 たくさんの愛情をもらった。

 温もりをもらった。

 この温もりを、今度は僕が与えてあげるんだ。

 そしていつか、君たちも与えてあげるんだよ。

 そんな思いが、いつも心の中にあった。

 それがいつ生まれたのか、自分でも分からなかったけど。






 でも今。

 夕焼けに染まった広っぱを前にして。

 あの時の記憶が鮮やかに蘇ってきた。




 ああ、そういうことだったのか。




 僕……いや、私は。

 壁際にあるベンチに腰掛けた。


 広っぱでは、子供たちが元気に遊んでいる。

 そこにはかつての自分――正幸くんもいる。


 私は待った。

 あの時の自分を。


 伝えなければいけないことがある。

 ちゃんと伝えられるかな。

 そんなことを思いながら、私は煙草に火をつけた。





 夕焼けの空が、本当に綺麗だった。



 **********************

 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 作品に対する感想・ご意見等いただければ嬉しいです。

 今後とも、よろしくお願い致します。


 栗須帳拝

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夕焼けと親父と広っぱ 栗須帳(くりす・とばり) @kurisutobari

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