第2話 鉛



姉は頭が良く、物覚えも良く、機械にも強い。私は真逆で何も出来ない。出来ることがない。つまり、つかえない人間だ。幼稚園児のときから、母に「あなたは何も取り柄がないの。」と言われ育てられた。小さい時は理解出来なかったが、嫌なことをいわれているということだけはわかっていた。小学二年生のとき、その言葉の意味を理解した。いつも遊んでいた友達が私の前から、誰もいなくなった時だった。「ひよりちゃんと遊ぶのつまんないから、嫌。曜日制なら、いいよけど。」私の友達だった人と遊ぶようになった、ボス的存在の子が私にそういった。「そんなんだったら、いい。」と私は、言った。悔しかった。ずっと私のことを友達だと思ってくれていたと思ったから、すきでいてくれていると思ったから、対等にいれていると思っていたから。でも、本人達は、私のことを馬鹿にしていた。下に見ていた。そんなことに気づけなかった自分が嫌だった。あいつらにお願いします。と言いそうになっていた自分も嫌だった。恥ずかしかった。勉強も分からないほど、何も詰まっていない私の脳で、この3回から、飛び降りたら、死ねるかな?もうあんな人たちを見なくて済むのかな?もう、馬鹿にされることも恥をかくことも、下に見られることも無くなるのかな?辛いとか、苦しいって思わなくて済むようになるのかな?と毎日考えていた。もちろん誰も話を聞いてくれる人はいない。味方はいない。心配をしてくれる人はいなかった。少しジャンプしないと届かない手すりに捕まり、上半身を下に向けようとした。でも、下には人がいて私が今落ちたら、関係ない人を巻き込んでしまうと思い辞めた。何度も挑戦したが、学校だから、いつも人がいて実践出来なかった。あいつらが消えればいいのにとは思わなかった。だって、私が悪いからだ。あの子たちはこうも言っていた。「ひよりちゃんすぐ怒るから、嫌」と。結局全て私が悪いのだ。はぶかれる原因はすべて自分のせいだった。可愛いわけでも、勉強ができるわけでも、運動ができる訳でもない。つまり一緒にいるメリットがないということだ。私が消えればみんな喜ぶだろう。もう、嫌な思いをしなくて済むからだ。学校に居場所が無くても休まなかった。休んだら、自分の弱さを認めて逃げているみたいで嫌だったから。休み時間は毎回手すりをつかみに行った。ここから、降りれば自由の身。嫌な思いをもうしなくて済むと思うと気が楽になるからだ。でも、唯一心をすこしだけ、ほんの少しだけ落ち着かせる方法だったが、それも出来なくなった。いつものように手すりに捕まり身を乗り出そうとすると、「そんなんして何になるの?何も変わんないじゃん。どうせ飛び降りる勇気がないくせに、私達が悪いっていいたい?私たちがそうさせたとでも言いたいの?毎日毎日いい加減にしてよ。」と、友達だった人達などに言われた。頭の中で何かが粉々に割れる音がした。この人たちは自分のことしか見えていないんだ。自分たちが大切で必要とされている存在だって思えてるんだ。きっと大切に育てられてきたんだな。羨ましいな。 なんであなた達に迷惑をかけないようにしていることなのに、心を落ち着かせる為なのに怒られているのだろう。私のことが嫌なら、ほっとけばいいのに、関わらなければいいのにと思った。もう、何もかもが嫌だった。「次飛び降りようとしたら、お母さんに言うから」と言われた。どうせ言わないなんてことわかっていたが、言われたら、怒られる。くだらないことをするんじゃないと叱られると思い。辞めるしかなかった。

人に好かれることがないなんてことわかってる。勉強も運動も出来ない。性格も悪い。スタイルも顔も悪い。特技があるわけでは、人を惹き付ける何かがあるわけでもない。こんな空っぽの体しかない私を必要としてくれる人はいるわけない。

愛されたい。必要とされたい。生きてていいって、生きていて欲しいって言われたい。言うだけではなく、言葉で言って欲しい。誰かの役に立ちたくて、誰かの何かになりたくて、今日も必死にしがみついている。無理して笑うしかない。マイナスでいても、どん底にいても、困らせてはいけないから、迷惑をかけてはいけないから、笑うしか選択肢がない。どんなにしんどくても、泣きたくても、助けてって言いたくても笑って大丈夫と言うしかないんだ。そんなこと知らないで、無理しないで我慢しないではないじゃん。無理だよ。ずっと周りの顔を見て生きていたから、自分の価値の無さを言われ続けて生きてきたから、無理だよ。

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少し、ほんの少し やまの ゆき @pulcino_0111

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