成人の儀式前夜

帰って来ても、僕の日常は変わらない。はずだったのだけど。ウィルが、隣から離れない。ウィルの取り巻きに、睨まれるけど僕だって離れて欲しい。


「ライズ、もう少しで成人の儀だね。」


この国の成人は、10歳だ。儀式が終われば、自分の責任は自分で取らなければいけない。貴族としてのルールも増え、高位貴族は役割を授けられる。


まあ、僕には関係ない話だ。


現王が、僕を攻撃してるのは貴族達も知ってる。第二王子に、僕を仮使えさせた時にも騒動があったらしいけど。本当に、何したいんだろ?公爵を押さえる為に、僕を攻撃したのに王子に仮使えなんて。


しかも、僕を自陣に引き込もうとしている。


ねえ、これだけ攻撃されてさ。誰が、忠誠なんて誓えるだろう?矛盾してるし、やってる事が無茶苦茶なのだけど。そろそろ、仮使えも終わるし。これで僕に、役割を与えようものなら…適当にやるだけ。


「ライズ?」


キョトンとして、ライズを見るウィル。周りは、無視するんじゃねぇ!っと言わんばかりである。

 

「…屋敷から、出たいなぁ。」


「駄目だよ。成人したら、役割が…」


すると、第四王子が嗤って言う。


「ライズ•ロイナに、役割は無いみたいだぞ。」


「だろうね。こんな、信用が出来ない奴を自陣に引き入れるのはリスクが高い。面倒事が減って、僕も気が楽だし。その方が、丸く収まるでしょうよ。」


無表情に、あっさり言うライズに周りは驚く。


「…でも、それじゃあ余計にライズが。」


ウィルの言葉に、ライズは無言で頷く。


まあ、この国から出て行けば良いだけの話。公爵家と縁を切り、家名を捨てれば全く関係ない。


事実上は、追放だよね。


一度、繋いだ縁を全て取っ払わないと。冒険者、商人に経営者に聖職者。全てから、解放されて身軽で去らないと。出来るかな?いや、僕なら出来るんだろうな。取り敢えずは、成人の儀を乗り越えよう。


「それはそれで、気が楽で良いかな。別に、この国に思い入れはないし、この国の貴族は嫌いだし。」


思わず呟いた言葉は、少しだけ楽しそうで少しだけ驚いて、小さく笑ってしまう。ウィルは、目を丸くして固まり。周りも、思わず無言になっている


ライズは、のんびりと歩き出した。




さてと、お父様が素晴らしい笑顔で待ってる。成人の儀式前夜に、水で薄めたお酒を飲むのだけど。


待って、僕の絶対に薄めてないよね?


「ライズ、君の意思は分かった。」


こっ、怖ぁ…。


「そうですか。でも、消えて欲しいでしょ?」


落ち着いた雰囲気で、そっけなく言う。


「残念ながら、国としてはそうだね。けど、公爵家をはじめとする貴族は君の力を見抜いてる。」


だから、何だと言うのだろう?


「何の事かは、知りませんが無能なので。」


ウィルは、オロオロとしている。


「そう。さて、じゃあ始めようか。」


これを飲めと、まあ都合が良いかな。酔わされて、あれこれ聞き出されるより。一気に飲んで、気絶してしまおう。そうと決まれば、ロザリオを外して。


「美味しい…。」


隣を見ると、既にのんでいるウィル。しかも、薄めてない方。思わず、無表情の仮面も何処へやら。


「ちょっ!?そんなに、グビグビ飲むものじゃ…」


「ふにゃ?」


ロザリオを机に置いて、近くの水をコップに注ぐ。


「やらぁ!お水美味しくないもん!」


「駄目、飲んで。このままだと、アルコール中毒になっちゃう!倒れたら、命にかかわる!」


そう言うと、少しだけ強引に飲ませた。飲んだのを確認して、深いため息を吐き出す。


「本当は、20歳未満の飲酒ってかなり危険なんだよ。20歳未満は、心身共に成長段階にあり、飲酒によって脳細胞や臓器の機能が抑制されるなど体に悪い影響を受けやすいからね。 アルコールの分解に関わる酵素を充分に分泌できないことも分かってる。まだ、体が完全に出来上がってないから。それを妨げる、毒みたいなものなんだからね…。」


すると、全員が驚く。


「まあ、だからかなり水が多めで、お酒が薄められているんだろうけど。何考えてるのさ…。」


びっくりしたと、座るライズ。素早く、回収される薄めてないお酒。ダイナスは、青ざめている。


「ライズ、勘違いしないで欲しい。知らなかったんだ。決して、殺そうだなんて僕は思ってない。本当に、ごめんライズ。だから、このお酒はさげる。」


どうやら、事実か姉様に確認したらしい。


「別に、僕はそちらでも良いですよ。」


しまったぁー!これじゃあ、気絶が出来ない!


「毒と分かって、飲ませる訳ないでしょう!」


お父様も、専門外な知識は本当に知らないよね。取り敢えずだ、たくさん飲むしかないかぁ…。


「らぁいずぅ?らぁいずぅは、ぼくのこときらぁいらぁのぉ?ぼくは、らぁいずぅとなかよくしたいだけらぁのに。そんなに、ぼくのこときらぁい?」


「別に、嫌いじゃないよ。」


無表情の仮面をつけ、水酒に口をつける。


「わぁーい、よかったぁー!」


そう言うと、嬉しそうに抱きついてきた。


「ウィル、酔ってるのならもう寝たら?」


「らぁいずぅと、いっしょねるぅー!」


ふにゃーと、笑いながら言う。


「一緒には、寝ないよ?」


「やだ!いっしょねるぅ!ヤダヤダやーだー!」


泣きそうな顔で、駄々をこねる。


「もう、一緒に寝る様な年齢じゃないよ。」


「やぁっ!一緒に寝るもぉーん!」


困った雰囲気で、ウィルの執事達を見ると視線を逸らされる。ダイナスは、ベッドの準備を命じた。


「わかった、寝るから先に寝てて。」


いや、ここで寝るのも悪くない…駄目だ。人払いがされたって事は、ついに踏み込まれるかな?


「ライズ、私は君が転生者だって知ってる。」


まあ、バレるだろうなぁ…。


「それで?」


「ずっと、放置して来たからね。知りたいんだ。」


ライズは、思わず深いため息を吐き出す。


「…知らなくて良い事かと。」


拒絶に、ダイナスは静かに頷く。


「知っていれば、力になれる。」


「お気持ちだけ、ちょうだいします。」


そう言うと、少しだけペースを上げて飲む。眠気に少し、意識を奪われそうになる。


「眠そうだね、おやすみ。部屋には、運んでおくから、意識を手放して良いよ。ごめんね、ライズ。」




数時間後に、目を覚ますがクラクラする。


「薬を盛られたか…。まあ、睡眠薬の類そう。」


神様に、一応確認するが睡眠薬だったらしい。どうやら、王家の者が潜んでいたらしい。勿論、ダイナスによって消されたが。ライズは、苦笑して寝た。




ウィルは、目を覚まして隣を見る。穏やか寝息に、年相応の寝顔である。そこで、夜の事を思い出す。赤面して、声無き悲鳴を上げてゴロゴロ。


「ウィル?」


「ご、ごめんライズ…。」


はっとして、謝り大人しく横になる。


「ちゃんと寝ないとダメだよ。」


ウィルは、勇気を持ってドキドキしながらライズのベッドに潜り込む。ライズは、やれやれと笑い寝るのだった。なお、ウィルは朝まで寝れませんでした

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神の御使様は今日も忙しいようです @Kurohyougau

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