麻雀やその他のゲームに強くなるには? ~私的な考察~
若いころに、非常に傾倒して、というか繰り返し読みふけった著作家、は、何人かいますが、岸田秀さんもその一人で、随分影響を受けたと思う。
一言で言うと、「森羅万象のすべては幻想である」という思想で、「唯幻論」と称しておられた。
で、「人間は生物進化の鬼子」とか、「文明は伝染病」などの独特のドグマを全然大真面目に、説得力のある論理で、滔々と述べ続ける…「ムーミン」に、ジャコウネズミさんという、「無駄じゃ、無駄じゃ」が口癖の哲学者が出てくるが、ちょうどああいう偏屈で狷介な人物がどういう思想を心中に拐帯しているか?それを覗いているような趣だった。
で、昔から社会不適応者で、論理武装頼りだったボクは、ひねくれものの極致みたいなこの人の思想が、金科玉条みたいになっていて、その名残りはいまだにある。
で、ゲームについても一家言あって、人間の心理には「自己拡大衝動」と「自己放棄衝動」という相反した欲動があり、それが時宜に応じて現れる。ゲームの場合だと、「勝ちたい自分」のほかに「負けたい自分」がいて、時としてその自分のシャドウのために負けたりする…非常に精神分析的な発想ですが、こういうのは現実にありそうでもある。
サディズムとマゾヒズムというのもこういう現象と類似だと思う。三島由紀夫はよくマゾヒズムを詩的に描写したりしたが、快感原則と矛盾しているような倒錯も、メンタルの根っこのところに深い由縁、淵源があるのだとしたら、不合理ではない。
「甘えの構造」も、精神分析学者の著書ですが、最初は日本社会の病理としてのみ「甘え」は措定されていたが、のちには「『甘え』再考」という続編が出て、母子関係に端を発する、その厄介な「甘え」が、実は「愛」の起源でもありうる…そう発想が敷衍されていて、だから、そういう二元論がボクも常に内心にあって、男と女、愛と戦い、生と死、霊と肉、とかせめぎあう二つのものの織りなす精神の光彩と陰翳というのか、それが人生とかを構成するドラマツルギーになるのではないのかとか、思想の幼稚な萌芽というのか、思索中です。
岸田秀氏の著書にはこういう二元論、自我とエスとか、そういう図式もあったりしますが、今はゲームのほうに話を絞る。
念頭にあるのは、将棋でボクはよく糞手というか、ポカをするが、なんとなく相手に同情して変な手をさすことがあって、これは精神的な病理の範疇とも思う。よくメンタルを鍛えるのが大事、という時は、やはりこういう自我の強さみたいなことかと思う。自我境界不分明、という病気もあるが、崩壊までしていなくても、性格の特徴で自我が弱いというのはあって、気が優しいということで、デメリットばかりともいえないが、自分では損をする。知らず知らずに相手に迎合して、乗じられて、だまされたりつけこまれたりして、あまりいいことはない感じもある。
勝負事は、心技体の充実が大事だが、まず心、が来るのは、やはり根本の精神的な自立、強靭さというか、揺るぎのない自信やら統一、それによる落ち着きみたいなのが肝心で、技術と体調、技能と膂力、そういうフィジカルなところは後からついてくるのではないか?
ゲームと名の付くものはだいたい勝ち負けがあるが、勝つ、というのは敗者を作ることで、情け容赦のないいわば食い合い、である。礼に始まって礼に終わるというのは、建前で、本音は極端に言うなら、殺し合いがゲームの本質だ。
ゲームによって、さまざまなルールや特色があるので、一概には言えないが、仲良くニコニコ、は、表向きそうでも、勝つためには「殺す」という非情の気落ちでないと、そこが根本的な勝負事の本質だと思う。
升田幸三という昔の将棋の強豪が、戦争から帰ってきて、急に強くなった、名人を凌ぐくらいの実力者になった、ということがあったらしい。
これはつまり、どこかメンタルができていなくて、不徹底だった人物が、戦争の体験を経て、ぎりぎりのところで勝負は命がけの食うか食われるかのものだ、と、そういう呼吸を悟ったからではないか?
そしてこういう覚悟というのか、開き直れる強さの不可欠さというのは、勝負事やゲームに限らず、人生全般のなんにでも通用するような真理という気もします。
掌編小説・『麻雀』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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