第38話

「まずは、私達の民の考え方について話すけど・・・」

夕食を終えて、ここは私の部屋。

検索するための端末も立ち上げて、準備は万全だ。


「さっきも少し話たけど。私達には尻尾や翼の有り無しとか、

 耳や爪の形みたいな、はっきりとした違いが無くて、

 『犬の民』や『猫の民』で言うと、みんな同じ民ってことになるけど、

 生まれた場所や住んでいる場所で、民を区別することが多いんだ。」

歴史上どう考えられてきたか・・・とか、

今もそう思わない人はいるのではないか・・・といった考えも浮かぶけれど、

クルを混乱させてしまいそうだから、ここでは省略する。


「本当は、その考え方にも色々あるんだけど、

 今はクルにも前に話した、『国』と私達が呼んでいるものを元にするね。

 それじゃあ、またこれを使うよ。」

「うん、地図だね!」


「私達が今いる場所はここだけど・・・もっともっと広くして・・・

 この線の中が、私が住んでいる国の範囲だよ。

 クルの感覚で言えば、『犬の民』の場所全部・・・ってことになるのかな。」

「私が会ったことない『犬の民』のも、全部ってこと?

 すっごく広いけど、それなら分かるかも。」


「うん。それでね、この国と同じように、

 それぞれ国と呼ばれてる場所が、世界にはこれだけあるの。」

「え・・・・・・?」

あっ、画面を世界地図に切り替えたら、クルが固まった。


「く、クル、大丈夫・・・?」

「う、うん・・・・・・でも、ハルカのところ、こんなに広いの?」


「えっとね、まずクルのところも、

 見たことがないだけで、同じくらい広いかもしれないよ。

 ほら、私達のところは色々な乗り物があるから、

 すっごく遠くまで確かめることが出来るの。」

クルのところで、徒歩以外で移動する民を、私はまだ見たことがない。

だから、そうして行ける範囲以外は、本当に何も分からないんだ。


「それで、見たことがない場所を確かめようと、

 頑張った人達が昔からたくさんいてね、今はこんなに広い地図が出来たんだ。

 遠くの国は、私達もそう簡単に行けるものじゃないし、

 地図や写真でしか分からないような場所は、いっぱいあるよ。」

そうして世界が繋がったことで、便利なことも、その弊害もあっただろうけど、

少なくとも今、私達は『世界地図』というものを見ることが出来る。


「そっか・・・見たことがないだけなんだね。

 やっぱり、私ももっと向こうに行ってみたいな。」

「うん、全部は分からなくても、

 私もクルと一緒に、少しでも見てみたい!」

その先で、私達が何を見るかは分からないけれど、

知りたいという気持ちは、本当なんだ。




「それじゃあ、やっと他の民との関わりについて話せるね。

 今では、たくさんの乗り物があるから、別の国にしかないようなもの・・・

 特別な建物とか、自然の景色とか、食べ物とかを求めて、

 旅に出る人がたくさんいるよ。この国から行く人も、こっちに来る人も。」

「それって、ハルカのところにも?」


「うーん・・・ここは速い乗り物がある都市から遠いし、

 同じような町はたくさんあって、あえてここに来る必要もあまり無いから、

 外国の人はほとんど見ないかな。でも・・・」

「でも?」


「私達の国では当たり前のものでも、遠くの国からすると珍しいことがあるんだ。

 例えば、この家にもたくさんある畳とかね。

 だから、この辺りまでは来ないだけで、

 こういう家を見たいって人もいるみたいだよ。」

「そうなんだ! 私には全部が珍しいけど。」

「あはは、それはお互い様かな。」


「あとは、国によってたくさん取れる食べ物や、作るのが得意なものがあるから、

 国同士とか・・・クルの感覚で言えば、中の大きな群れ同士で、

 売り買いをすることもあるね。」

「大きな群れ・・・『犬の民』と『鳥の民』の群れ同士で、

 お肉とか道具を交換するみたいな?」

「うん、それで合ってると思うよ。」



「それから・・・争いのことも気にしてたよね。」

「うん・・・ハルカが嫌じゃなければ、聞いてみたいな。」

うん、クルにもバレてるよね。

私がこういう話、ちょっと苦手なこと。


「もちろん、クルが聞きたいなら教えるよ。

 私の住む国の周りには、こんな国があるけれど・・・」

世界地図から、この国の周囲を描く地図へと切り替えてゆく。


「ずっとずっと昔、こちらの国からこの辺に攻め込んだり、

 もう少し今に近くなった頃に、ここにあった国が、

 周りの国を巻き込んで、この辺に攻めてきた・・・という記録が残ってるよ。

 本当に、ずっと昔の話だけど。こういうことは何度か起きていたみたい。」

「ふうん・・・ハルカのところでも、

 争いが何度もあったんだね。」


「だけど、私達がよく知ってるのは・・・

 それでも、私が生まれるずっと前だけど、一番近い時代に起きた争いかな。」

「一番近い・・・私が知ってる、『猫の民』との争いみたいなもの?」


「うん、生まれる前の出来事を聞かされるのは、近いかもしれない。

 でも、その時にはこの国も周りの国も、乗り物の技術が進んでいてね・・・

 戦うための乗り物が、たくさんあったんだ。」

「な、なんだか危なそうだね・・・」

私の顔が曇ってきているのを、クルも感じているだろうか。


「私達の国は最初、この辺りに攻め込んだんだ。

 その時の写真がこれ。」

「何、これ・・・水の近くで、大きいのが焼けてる?」


「そうだね。空を飛ぶ乗り物から、

 ばくだ・・・火をすごく危なくしたのを、落としたんだ。」

「危ない、火・・・?」


「うん・・・あんまり乾いてない木を燃やすと、ぱちぱちってするのは分かる?」

「分かるよ。飛んできたのに当たると、熱いよね。」


「そのぱちぱちが、もっともっと大きくなって、

 クルのお家を簡単に吹き飛ばしちゃうくらい、周りに弾けるとしたら?」

「・・・すっごく恐い。」


「そうだよね・・・木のぱちぱちとは違うけど、

 そんな風に弾ける火がたくさん落とされて、

 これくらい大きな・・・水の上を進む乗り物も焼けちゃうくらいの争いが、

 何度も起こったんだ。」

「な、何度も・・・?」


「うん。最後のほうには、さっき見せた私達の国の中にも、

 危ない火がたくさん降ってね・・・これは、その後の写真。」

「・・・家みたいのがいくつか・・・他には、何も無いのかな?」


「そうだね・・・ここに映ってるのは、焼けた地面と、残ったいくつかの建物だよ。

 元々はこの辺りに、たくさんの家があったはずなんだ。

 それが、ほとんど全部・・・」

「・・・そんな・・・」


「私は直接、民同士の争いを見たことは無いけど、

 これを見ると、争いって恐いなと思うんだ。」

「そ、そうだね・・・ハルカのところでは、

 民と民の争いって、こうなっちゃうんだ・・・」


「今は、こうならないように気を付ける人が多いけど、

 急に争いを起こしそうな民もいるから、守る準備はほとんどの国がしてるかな。

 それがまた周りを刺激して、いつか同じことが起きるんじゃないかって、

 考えてる人達もいるから、すごく難しいんだけど。」

「そっか・・・・・・私も、狩り場が狙われたりしたら絶対に守るけど、

 争いを続けるのは危ないってことは、分かったよ。

 ハルカが、争いが苦手だって思う理由も。」


「ありがとう。私のところとクルのところは、色々なものが違うけど、

 争いが続くのは危ないって気持ちだけは、変わらないかな。」

「うん、こんな風にはならないよう、私も気を付けるよ。」

クルが、私の話を聞き始めた時とは違う表情で、大きくうなずいた。


クルのところで、また別の民が狩り場を巡って衝突する・・・

ということも、無いとは言い切れない。

もちろん、それが起きないに越したことは無いけれど、

そんな日が来てしまった時には、今日のことが少しでも役に立っていますように。

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女子大生と獣人少女の異世界滞在記 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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