1章

1.1 日常の崩壊

俺の名前は、佐藤 レン。別に優秀でも無能でもない、どこにでもいる高校生だ。


今は魔力と呼ばれてるエネルギーを感知しようとしてる。

自分でもおかしいとは思っている。

ゲームだとか小説のような行動を自分でするのは中学2年で終わったはずだ。

しかしこれはメディアから発表されたことが原因なのだ。

後で知ったが魔力という名前は説明する際に出てきた博士?が呼んだだけで正式名称ではないらしい。


曰く、魔力は人体、生物への親和性が高く、空気中に存在する魔力の量より、体内に存在する魔力のほうが多い

曰く、魔力によって徐々に魔力を貯蔵、感知、操作するための器官ができている



蛇足かもしれないが、魔力は感知する難易度が高いが魔力に体が慣れれば慣れるほどその難易度が上がってしまう可能性が高い、と言っていた。



魔力が発生したせいで、一部地域で魔力を感じる能力を先天的に持っていたと思われる住民が病院に担ぎ込まれたらしく、同じような人間が出ないようにと、学校が3日ほど休みになった


初日ではあるが、既に魔力を感じれている気がする

だが、魔力をいきなり感知してしまった人が病院行きになるぐらいだから、この程度ではない気がする



この程度、言わなくても分かると思うがこれは彼の気のせいである。大して仲良く無いクラスメイトが髪の毛を切ったかどうか気にし始めると別に切っていないのに髪の毛を切ったように感じるとか、そういうレベルの話である。


閑話休題


30分も真面目に魔力を感じようとしているのは第三者的な視点で見ると阿呆らしいが、本人は至って真面目だった。

時間に胡座をかいてすぐに別の作業に入ってしまったが、3日間それだけやるわけにはいかないと心のなかで言い訳のように呟いた。


作業と言うと格好よく聞こえるがプラモデルを作っているだけだ。

家庭用3Dプリンターを使用し、企業が販売している樹脂紛とデータからパーツを作り、思い思いのプラモデルを組み立てる。

正確に言えば、プラではないので、プラモデルではなくフィギュアと呼ぶべきという意見をSNSでは良く聞くがそういう前時代的な呼び方がいいじゃないか


「はー、嘆かわしいねぇ、これだから最近の若者は」


そんなことを誰もいない部屋でつぶやいた。

鉛筆がいい例だ。鉛筆も黒鉛を使わなくなって久しい。しかし鉛筆という名称のままだ。材料が変わっても約二百年前から見た目と呼び方は変わらない。


パチパチとパーツをはめる。

色分けなどはパーツごとに色を変えて、嵌め込む事で、再現している。

スジを入れたり、ステッカーを貼って文字を入れたりすることもあるが、俺はそこまで凝ってないから、あまりそういうことはしない。

そこまで難しいものではなく、パズルのようなものだ。


「あ、金ラメ銀兄ちゃんに貸してたな、今度の土曜に返してもらわんと」


金色を主にした、銀色のラメの入った樹脂だ。

パーツの成形の仕組みと相性の悪い反射の強い金と、鏡のようにしっかり光を反射するラメの組み合わせなので、他のやつと比べるとめっちゃ高い

が、一度に使う量は少ないし、かっこいいのでめっちゃ高くても人気の高い製品だ。


「はぁ、後は金ラメ銀のパーツだけになっちゃったなぁ」


ちなみに銀ラメ銀や金ラメ金などもある


「やることねぇし、魔力の感知でもやろうとしてみるかぁ」


3時間も時間を潰せなかった。

飯は食ったばっかりだったので、腹は空いてない


「何も考えないってのもまたいいかもなぁ...」


ゆっくり意識を沈める

ちょっとずつ、なんとなく心細くなってくる

ゆっくり、ゆっくりと、

暗い視界も、耳鳴りのするような音も、洗剤の匂いも、なんとも言えない唾液の味も、ちょっと肝の冷えるような涼しさも、気にならなくなってくる


確か丹田と呼ばれた位置に重いような何かを感じる。

が、これは魔力じゃない

ゆっくり潜るように集中する

時間感覚も消えて、早く進んでいるような気も遅くなっている気もする



―――



「さっぱりわかんないなぁ」


カップ麺を食べながら独りごちる。


「なんかイメージ的なのなんかないかなぁ、こう雲みたいに存在するとか。」


Cantubeやwhispで探してみようかなぁ

どちらも世界規模のSNSだから、何かを見つけれるはずだ


「あ、DM来てる」


ナッツというユーザーネームの男性からのメッセージだった


『実は先天的に魔力を感知、操作できたんだ。』


『そのことについて相談したい。』


『レン君はどうだったかい?そしてどう思う?』


ナッツという人は社会人であるということと男性であるということ、そしてプラモデルを作っているということしか知らない


「いや、家が近いんだったか」


確か、祭りの写真をTLに上げたときに近所ですねと言われたっけなと記憶の底から引き出す


「ただなぁ、どうして俺なんかに言うんだ?」


ポジティブに捉えれば、俺のことを信用してくれている。そして、趣味も合い家も近いということで親近感を覚えられており、何かしらいいアイディアを期待している。

ネガティブに捉えれば、俺にバラしたところで大きな問題が起こらないと確信している。家も近いため最悪口封じできる。魔力を感知できる人を探そうと不特定多数に同じような文を送っている。後は学生だと相手も知っているはずだから優位に立てる協力者として俺を選んだ


「どれもありそうで、なさそうだな」


そうだなぁ、とりあえず


『感知はできませんでした。』


それに気になるフレーズもあった


『相談したいことというのは何でしょうか』


出来るだけ早く多くの情報がほしい


『自分も相談したいことと聞きたいことがあります』


ここから何が起きるか、何も分からないのだから

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魔力で世界が満ちたとして 山本50pct @50pct

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