第2章 ラスボス、冒険者を救う

第7話 最難関ダンジョン、だと?

「こんな簡単に食料が手に入るなら、コンフード以外にもいくらでも調達できそうなもんだけど。それとも、実はスライムが貴重なのか?」

『いえ。スライムもほかのモンスターも体の隅々にまで毒がありますので、普通の人は食べられません。この世界の食品は、総じて毒抜きが非常に難しいのです』


 …………は?

 いやオレ今食べちゃったんですけど!?


『蒼太様が持つスキルはどれもラスボス仕様の特別なものなので、常時発動しているスキル【特殊効果無効】によって毒はきれいに消えています』

「そ、そうか。にしてもうまいなこのスライムスルメ」


 栄養のことを考えると現状はコンフードも必要だろうが、個人的には【スルメ】を積極的に食べていきたい。元々好きだしな、スルメ。

 乾物だから持ち運びにもちょうどいいし、出汁も取れそうだ。


 オレは残り9匹分の【スルメ】もすべて回収し、切り出した残りの【スルメ】と一緒にアイテムボックスに収納した。


 ダンジョン内をしばらく歩くと、外から光が差し込んでいる場所が見えた。

 どうやら入り口に着いたらしい。

 なんと、入り口付近に冒険者らしきグループがいる。


 ひ、人が! 人がいるううううううううう!!!


 ――なんて喜んだのもつかの間。

 その冒険者たちは、何やらトラブルに見舞われているようだった。


「――なんかあったのかな」

『誰かが負傷しているようです』

「え――」


 ラスボスであるオレが近寄ってもいいものかは分からなかったが、どちらにしてもあそこを通らなければ外には出られない。

 スキル【転移】を使う方法もあるけど――


「……あ、あの、どうかしましたか?」

「!? あ、あんたは? 冒険者か? 見かけない顔だな」

「え、ええまあ。最近冒険者になったばかりで」

「そ、そうか。実は見てのとおり、仲間がモンスターにやられてな。傷がひどくて回復薬が足りないんだ。街までは遠いしMPも切らしてて、このままでは――」


 倒れて気絶している女性は顔色も悪く、脇腹を大きく負傷していてかなりひどい状態だった。


 な、なるほどこれは……。

 いったいどうしたらいいんだ?

 回復薬――は持ってないし、MPは使い方が分からない。

 となると、残るはスキル【再生】か。使ったことないけど!

 でも使用方法はインストールされて頭に入ってるし、きっと大丈夫なはず!


「あんたも初心者ならさっさと逃げたほうがいい。というかなんで初心者のくせにこんなとこにいるんだ? ここは最難関ダンジョンだぞっ! 普通なら雑魚なはずのスライムすらめちゃくちゃ強い」


 ――――は?


「え、ええと、このダンジョンが最難関?」

「そうだ。そんなことも知らずによく生きてられたもんだな。俺らはもう10年近く冒険者やってるベテランだ。それでもこの様だ。悪いことは言わない、さっさとここから去るんだ」


 ちょっと待て。

 それってつまり、オレは最難関ダンジョンのラスボスに転生したってことか!?

 というかもしかして、さっきオレが食ったスライムがこいつらを……。


「と、とりあえずスキルで治療しますね」

「――は!?」


 ……え? なんだ?

 というか早くしないと手遅れになるかもしれないし、さっさと治療したい!


「と、とにかく治療しますので」


 オレは血を流して倒れている女性に手をかざす。そして。

 脳内で「スキル【再生】」と唱えて傷が治る様子をイメージする。

 10秒もすると、深く抉れていた女性の脇腹はみるみるうちに再生し、悪かった顔色もだいぶ回復し始めた。

 苦しそうだった表情も和らぎ、今はすうすうと寝息を立てている。


 ――よし、こんなもんか。


 あってよかった【再生】!

 今ばかりは、このスキルを選んでくれたあの女神に感謝だな……。

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