わたしの胸が狙われている!

かいんでる

わたしの胸が狙われている!

「どこ行きやがった! お前ら早く探せ!」


 何でこうなったの?

 私は普通の会社員。あんな黒服に黒のハット被った奴らに追われる覚えなんてない!


「本当にあの女で間違い無いんだろうな!」


篠田加奈しのだかな二十八歳。髪型、身長、体型、メガネの色と形、務めている会社も間違いありません」


 何かざっくりとした個人情報が聞こえてきたぁ〜。

 そうです、それは間違いなく私だと思います。

 でも、追われる理由が分からない!

 それと、ここ日本だよね?

 あいつら、なんで銃なんて持ってるの?

 とにかく、何とか逃げて警察に駆け込まないと。


「まったく、こんなコンテナだらけの所へ逃げ込むとはな。面倒な女だ!」


 面倒って何よ! それはこっちの台詞よ!

 段々腹が立ってきた。

 絶対逃げ切ってやる!

 そして警察にお仕置してもらう!

 そうと決まれば、後は行動あるのみね。

 まずは、このコンテナ迷路を抜け出さないと。


「あっ」


「えっ?」


 動いた瞬間黒服とバッタリ出くわすなんて!

 ヤラれる前にヤッてやるわ!


「くらえっ! 加奈スペシャル!」


 決まった! 私の膝蹴りが見事に決まったわ!

 黒服の股間にね!


「ぐぉ、おぉぉ……」


 くらえっ! 乙女のかかと落とし!


「そのまま寝てなさい」


 何か武器になるもの持ってるよね。

 あっ、銃があった……。

 こないだ弟が買ったエアガンとやらにそっくりね。

 なんて名前だったかな?

 そうだ! カバレッドだ!

 バカか私は。今は名前なんかどうでもいいわ。

 とっとと逃げるのよ。


「おっ」


「また?」


 今度はこちらにも武器がある。

 先手必勝!


「動かないで。動いたら撃つわよ」


「ふん。素人に撃てるのか? ほら、セーフティがかかったままだぜ」


「あら、本当だわ。教えてくれてありがとう」


 この間、海外旅行で実銃撃てるツアーに参加したばかりのこの私に、そんなありふれた作戦通用しないのよ。


「えっ、何それ……お約束守れよ!」


「知らないわよ」


 そうだ、スライド引いて装填しなきゃ。

 これで良し。いつでも撃てるわね。


「退かないと撃つわよ」


「はっ、撃てるもんなら」


 パァーーン!


「う、撃ちやがった……」


「さぁ、退いてくださる?」


 銃を突きつけたまま、加奈スペシャル!

 からの〜乙女のかかと落とし!


「あっ……」


「二度と私の前に立つんじゃないわよ」


 撃ったのはマズかったかな。

 音であいつらが寄ってくるわね。


「おい! 居たぞ!」


 あちゃ〜やっぱり見つかったか。

 とにかく走って逃げるしかない!


「待ちやがれ!」


「そう言われて待つわけないでしょ!」


 まさか、私の人生でこの台詞を言う事になるなんてね。

 とにかく相手はもう二人しか居ないはず。

 勝った! 私の勝ちよ!


「見〜つけた」


 マジですかぁ〜。

 挟まれちゃったじゃない。

 うん? あいつの持ってる銃、少し大きくない?

 あっ、あれも弟が持ってたやつと同じだ!

 確か……デザートスイーツ!

 だから、名前なんかどうでもいいんだってば。


「コンテナの影に隠れてないで出てこい!」


「嫌よ。出たら撃たれる、捕まる、私の人生終わりじゃないのよ」


「じゃあ、こっちから迎えに行ってやるよ」


「バカー! 来るなー! 来たら私のカバレッドが火を吹くんだからねー!」


「それを言うならガバメントだ」


 何? 何かコンテナの上から声がするんだけど?


「こんな素敵なレディに何をしてるのかな?」


「誰だお前は!」


 タァーーン!


「名乗る前にあの世へ行っちまったな。さて、残ったアンタはどうする?」


「失礼しまーす!」


 あっさり逃げてったわね。


「加奈さんだな。大丈夫か?」


「何で名前知ってるのよ」


「あんたを守るように依頼されてるんでね」


「守る? 何から?」


「あんたのお宝を狙う奴らからだ」


 何を言ってるのかしら。この人。

 その辺にゴロゴロ居るただの会社員がお宝なんて持ってるわけないでしょ。


「そんなもん持ってないわよ」


「そこにあるじゃないか」


 はあ? 人の胸を指差しながら何を言ってるの?


「究極のちっぱい。エンジェルパイが!」


 あぁ〜なんだろう。今心の中から殺意と言うものを生まれて始めて感じましたわよ。

 いいよね? ヤッちゃっても。


 パァーーン! パァーーン! パァーーン!


「な、やめろ! 撃つな!」


「あらごめんなさい。腕が勝手に動いたのよ。本能でね」


「と、とにかく話を聞いてくれ」


 イケメンだけど私に殺意を教えてくれた奴の話によると、私の胸がある筋で最高のAカップとの鑑定が出て、その胸を手に入れた者が世界を制するらしい。

 いい大人が厨二病全開で何やってんだか。

 そんな事やってる時点で世界制する器じゃないわよ。


「それで? 私はこれからどうすればいいわけ?」


「とりあえず依頼主の所までご同行願おうか」


「拒否すれば撃つ?」


「撃ちはしないが、少々乱暴な手を使わせてもらうかもな」


 撃たないんなら、これみよがしに銃ぶら下げるんじゃないわよ。

 うん? あれも弟が持ってるのに似てる!


「その銃、ダイソンでしょ!」


「そりゃ掃除機だろ。これはパイソンだ」


「そんな事はどうでも良いわ」


「お前が言い出したんじゃないか……」


 うん? こいつの仲間か? 何か近寄って来たわね。


 タァーーン!


「伏せろ!」


「あんたの仲間じゃないの?」


「今撃たれたの覚えてるか?」


「そっか、敵か。って、まさか私を狙うのが他にも居るの?!」


「分かってるだけで、五つの組織が動いてる」


「この世の中に、そんなバカな組織が五つもあるのね」


「さて、どうするかな?」


「もう、どうでもいいわ。早く終わらせましょ」


「終わらせるってお前」


「適当に撃ってその隙に逃げましょ」


 パァーーン!


「あら、当たったの?」


「お前、プロなのか? ここから二十メーターはあるぞ」


「感覚で撃ったら当たったのよ。私、才能ある?」


「ふっ、ふははは! いいなお前! よし、行くぞ!」


 そこからは、まるで映画のような銃撃戦だったわ。

 彼がリロードしてる間は私がフォローしたの。

 彼のダイソン、じゃなくてパイソンだっけか。まあ名前は何でもいいわ。そのパイソンと私のカバレッドとは弾が合わないから、彼から弾の補充が貰えなくて、私のカバレッドは弾切れ。

 でもね、敵が持ってたトントトンとか言うマシンガンと私のカバレッドの弾が同じだったのよ!

 何であんな大きなマシンガンと私の小さなカバレッドが同じなのか理解に苦しんだわ。

 四十五口径とか彼が言ってたけど、私興味無いから聞き流してたの。


 まあ、そんなこんなで無事逃げ切った私たちは、依頼主に会ったの。

 何でも、色んな裏のお困り事を解決する組織らしいって説明されたわね。

 彼もその組織の一員だったのよ。

 それで私はどうなったかと言うと……。


「よし、行くぞ! エンジェルパイ!」


「そのコードネーム変えてくれないかしら」


「俺は気に入ってるぞ。究極のちっぱい、エンジェルパイ! ちっぱいは正義だ!」


「そこ座れ。新生カバレッドの試し撃ちに使ってやる」


「はっはっはっ! それでこそエンジェルパイ! 俺の嫁さんだ!」


「私、絶対何かを間違えたわね……」


 こうやって、今は裏社会のエンジェルパイとして活躍してるわ。

 コードネームは気に入らないけど、今の生活は気に入ってるのよ!

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