第18話  もう一度湾岸を好きに

「ゴメンね」と吉川さんがもう一度言いました。

湾岸に乗って、しばらくたってからのことです。

「えっ」と私はとぼけました。

「もう通らない」

「いえ、いいんです」これはその時の私の本心でした。

乗る前までの辛い気持ちは、どこかになくなっていました。

私はここを通らなければならない。

淳のために、吉川さんのために、そして私自身のために。

いつまでも逃げてはならない。

どうなってもいいように思っているのは、誰に対しても失礼だ。

少なくとも、私は吉川さんと歩むことに決めたのだから。

「いいんです。これからもどんどんここを通ってください。それが私の心のリハビリになるんですから」

「心のリハビリ?」と吉川さんはちょっとだけ不思議そうな顔をした。

「また敬語になっている」

「あっ、ごめんなさい」と言って、私は恥ずかしそうに下を向きました。

吉川さんは楽しそうにクスクス笑った。

「一度、淳君に婚約の報告に行こう」

「いいんですか」

「また敬語。だって僕は淳君からアッちゃんを任されるんだ。挨拶に行くのが筋だろう」私は何だかそれを聞いて嬉しくなって、大きく頷きました。

でも運転している吉川さんには、そんな私は見えなかったと思います。

思えば私は、様々な優しさに助けられたんだと思います。

淳のお父さんに、「あなたは家族じゃない。他人だ」と言われたことだって、それも優しさです。


湾岸道路には、いつものように綺麗な夜景が広がっています。

それは、淳と見た夜景と少しも違っていなかったけれど、私には全く別の物のように思えました。

ここは決して来たくなかった場所だったけれど、もう一度私はこの湾岸道路が好きになりかけたような気がしていました。


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湾岸道路 帆尊歩 @hosonayumu

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