第5話 シャルロットの話

わたくしは伯爵令嬢シャルロット。


ですが、目が覚めたらすべてが白い部屋におりました。

見知らぬ方々がわたくしの目覚めを喜び口々に良かったと申されますが、何が良かったのかさっぱりわかりません。

ここはどこで、この方々はどなたでしょう?


素直に訊ねると白衣を着た初老の男性が記憶喪失がどうとか仰いましたが、わたくしの記憶ははっきりしております。

わたくしの両親を名乗る見知らぬ男女。

わたくしの父は厳しくも一度心を許した人間には心優しく、母は刺繍がお上手でいつも寝るまで絵本を読んでくださいますわ。

決してこのような見知らぬ装束を着た方々ではございません。

ですが、周りはそれを認めてくれません。

口々にかわいそうにと憐れまれ、わたくしはわたくしなのに、可哀想な少女となってしまいました。




わたくしは、わたくしの父も母も覚えております。

それを夢だと、幻だとすべてを否定されて困惑してしまいます。

ですが、見知らぬ状況で頼れるのはこの両親を名乗る男女しかいないのも事実。

わたくしは、両親を名乗る男女の後に従い自宅と呼ばれるところへやってきました。

あまりの手狭さに小屋かと思いましたが、この世界では一般的なようです。

庶民のお家なのでしょうか?

キョロキョロと見渡して、好物だったものと言われる見知らぬ食べ物を出され食べてみましたが不思議な味でした。


そして数週間が経ちました。

率直に申し上げてこの世界の何もかもが珍しいのです。面白い、楽しいと感じてしまいます。

元の世界では女性だからと差別されることもこちらの世界では許される。

それがわたくしの好奇心を刺激しました。

学校というものはわたくしがお兄様から聞いていたような学園ではなく、わたくしが記憶がないということになっているせいか皆様とても優しくしてくださいました。




現状にそれほど大きな問題はありません。

こちらの世界の皆様はわたくしに優しくしてくださいます。

本当の両親でも友人でもないのに。

そして、どうしても思ってしまいます。

お父様とお母様、お兄様にお会いしたい。

泣けども泣けども叶うはずがありません。




何故かは分かりませんがこの女性として見知らぬ世界で生きていくしかなくなり、見知らぬ人々と接する日々はストレスが感じられ体調を崩すことが増えました。


時折無理をしてしまい寝込むわたくしに母を名乗る女性が側につき少し乱れたお布団をかけ直してくださいました。

その所作は母を思い出されました。


母、というのは総じて子供を想うものなのでしょうか?

何度申し上げても信じてもらえませんでしたがわたくしはこの方の娘ではないのに。

うつらうつらと夢現に元の世界を想ってまた泣いてしまいます。

あちらでのわたくしはどうなったのでしょうか。

ですが、こちらの世界の『家族』がもうわたくしの『家族』となり数年が経ちました。

あの方達が両親として、家族としてわたくしに情を持つように、わたくしもこの方々に情を持ち始めました。




元の世界が恋しくないと言ったら嘘になります。

ですが、こちらの世界の家族はわたくしの本当の家族とは違うけれど、新しい『家族』の形をわたくしに教えてくださいました。


わたくしの新しい家族。

少しずつ、愛おしく感じられてきたこの方々をわたくしなりに受け止めて生きていきたいと思っております。

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転生令嬢と、その家族 千子 @flanche

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