第33話 エピローグ(ルートγ)

「いらっしゃいませ」


 笑顔で出迎えるのはウィザード――表の顔は冬月夜鷹――と冬月火花の夫婦だ。先日、友人知人だけでの慎ましい結婚式を挙げたばかりだ。


「あの……フェアリーさんからの情報で来ました」

「ああ……なるほど――火花、シナモンロール補充しておいて。あと食パンを二斤焼いてるから」


 現れたのは高校生だ。近隣の高校の制服を着ている。フェアリーは現在能力者オーバーテイカーの人材派遣会社を営んでいた。左団扇ひだりうちわで暮らす……とは程遠いが、やりがいはあるとウィザードには話をしている。そんなフェアリーがウィザードを頼るのは稀なことだった。


「分かったわ。ウィズ……緊急かな?」

「まずは聞いてみるよ」


 ウィザードは、自慢のモカ・ブレンドを一杯無料で淹れて幸薄そうな女子高生に渡す。

 そして話を聞く。女子高生はホッと一息付けた様子だ。


「脱法能力者集団に友達が攫われて帰ってこないんです。警察も及び腰で動いてくれなくて……」

「それは何日前?」

「……二日前です」

「なら……今すぐ助けに行こう」


 そこに火花がウィザードにベレッタ92ノーペインを手渡す。久しぶりに触るが腕は鈍くなるどころか上がった。パン作りと何か関係性があるのかと俺はいつも考えている。だがそれよりも目の前の少女を救うことが先決だ。ウィザードは詳細な情報をきながら、メモを取った。


 相変わらず、ウィザードの都市伝説は東京コンクリートジャングルを騒がせている、


 当たり前の日常と危険な非日常が交差する店。それがポーラスター北極星。迷い人たちの道しるべだ。


 ふとウィザードは言葉を思い出した。火花に惚れるきっかけとなったものだ。


 ――人は恋するまで恋したことを認識できない。

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【完結&ハッピーエンド】Re:東京CONCRe:TE JUNGLE 色川ルノ @hekiyuduru

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