第36話 魔権大戦?

「ウギャグゴォォォォォォォォッ!」



 雄叫びを上げ、大剣をやたらめったらに振り回すゴルアーク。魔族化して理性が飛んでしまっているっぽい。荒れ狂う暴風の様な剣撃で、木々を薙ぎ倒し、森は一瞬で荒れ地と化した。近くにいた仲間の邪教徒さえも大剣の餌食となり、四肢が吹き飛んでいく。


 そして俺をギロリと睨むと突進してきた。



雷光閃撃ライトニングバーストエッジッ!」



 サバイバルが選んだ技は、雷帝スキルだった。振りかざした剣に雷が落ち、その爆発的なエネルギーを剣閃として放つ。


 剣から放たれた閃撃がゴルアークに当たり爆発するが、ゴルアークは意に介さず向かってくる。かなりのダメージを与えたと思うが、今のゴルアークには痛覚が欠如しているように見える。


 大剣が頭上から振り下ろされる。以前に比べ格段に剣速も速い。受けたら俺が潰される。大剣を紙一重で躱し、顔面に剣を打ち込む。



「な、マジかよ!!」



 ゴルアークの目から黒い光線が出て、剣が弾かれた。コイツはもう人間じゃねえな。


 一旦後方に飛び跳ね、距離をとり仕切り直すが、俺を追う黒い光線が着地点の大地を溶かす。



「チッ、エアーウォール!」



 着地直前に真下に向け風の壁を作る。その風に乗り上空へと舞う。



「サンダースネーク!」



 中位雷属性魔法の雷の鞭サンダースネークをゴルアークに絡ませる。通常なら鞭から伝わる電撃で、相手を焼き殺す魔法だ。しかし、ゴルアークは魔法耐性の高い暗黒鎧を着ている。一瞬だけ足が止まればいい。



「エアーバースト!」



 宙に舞った俺は背中側に風の爆発を起こし、そのエネルギーを利用してゴルアークへと突っ込む。


 ゴルアークが大剣をかざし、飛んでくる俺を叩き落とす為に剣を振り下ろす。



「エアーウォール!」



 直前で風の壁を使い軌道を変える。大剣を振り下ろした為にガラ空きになったゴルアークの首元目掛け剣を払う。



紫電一文字斬りライトニングスラッシュ!」



 雷速の剣撃はゴルアークの首を一刀で跳ね飛ばした。


 終わったか……。


 気を抜いた一瞬の油断。



「ファイヤーエクスプロージョンマキシマムッ!!」



 極大の火炎魔法が森の中でぜた。



「グワァァァッ!」



 爆風で吹き飛ばされる俺。



「リアナてめぇぇぇぇぇ、俺を巻き添えにすんじゃねええええぇぇぇぇぇぇ~~~…………」





「カインなら、サバイバルが有るから何とかなるかなぁと思って、テヘ」



 マーラー邪神教徒を殲滅した俺達は、誰一人怪我もなく、無事にログハウスへと戻った。



「テヘじゃねえよ。サバイバルが有るとか無いとか関係なく、死ぬかと思ったわ!」


「ごめんねカイン」


「それよりカイン、あいつらはどうすんだ?」


 

 ティアナさんが言うあいつらとは、襲撃してきたマーラー邪神教徒の生き残りだ。


 戦闘後に幾つかの尋問をして、今は湖の畔に深い穴を掘り、簀巻すまき猿ぐつわをして放り込んである。



「もう少し情報を聞き出したい所だが……」



 俺はソファーに座る女の子達の顔を見るが、全員に顔を背けられた。



「俺達は尋問の専門家じゃないからな――」



 主にダンジョン攻略で生計を立てている冒険者が、尋問スキルを持っている筈もない。



「明日、宿場町に戻り衛視に突きだすしかないだろうな」



 マーラー邪神教会がなぜ聖女狩りをしているのか。それについては生け捕りにした奴ら全員が口を割らなかった。


 分かった事は、俺達を襲った魔族はゴルアークが言っていたカリュンティーヌである事。奴らの知る魔族はカリュンティーヌ一人である事。そして、ゴルアークが飲んだアレは、魔族カリュンティーヌの血である事。



「マーラー邪神教会と魔族が結託している事を、早く神聖騎士団に伝えるべきですね」



 ミルシアナさんの意見にティアナさんも賛同する。



「魔族なんてお伽噺とぎばなしにしか出て来ないレベルの超級災害モンスターだからな。それに、あの魔族の血はやべぇぞ」


「あれは、いわゆる魔人化ですね。古代遺跡から見つかった魔血を飲み魔人化した例が過去にもありました。魔人化した人間は悪魔のように凶暴になり、衝動の限り破壊を行い、そして力果て死んでいった記録があります」



 長寿族のハイエルフであるミルシアナさんは生ける歴史書だな。



「ミラ様、教会は魔族に対して何か知っている事はありますか?」



 俺はそこら辺をミラ様に確認した。俺達が持つ魔族の知識は、それこそお伽噺レベルだ。



「500年前に魔界で勃発した魔権大戦はご存知ですか?」


「そんなお伽噺があったな。次期魔王の覇権を巡り、人間界も巻き込んだ魔界戦争だっけ? 確か伝説の聖帝グリンワーツが人間界に来た魔王候補達をバッサバッサと斬りまくって平和をもたらしたって話だったよな?」


「はい。魔界では500年周期で魔王の交代劇が有るのではと教会では考えています。そして魔族の出現で私は確信しました。間違いなく魔界では覇権争いが起きています。それに協力しているのがマーラー邪神教会です」



 ミラ様の言葉に、同じ修道女であるレミーナが疑問を抱いたような顔を浮かべた。



「でも聖女を狙う理由とどう繋がるのですか?」

 

「そ、それは……分かりませんが……」



 生け捕りにしたマーラー邪神教徒から、その辺を聞き出せていないのは痛いよな。


 ん? ミラ様が俺の顔をチラチラと見ている。俺の顔に何か付いているのか?



「私は、我が青鳳の神ラ・ナエサル様のお導きに感謝の念に堪えません」



 そして、俺を強い瞳で直視するミラ様。



「お、俺の顔に何か付いてますか?」


「そうじゃないですよ、カインさん」



 ソフィアさんがクスクスと笑っている。



「カインってさ、自分の事になると本当に鈍いよね。い、色々と……」



 何故か頬を赤らめるリアナ。今の会話のどこが恥ずかしかったんだ?



「カイン君は私達の切り札になるかもしれないんですよ」


「は? 俺が? なんでだ?」



 訳分からん事を言うミルシアナさん。



「カイン様は先程言いましたよね。聖帝様が魔族を倒したと」



 レミーナが俺の腕を抱きしめ、ニコリと笑う。腕に伝わる膨らみの柔らかさが気持ち良い。か、彼女になったんだから、これぐらいはいいよな。


 ってリアナ!? 


 リアナが俺の左腕に抱きついてきた。



「でも今代には聖帝はいないんだよカイン」


「あ、ああ、そうだな」



 リアナの膨らみが腕に食い込む。や、柔らかい。



「でもあたしは聖帝の技を使える奴を知っているんだよな〜」



 フフフンとティアナさんが不敵な笑みで俺を見る。嫌な予感しかしない。



「カイン様!」



 ミラ様が、祈る様に手を組み俺を見上げる。



「世界を守って下さい!」



 はい? 世界ってなんだ!? 俺はダンジョンしか知らない冒険者だぞ?



「カイン様、宜しくお願いします」



 右腕に抱きついているレミーナが言う。



「カインなら大丈夫だよ」



 左腕に抱きついているリアナも適当な事を言ってくれる。



「はあ〜、とりまラフランギス公爵領まではしっかりと護衛するから、それで今は勘弁してくれ」



 俺はそれだけを告げるのが精一杯だった。世界平和など考えた事は一度もないんだから仕方ない。


 それでも、みんなは笑って頷いてくれた。


 そして夜は更けていく……。


 ……………って、おい! お前らこんな時でもさかるのかよッ!!


 やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!


 せ、聖女様が見てい………


 ♡♡♡♡♡ッ!!

 



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【聖女狩り】 地下迷宮最下層でパーティーを追放されたカイン。無事に生還したが、元メンバーの美少女僧侶と魔法使いの借金を肩代りするハメになった。二人を借金奴隷にしたカインは聖女狩り事件に巻き込まれていく 花咲一樹 @k1sue3113214

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