第35話 強襲

 風呂から上がりリビングに行くと、ソファーに座る女の子達がニヤニヤと俺を見てくる。レミーナと一緒にお風呂に入っていた事を知っているようだ。


 まあ、そりゃそうだよな。



「カイン、レミーナとは上手くやった?」



 リアナが遠慮なく聞いてくる。上手くってなんだよ。



「べ、別に何もねえよ」



 キスしたけど、恥ずかしくて言えるか! しかし俺の顔が少し赤らんでしまい、リアナが「へえ〜」と、ニヤニヤとし始めた。



「次は私の番かなぁ、かなぁ〜」



 ソファーから立ち上がったリアナが、手を後ろで組みながら俺に近づき、上目遣いで俺を見上げる。



 かなぁ、じゃねえだろ? 何を考えているんだリアナは?



「わ、悪いんだがリアナ……。さっきな、レミーナからその……」



 うわっ、俺は何て言えばいいんだ!? 


 色恋経験がなさ過ぎる俺が真っ赤な顔でオロオロとしていると、



「レミーナに告白されたんでしょ」


「えっと、まあ、そ、そうなんだ」


「カインはちゃんとオッケーした?」


「あ、ああ」


「なら良かったわ」



 リアナは笑顔で、俺とレミーナが付き合う事になった事を喜んでいる。



「だったら次は私の番でしょ?」



 何が『だったら』なのか俺には理解不能なんだが? 



「わ、私も……、レ、レミーナと同じくらいに……、カ、カインの事が……、す、す、す……」



 ん? なんだ? 外から殺意?



「カイン君ッ!!」



 ソファーに座っていたミルシアナさんが、ガッと立ち上がり、暗い窓の外を睨む。



「ああ、どうやら来たようだな」



 暗がりの森の中に溢れるいくつもの殺気。防具を装備している暇はなさそうだ。



「ソフィアさんとティアナさんはミラ様を守っていてくれ! ミルシアナさん、リアナ、行くぞッ!」



 俺は剣だけを取り、掃き出し窓から庭先に出る。後ろで何やら暗黒オーラが立ち昇っているのは気のせいだろうか?



「……す、す、スットコドッコイ共ォォォッ! 私が全員ぶちのめすぅぅぅ!!」



 矢鱈と気合いの入ったリアナの声が、先を行く俺の耳にも届いた。うむ。やる気があるのは良い事だな。





 庭先に出た俺に、暗がりの森の中から幾つもの魔弾が飛んでくる。



「ファイヤーウォール!」



 火の壁を作り魔弾を防ぐ。

 俺の隣に駆け寄ってきたミルシアナさんが直ぐ様に魔法を唱える。



「ウィルオーウィスプ達よ、森を照らしなさいッ!」



 森の中に浮かび上がった幾つもの光の精霊。こういう時は、単発のライティングより、複数の明かりを灯す、光の精霊魔法の方が勝手がよいな。


 森の中、木立にひそんでいたのは、黒いローブを纏った集団だった。



「マーラー邪神教会か?」


「あの時の魔族はいなそうですね」



 俺とミルシアナさんは目を合わせ、無言で頷くと、二人で森の中へと走りだす。



「サンダーショットッ!」



 リアナが後方から雷属性の熱線魔法を放つ。クイック系の魔法で連射性がよい魔法だ。



「オラオラオラオラオラオラオラァッ!」



 矢鱈と気合いの入ったリアナの魔法連打で、次々と倒れていく邪教徒達。リアナや、何があったんだ? 欲求不満か?


 リアナの射線からは見えない敵を俺とミルシアナさんが剣で切り倒す。


 森の中にはざっと2、30人の邪教徒がいるようだ。そして連撃の魔法を放つリアナに向けて無数の魔弾が襲いかかる。



「リアナ! 一旦引けッ!」



 普段のリアナならあんな無茶な連撃魔法は放たない。今日のリアナはちょっとおかしい。



「大丈夫よ! 私には今日、めちゃハッピーな友達がいるからッ!」


「任せてくださいリアナさん! リフレクションビット!」



 遅ればせながら到着したレミーナから、10個近くの光属性魔法のリフレクションビットが飛んでいく。リフレクションビットは相手の魔法を反射して跳ね返す魔法だ。魔法戦闘において多勢に無勢をひっくり返す事も可能な高位魔法だ。


 レミーナの援護もあって邪教徒の前衛陣は総崩れになっている。ならば俺が狙うのは――――。





 邪教徒を薙ぎ倒しながら森の中を疾走する。大将ってのは大概後方に控えているものだ。


 ミルシアナさんのウィルオーウィスプの明かりもあまり届かない場所に見た顔のある男がいた。



「あんた、しぶといな?」


「てめぇをぶちのめしに来たんだよッ!」



 そこにいたのはゴルアーク。『天輪の嵐』の元ギルドボスのハゲ騎士だ。暗黒邪教騎士団の鎧を着てはいるが、その腕前は大した事はない。昨日の崩落で死んだとばかり思っていたが、まさか生き延びていたとは吃驚だ。



「とりあえず、あんたが生きていて嬉しいよ」



 なにせコイツは超高額賞金首だからな。



「ぬかせクソガキィ! 昨日の借りを返してやんぜ!」



 昨日は俺にブッチボコボコにされていたのに、今日は矢鱈と強気だ。



「暗黒邪教騎士の本当の力を見せてやるぞ!」



 そして小袋から取り出した赤黒い色のポーションを一気に飲み干した。ただのドーピングじゃねえか。


 薬による身体強化はままある事だ。生き残る為には何でもやる。ただ見た事もない色のポーションだけに油断は出来ない。



「カリュンティーヌ様の血ィ、旨しッ! 力が、魔力がみなぎってくるわァッ!」



 おいッ!? 誰の血だって? 悪い予感がめちゃめちゃする。



 そして、ゴルアークの頭から角が生え、白目と黒目が反転した。つまりあれはポーションではなく、魔族の血液だったって事だ。



「ウギャグゴォォォォォォォォッ!」



 ゴルアークの凄まじい雄叫びが暗い森の中に響き渡る。そして俺のギフト『サバイバル』が発動した。







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