第12話.永劫・・・


 敵国へ単身で潜り込み、無事に王の娘でもある母シンシアを連れ戻したアカシックは、国王から直々に褒美を授かった。

 先の大戦で奪い返した領土を、そのまま彼の領地として下賜され。

 貴族としての位も侯爵に。


 それと同時に、ヘリオス伯爵の一人娘であるアリーシャとの婚姻も発表された。

 王国始まって以来の大出世である。


 しかし晴れの舞台にも関わらず、ついぞ彼の端正な顔に、本心からの笑みが浮かぶ事はなかった。


 半年後。


 昼夜を問わず、アカシックに仕えてくれたセリヤが出産した。

 青とも緑ともとれる丸い目をした男の子。


 「よくやった。セリヤ」


 産声を聞きつけ、部屋に入ってきたアカシックが、疲れ果てた様子のセリヤを優しく抱擁する。

 しかしその顔にも笑顔は浮かんでいない。


 いや、より一層、沈んでいるようにも見える。


 五年後。


 場所を変え大きくなったカストール家に、ローブを纏った老人が現れた。

 アカシックが出会った頃と変わらない姿。


 きっと父、アクシスが出会った時とも変わっていないのだろう。


 アカシックがこの老人から教わったのは、この世界が、いや、それより昔、悠久の時の全ての事象を記憶している光りだった。

 だから父が幼かっった頃も、さらにその先祖達の事も、彼は知っている。


 それこそ自分の人生よりも何千倍、いや、それよりも遥かに長い時を見る事だって出来る。


 そして過去だけでなく、現在、そして未来までをも見通す事も。


 だからアカシックは初めて授かった息子を、老人に渡した。

 めかけとなったセリヤに泣きつかれ、胸を叩かれても、彼は意思を変えなかった。


 幼くして正妻となったアリーシャも、それ以来、彼とは口を聞いてくれない。


 しかしこれが、老人と交わした、いや、老人が出会った時に望んだ報酬であった。


 誰よりも誠実であったアカシックが、心を失ったのは、初めて真実の光りに触れた時だった。


 なぜ父があの時、力に劣る野蛮人に殺されたのかを知ってしまった時。


 アカシックはずっと、自分が大きな声で、決闘をしている父に話しかけてしまったからだと後悔し続けていた。

 しかし実際には、父は敵の攻撃を避けようと思えば出来たし、殺すことだって出来たのだ。


 なぜなら、父も真実の光りを書き換えることが出来るのだから……。


 目に見えない光りの剣の正体、それは現在、そして未来に起きる事象の”書き換え”であった。


 だから、自分の居る位置も、剣で敵を斬り殺すことも、容易に、それでいて確実に起こすことが出来るのだ。

 しかし過ぎ去った過去は変えられないし、運命とでも呼ぶべき強い事象だけは、書き換えることが出来ない。


 もしもあの時、父アクシスが黒獅子を殺していたら、その嫡男であるアカシックは、一つ年下の弟に殺される運命にあった。


 だから父は、その運命から逃れるために、自らの命を天に捧げたのだ。

 最愛の妻シンシアが、その後にどのような目に会うのか知っていながら……。


 この真実の光りを見る力は、代々、カストール家の嫡男が引き継いで来た。

 そしてこの先も、未来永劫、引き継がれていかなければならない。


 なぜなら、


 ”そう定められているのだから……”


 - Fin -

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光速の剣と紫雷の大剣[中編] 雪月風 @setugetufuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ