相棒と駆け出す

「あー、依頼もっとこねーかなぁ」

 カウンターに頬杖ほおづえをつきながら、ミンスはため息まじりにこぼす。

 探索屋に定休日はない。本日も今か今かと依頼人を待っていた。ちなみに、ライムートとコルネリアは仕事が休みなので、店を手伝ってくれている。


「一気にたくさん来ても大変では?」とライムート。

「そうか? ルカが場所を特定して、俺が探しに行けばいいだろ?」

 ミンスの発言に対し、ルカは「たしかに」と首肯しゅこうする。

「わたしはそんなに走り回れる自信ないし……」

 体力のない彼女はガックリとうなだれた。そんなルカを見たミンスはニヤリと笑い、ライムートに肩を回す。

「そうだ、ライムートに稽古つけてもらえよ」


「「えぇ!?」」

 ルカとライムートは同時に目を見開く。驚いている二人のそばで、コルネリアは納得の声をあげた。

「たしかに。兄さんは教えるのすっごく上手ですもんね」

「だろ?」とミンスは口角をあげる。


「い、いやいやいや、無理無理!」

 あわてた様子でルカが首を横に振るので、ミンスは目を細めた。

「何が無理なんだよ」

「だ、だって……わたしの醜態しゅうたいをさらす羽目になるじゃん。恥ずかしすぎるっ!」

 そうしてルカは顔を両手でおおう。

「もう今まで散々さらしてると思うぞ」

 あきれた様子で反論してやった。


 なんだかんだあったが、結局ライムートはルカを外へと連れ出した。彼は人に何かを教えることが割と好きなのだ。ミンスとコルネリアは窓からその様子をながめる。


 ルカがへっぴり腰の状態で木剣をかまえると、ライムートは「もっとこう」などと言いながら体にれる。

「ぎぃやぁ!」

 案の定ルカは大騒ぎだ。ライムートのことが好きなくせに、あれでは嫌っていると思われてしまう。

「え、あ、ごめん……」

 想像以上のルカの拒絶に、ライムートはへこんでいる。


「なんだあれ」

 あきれているミンスとは反対に、コルネリアはふふっと笑った。立ったままの彼女に、ミンスは隣に座るよううながす。

「なんだか楽しそうですね」

「そうか~? あれじゃいつまで経ってもくっつかねーよ」

 そう言うと、コルネリアは目を丸くした。

「ルカちゃんの気持ちに気づいていたんですか?」

「あれだけあからさまなんだから気づくだろ……」

 ミンスは苦笑ぎみにこたえた。

「それもそうですね。初々しくてなんだか可愛いです」


 彼女は窓の外を見ながら微笑んだ。コルネリアはルカのことを妹のようにかわいがっている。すっかり仲良しなのだ。

 ミンスは頬杖をつきながら、視線だけコルネリアの方を向く。下から上へと瞳を動かした。その視線に気づいた彼女は困った表情を浮かべる。

「えっと、ミンス様?」

「その服……」


 いつもは動きやすそうな服を着ているが、今日は花柄のワンピースを着て、髪もおろされている。その姿が新鮮で、ミンスは無意識に見つめてしまった。

「ああ、えっと、この前ルカちゃんが選んでくれて。でもなんだか落ち着かないです。変、ですよね」

「似合ってる」

 間髪かんぱつをいれずにこたえると、コルネリアは目をまたたく。

「え、あ、ありがとうございます……」

 顔を赤くし、ミンスに背を向けた。

 照れている彼女の背を見つめながら、ミンスは右手を伸ばす。赤髪にそっと触れた。コルネリアはぴくっと肩を揺らすと、肩越しにミンスを見る。


 ガチャリ、と扉が開いた。

「はぁー、疲れたぁー」

 汗だくのルカが遠慮なく入ってくる。ミンスとコルネリアは同時に視線を扉へと向けると、ルカは二人の様子に「はっ!」と言い、無言ですぐさま扉を閉めた。その間にミンスは髪から手を放し、コルネリアは意味もなく立ち上がる。


 扉の外ではライムートの声が聞こえ、数秒後には再び扉が開いた。ライムートは顔が赤い妹を見て、大声をあげる。

「ちょっと、ミンス様!? コルに手出したんですか!?」

 大慌てでミンスに詰めよった。突進されるかのような勢いにミンスはややのけ反る。


「話してただけだけど」

「じゃあなんでコルは顔が赤いんですか!」

「さあ? なんで?」

 そう言ってミンスはコルネリアに投げかけた。

 彼女はさらに顔を赤くすると、ルカの後ろにさっと隠れた。小柄なルカでは隠れられていないのだが。


 ライムートは深いため息をつく。聞き取れるか聞き取れないかのか細い声で「まさか……主と妹が……」と呟く。

「複雑すぎるっ!」

 そう叫びながら頭を抱えるライムートを、ミンスは眺めた。さすが過保護な兄。


 そんなこんなで騒がしい店内だったが、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。ルカが「はーい」と言いながら、ゆっくりと開ける。

「ごめんくださーい!」

 元気な声とともに十歳くらいの少女が入店してきた。ルカは少女と視線を合わせる。

「わあ! リデアちゃん、こんにちは」

「こんにちは、ルカお姉ちゃん」


 リデアはルカがよく行く洋服店の一人娘。茶色の髪を二つに結んだ少女は、いつも外を走り回っているおてんばな子だ。

「それで、今日はどうしたの?」

「えっとね、髪飾りをどこかに落としちゃって……」

「なるほどね、じゃあこっちに来て。早速探すよー!」


 ルカはリデアを椅子に座らせると、ふぅと深呼吸をした。両手を伸ばす。

「探索、開始」

 光の粒が手に集まり、数分ののちにルカは手をおろした。

「見つけたよ!」

「ほんとっ!?」

「うん、じゃあ早速行ってくるね。ライムートさん、コルさん、店番頼みます」

「「了解」」

 依頼人の入店で、すっかりいつもの調子に戻った二人。落ち着いた返事が店内に響いた。


「よし、んじゃ行くか」

 ミンスは腕まくりをし、準備万端だ。そのまま店を出ようとするが、ルカの「あっ!」という声に足をとめる。

「なんだよ、忘れもんか?」

「あれ言わなきゃ、あれ」

「あー、あれか」

 気を取り直して、ミンスとルカはリデアの方を向いた。


 二人は声をそろえる。

「「探索屋にお任せを!」」


 <完>

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魔石と王子と探索屋 浅川瀬流 @seru514

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