六、本格始動の農作業⑥

 大翔は集まってきた村人たちへと、大量の川の水が必要だという旨を説明した。


「でも俺、川が何処にあるのかまだ、分からないんだべな」


 困ったように言う大翔へ、村人たちは笑顔で言った。


「川の水を汲んできたらいいんですねっ? そんなこと、お安いご用です!」


 そう言うが早いか、集まっていた村人たちは各々、水を汲むためのバケツを用意してから、村の北へと向かっていく。


「私たちで、水は用意しておきます!」


 村人たちは大翔へと言う。

 こうして村人も総出での種まきイベントが始まった。大翔は耕した農地の土を黒いビニールカップへと詰めていく。しっかりと土を詰めたそのビニールカップをビニールハウスの外へと並べ、それから種芋やタパサの球根、タネを用意する。

 一通りの種まきの準備が整った。

 大翔が一息ついていると、村の北側から、川から水を汲んできたのであろう村人たちが戻ってくる。そうして農地に水も用意され、いよいよ皆で種まきを行うこととなった。


「いいべか? このビニールカップに穴を空け、その穴に数粒のタネを置くベ。それから優しく土をかぶせる。かぶせた土は上から押さえつけないようにするべな」


 大翔は説明しながら実際にビニールカップへと種まきを行った。それを見ていた村人たちも真似をしていく。

 不器用ながらも地面にしゃがみ込んで種まきをする村人たちの姿を、村の南側にある社殿からシトが見守っていた。

 そうして出来上がったタネ入りのビニールカップに川から汲んできた水をたっぷりと与える。ひたひたになるくらい水を与えた後は、そのビニールカップをビニールハウスの中に運び込み、日光のよく当たる場所に並べていく。


「これで、種まきは完了だべ! 次に、種芋たちを植えていくべ」


 大翔はそう言うと、事前に作っていた畝へと村人たちを誘導する。畝を中心にして、村人たちが一列に並んだ。大翔はそんな村人たちに、貰ってきたタパサの球根を渡していく。結構な量を貰うことが出来たので、タパサの球根を植えるための畝は三列ある。

 それから四列目の畝には種芋を置いた。外に種芋を置いたその時だった。


「ふぁ~! よく寝た!」

「そろそろ、起きなくちゃ」

「暖かいなぁ……」


 そんな声が聞こえてきた。久しぶりに聞くその声に、大翔は聞き覚えがある。それは種芋のものだ。どうやら、休眠状態から目が覚めたようで、三つの種芋はまだ少し眠そうな声を出していた。


「おい、芋たち。出番だべ」


 大翔は寝ぼけ眼の(芋に目はないのだが)芋たちに声をかける。芋たちも自分たちの使命を思い出したと見え、すぐにしゃっきりとした声を出した。


「フラムだね!」

「フラムに違いない!」

「俺たちの仕事だ!」


 ワクワクとした様子のその声に、大翔が頷く。それからタパサの球根の植え方を村人たちへと伝授した後、大翔は種芋の元へと戻り、三つの種芋を優しく畝の中へと埋めていく。

 上から土をかぶせられる瞬間、種芋たちがこう言った。


「いい土!」

「ふかふかな土!」

「綺麗な土!」


 それは今までの土作りが上手くいったことを示していた。大翔はそんな種芋たちの言葉に少しの自信を覚える。そうしてビニールカップの種まきの時と同様、土を優しくかぶせて、水をたっぷりと与えた。

 村人たちもタパサの球根を植え終わったようで、各々が水まきへと移っていた。

 全ての作業が終わったのは昼を過ぎた頃だった。

 大翔は集まってくれた村人たちへと改めて礼を言った。


「お安いご用ですよ、ヒロト様!」

「そうです! ここは、私たちの、ジャポニア村の農地ですから!」


 大翔は村人たちの暖かい言葉に胸を熱くさせる。そうして改めて広い農地を見回した。収穫に向けての賽は投げられた。大翔はまず、発芽が上手くいくことを願うのだった。

 翌日からの大翔の日課は、朝夕の水やりと土作り、それから日中の時間に水路の建設について案を考えることになった。大翔が農地でうーん、と唸っていると、


「どうしたの? ヒロト」


 仕事を終えたと思われる、オトが農地に顔を出してくれた。大翔はオトに、水路のことで悩んでいると答える。


「村の向こう側に川があるべ? その川の水を何とかここまで引っ張って来れねぇかなぁ? って、思っているんだべ。地図でもあれば、どういう風に水を流すか考えられるんだけどなぁ……」

「ジャポニア村の現状の地図なら、僕、持ってるよ?」

「本当だべかっ? 見せてくれるかっ?」


 オトの言葉に食いつく大翔へ、オトは頷きを返す。それから地図を持ってくると言ってポエルの屋敷の方へと駆けていった。

 オトが戻ってくるまでの間、大翔は農地を眺めながらどこに川を作ったら良いかをまた考える。そうしているとオトが一枚の紙を持って戻ってきた。


「ヒロト! これ!」

「おぉっ! 助かるべ!」


 大翔はオトから受け取った地図をさっそく広げる。それから自分たちが今居る農地が村の北の端にあることを再度確認した。この村の地図の北の外、そこに川が流れている。こうして客観的にジャポニア村全体を眺めていると、大翔がふと、北の川からジャポニア村へと水を流し、その流した水を再度、北の川へと繋げる。そんな水路を作ってはどうだろうかと思いつく。

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ヤンキーが異世界で、農業に勤しみます。 彩女莉瑠 @kazuno

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