六、本格始動の農作業⑤

「この村ではね、大事な行事ごとの日取りを、ポエルが占って決めるの! ポエルの占いは本当に良く当たって、今までも村を救ってくれているのよ!」

「へぇ……」

「ポエル様はシト様の声を聞き、それぞれの行事に適した日取りを決定してくれるんだ。それは僕たち守衛が王国に向かう日取りとかも決めてくれるんだよ」

「そんなに凄いんだべか?」


 大翔の言葉にルーチェとオトが、うんうん、と激しく首を縦に振る。そんな二人を見たポエルが照れたように笑いながら、


「そんなに褒めないでください……」


 そう言って顔を赤らめる。大翔は今まで占いをしたことはなかったが、他ならぬオトとルーチェがここまで言うのだ。ポエルの占いを信じてみようと思えるようになった。そのため、


「ポエル、種まきの日取り決め、頼んだべ!」


 そう二つ返事でお願いするのだった、

 大翔がその日の農地に向かうと、農村で貰ってきたタパサの球根やその他のタネを確認した。そして眠ったままの種芋に目をやる。この辺りの植物たちはまだまだ休眠状態のようで、いつかの農地のようにけたたましい声が全くしない。


「もうすぐ、お前たちの出番だべな」


 大翔はそう声をかけた。

 その日の夕食の席で、ポエルはやけに嬉しそうにしていた。ルーチェが理由を尋ねると、


「実は、種まきの日取りがもう出たんです!」


 そう言ってウキウキと言葉を弾ませる。


「えっ? いつ、いつっ?」


 ルーチェがポエルへと身を乗り出して聞くのに、ポエルは、ふふふ、と笑った後、こっそりルーチェへと耳打ちした。


「……、えぇっ! 凄い!」


 その言葉を聞いたルーチェは驚き、そしていよいよ始まる種まきイベントにポエルと共にワクワクと胸を躍らせるのだった。




「なので、明日! 天気も崩れないですし、暖かくて、フラムの季節を堪能できる一日になりますから、種まきは是非、明日にしましょう!」


 夕食の席でもたらされた急な知らせに、大翔とオトは面食らっていた。


「そ、そんなに縁起のいい日になるべか?」

「はいっ!」


 声をうわずらせる大翔に対して、ポエルは終始ニコニコと嬉しそうに話してくれる。シトとも相談した結果、種まきは早いに越したことはなく、そしていちばん近々での種まきに適した日が明日なのだという。


「思ったより、急だったべな……。ま、俺的には助かるけど」


 大翔はポエルがもたらした知らせに驚いていたが、いよいよタネを蒔けるのだ。そう考えた瞬間、大翔の中に少しの緊張が走る。


(これで、発芽しなかったら……)


 そんな不安が頭をよぎった。

 しかしそんな大翔の不安を感じ取ったポエルが言った。


「芽が出ないなんてことは、絶対にないですよ! ヒロト様!」


 ポエルの自信たっぷりな言葉に、大翔が視線を投げかける。するとポエルは嬉しそうにこう言った。


「今までのヒロト様の働きぶりは、きっと植物たちにも伝わっておりますから」


 そうして、ルーチェと顔をつきあわせると、二人は発芽するその日が楽しみだと笑い合うのだった。

 翌日は急遽決まった種まきに向けての準備で、大翔は早朝から忙しく動いていた。それでも年頃の男子だ。金髪プリン頭の髪を逆立てることは抜かりない。しかし、今日は種まきの日と言うこともあり気合いが入る。ジャージもジャポニア村に来た時に着ていた学校指定のオリジナルジャージを着て、大翔は食堂へと入った。

 食堂へ向かう途中の廊下から外の中庭に目をやると、朝日を浴びて新緑が輝いていた。そんなやわらかな緑の中に色鮮やかな花々が咲き始めている。


(これが、ここの春なんだべな……)


 春の気配に大翔も言い知れぬ胸の高鳴りを覚えた。それから食堂へと入る。今朝はかなり早くに目覚めた大翔だったため、まだ誰も食堂には来ていなかった。大翔は食料が保管されているキッチンで適当な食べ物を物色する。そして軽く朝食を用意して、一人で食べている。いつもの席で朝食をかき込んでいると、食堂の扉が開きシュベルトが驚いた表情で入ってきた。


「おはようございます、ヒロト様。今朝は一段とお早いですね」


 シュベルトの言葉に大翔は口のものを飲み下して挨拶を返した。


「おはようだべ、シュベルトさん。今日は先に農地に行って、種まきの準備をするべ」

「さようでございましたか。お一人で、ご無理はなさらないでくださいね」

「ありがとうだべ。じゃあ、俺は行ってくる!」


 大翔はドタバタと急いで朝食を片付けると、そのまま食堂を出て、屋敷を出て、農地へと向かった。

 農地に到着した大翔は急いで土を耕していく。空気を十分に土中に含ませるように、クワを使って耕すと、器用に種芋やタパサの球根を植えるためのうねを作っていく。そうして丁寧に土をいじっていると、


「おはようございます、ヒロト様! 精が出ますな!」

「おはようございます! 何かお手伝いすることはないですか?」

「いよいよ、タネを蒔くんですな!」


 そう言って、数名の村人たちが集まってきた。大翔は彼らに挨拶をする。どこから聞いた情報なのか、本日、大翔がこのジャポニア村の農地に種まきを行うことはどうやら村人たちの周知の事実となっているようだ。このジャポニア村の伝達能力の高さには、大翔も脱帽してしまう。

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