魔王を倒したら取り憑かれた

秋雨千尋

頼む、誰か魔王の霊を祓ってくれー!

 魔王を倒し、囚われの姫を救い出し、俺たちの旅は終わった。

 今は祝勝会の最中なのだが、ずっと肩が重いし、寒気はするし、変な声が聞こえる。


「うらめしや勇者……」


 クッソ粘着質な魔王め。からあげにレモンをかけまくってベチャベチャにするし、焼き鳥は串から外すし、ポテトに全部ケチャップつけやがる。

 ぶっとばしてやろうと振り上げた拳は空振りする。まあ霊だからな!


「勇者エリオ。どうなさいましたか?」


 仲間の聖女がサラダを取り分けて持ってきてくれた。優しい笑顔に癒される。

 だがそのサラダはマヨネーズまみれになった。

 魔王このやろう!


「タチの悪い霊に取り憑かれてるんだ」


「まあ大変。わたくしが祓って差し上げますわ」


 聖女が杖を構えて呪文を唱えると、宴会場はパアッと明るくなり、天井に虹がかかり、天使が舞い降りる。

 美しい光景に会場は盛り上がったが、魔王はサングラスをかけて防いだ。



 シュンとした聖女をなだめて、次に行く。

 死霊のことなら死霊使いだろう。離れて飲んでいた彼女に事情を説明する。


「はぐれ者のアタイを拾ってくれたアンタのために一肌脱ごうかねえ」


 死霊使いは隷属させる為のダンスを始める。

 それを見た音楽家たちも乗ってきて、会場はコンサートのような盛り上がりを見せた。

 だが魔王はVRゴーグルを付けて防いだ。



 ドンヨリする死霊使いをなだめて、次に行く。

 魔王は一人で死ぬのが嫌なのかもしれないと思い、イタコに側近の霊を召喚してもらう。


「あーなんすか。魔王様のむさい顔なんか見たくないんで、まだ来なくていいっす」


 おい側近、主をぞんざいにし過ぎだろ。

 魔王は新聞を読んでいるフリで防ぐつもりだったみたいだけど、バッチリ聞こえていて手が震えている。



 これもう無理かなと投げやりな気持ちで、物知りで有名な小人族の長老に相談してみる。


「未練を晴らしてやるのが一番ですかな」


 集中して魔王に問いかける。

 お前はいったい何がしたいんだ。なんでも手伝ってやるぞ。

 魔王は答えた。


「人間の暮らしにずっと憧れていた。VRゲームで体験してより気持ちが強くなった。どうか背中に居させてくれ」


 くそう、そのゲーム俺にもやらせろよ。

 仕方ないな、これも命を奪ったことの償いだろう。気が済むまで堪能させてやるか。


 マグロの刺身に箸を伸ばしたら、ドバッとからしを付けられた。


「やっぱ出ていけー!!!」



 終わり。

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魔王を倒したら取り憑かれた 秋雨千尋 @akisamechihiro

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