クラスメイトに相手にされないほど地味な俺が、VTuberを始めて、相手にされる様になったのは嬉しいが、好きな女子にバレそうなので必死に嘘をついて凌ぎます

二重人格

第1話

「よし。明日用の動画編集が終わったし、後はアップして──」と、俺は自室にあるノートパソコンに向かって呟きながら、作業を進める


 ──アップが終わると「反応が楽しみだな~」と、呟きながら、パソコンを閉じた。


 次の日の朝──賑やかな教室に入り「おはよ……」と、ボソッと挨拶をして、俯き加減で自分の席に向かう──。


 席に座ると突然、クラスメイトが「おい、昨日のヒロの漫画解説、観た?」と、俺の席の後ろで会話を始めた。


「観た観た。スゲェー読み込んでるよな」

「なぁ!」


 自分の名前なんて付けなきゃ良かった……ヒロって言われ度に、いちいちビクッと反応してしまう。──まぁあの時はクラスメイトに見つかるぐらい広まるなんて思っても見なかったからな。


「今後の予想とかも納得できるし、更新される度に毎回、観ちゃう」

「俺も俺も。それにキャラクターの女の子もメッチャ可愛くない?」

「うん、マジ可愛い」


 そりゃそうだ。あれは──と俺が思うと、教室のドアがガラガラと開き、小山 真由美まゆみが小さく手を振りながら「おはよぅ」と入ってくる。


 艶のあるセミロングの髪型にアイドルの様に整った顔立ち……キラキラと輝きが見えそうなぐらい明るい笑顔。今日も相変わらず可愛い。


 俺がVTuberのキャラとして使っている女の子は真由美さんを似せているんだ。可愛いに決まっている。


「──にしてもよ。ヒロの漫画解説をやってる人、誰なんだろうな? なんかあの喋り方、知ってるような気がするんだよねぇ」


 ドキッ!!! マジか!? 俺ってそんな特徴のある喋る方してるのかぁ!?


「気のせいでしょ? あの人の予想、結構当たってるし、関係者か何かじゃないって噂されてるぜ」

「そうかなぁ」

「そうだと思うよ? それよりさ──」


 クラスメイトはそう言って、別の話を始める。


 ふぅ……助かった──地味でクラスメイトに相手にされていなかった俺が、VTuberとして漫画の解説を始めて、色々な人に相手にされるのが嬉しくて、少し周りが見えていなかったかもしれないな。


 俺が解説している冒険王 ロイは少年漫画だけどシリアスやギャグ、恋愛要素まで盛り込まれていて、年齢や性別問わず人気の作品だ。気を付けないと、そのうち身バレしてしまうかもしれない。


 ※※※


 授業が終わり、いつものように通学路の並木道を一人で歩く。バレない様に気を付けると思ったけど、具体的に何をすれば良いんだろ?


「ヒ・ロ・ト・君!」と、突然、後ろから聞き覚えのある女子の声がする。まさかな……と、足を止め、後ろを振り返ると、真由美さんが一人、こちらに向かって歩いて来ていた。


「えっと……何?」


 俺がそう答えると、真由美さんは俺の前で足を止め「一緒に帰りませんか?」と、誘ってくる。


「え、な、何で?」

「何でって……友達誘っても、今日は誰も一緒に帰れないって言うから、一人で歩いていたんだけど、寂しくなっちゃって……」


 真由美さんはそう言って苦笑いを浮かべ「そうしたら大翔ヒロト君が前を歩いていているのが目に入ったから、声を掛けてみたの」


「あぁ……そういうこと」

「ダメかな?」


 俺は首を横に振ると「うぅん、ダメじゃないよ。ビックリして何で? って、聞いちゃっただけだから」


 真由美さんはニコッと微笑むと「良かった」と返事をしてゆっくり歩き出す。俺も真由美さんに合わせて歩き出した。


「──そっかぁ、考えたら私達、同じクラスなのに、あまり話した事なかったね」

「うん……」

「そりゃ、ビックリするかぁ……じゃあ、今日は色々聞いちゃうかな」


 真由美さんはそう言ってニヤニヤしながら俺を見つめる。上手い返しが見つからなかった俺は素っ気なく「お手柔らかに……」


「ふふ。じゃあ、まずは──趣味は何ですか?」

「趣味ねぇ……」


 誰かに誇れるような趣味を持っていない俺は、直ぐに思い浮かばなくて言葉を詰まらせる──結局、思い浮かばなくて「ゲームと漫画……かな?」と、正直に答えるしかなかった。


「ゲームと漫画ね。漫画はどんなの読むの?」

「──週刊少年漫画雑誌○○」


 俺がそう答えると真由美さんは困ったように眉を顰める。


「えっと……その中で何が好きなのかな?」

「全部好きだから読むよ。特にだったら、やっぱり──冒険王 ロイだね」


 正直に言ってしまったけど、大丈夫だったかな? 俺が心配していると、真由美さんはパァッと明るい笑顔をみせ「あ、ロイ好きなんだぁ。私も好きだよぉ」と、テンション高めに言った。


「え、真由美さんも読むの?」

「意外? ロイは女性にも人気だし、クラスの女子も結構、読んでいるんだよ」


 そっかぁ、友達が読んでいるから読む。そういう繋がりもあるんだ。だったら、そんなに詳しくない?


「ねぇ、大翔君はVTuberに興味ある?」

「え!? ぶ、VTuber!? ──聞いたことあるけど……興味はないかな」


 あー……いきなりVTuberなんて言い出すから、驚きのあまり大声を出してしまったけど、誤魔化せたか?


「なんだぁ、興味ないのか。残念」

「──残念?」

「いえね、ロイの漫画を解説しているヒロっていうVTuberが居るんだけど、その人の動画、面白いから、その話題で盛り上がれるかな? って、思って」


 ブッ!!! あぶなぁ! 超あぶなぁ!! 思わず吹き出しそうになったぜぇ……そうだよな、クラスメイトが話しているぐらいだから、真由美さんが知っていても、おかしくないよな。油断したぁぁぁ……。


「あぁ……そういうこと」

「うん。じゃあ、とりあえずVTuberの話は置いといて、大翔君はロイの何処のシーンが好き?」


 それを聞かれたら語らずにはいられない。俺は「そうだな──」と、お気に入りのシーンを話し出した。


 ★★★★★


 マシンガンのように話し続ける俺に対し、真奈美さんは嫌な顔せずに聞いてくれている。それどころか『へぇ、ほぅ、面白い! うんうん』と、様々な返答をしながら表情豊かにして聞いてくれていた。


 そのせいなのか、まるで魔法に掛けられたかのように、話が弾む。大勢に向かって語るのも良いけど……一対一も良いな。そう感じさせるほど、楽しかった。


 ──ここを曲がれば、もう駅に着いてしまう。もっと話したい……でも迷惑かな? 俺は時間稼ぎがしたくて、とりあえず立ち止まった。真由美さんも俺に合わせて立ち止まる。


「どうしたの?」

「え……いや……ちょっと……」


 真由美さんは不思議そうに首を傾げると──何か思いついたのか、首を戻しパンッと胸の前で両手を合わせた。


「今日、天気良いよね」


 天気? 俺はそう言われて、空を見上げる。確かに今日は天気が良くて、青く澄み渡っていた。


「うん、そうだね」

「散歩しないと勿体ないと思わない?」

「え?」


 ──あぁ、俺の気持ちを察して、気を遣ってくれているのか。見掛けだけじゃなく、心も優しい子だな。


「あ、うん。そうだね」

「じゃあ、近くの公園に行こうか?」

「うん」


 ※※※


 公園に着くと、俺達はとりあえずベンチに座る。俺は直ぐに「でね。ここでワンポイント! あるんだ」と、会話を続けた。すると真由美さんはニヤッと微笑み、何故か人差し指を立てる。


「どうかした?」と俺が聞くと、真由美さんは人差し指を小刻みに揺らしながら「ねぇ、大翔君。VTuberやってる?」と言ってきた。


「え!? ──いや、やってないですけど?」

「そう……」

「突然、どうしたの?」

「いえね、さっき言ったVTuberと大翔君の喋り方や、ワンポイント! って、人差し指を立てながら揺らす仕草が似てるなぁって思って」


 俺、無意識にそんな事をしてたのかぁ!! 編集している時も、一瞬だから気付かなかった!!!


「へぇ……そうなんだ。でもそのVTuberって、声も形も女の子なんでしょ?」

「──そうそう。私に似た女の子! ねぇ、大翔君。VTuberやってる?」

「ん?」


 あぁぁぁぁ……しまった!!! VTuberなんて興味ない。なんて言っておきながら、女の子なんだよね? って、不自然過ぎだろう!!!! で、でも今更、興味があって、やっぱり知ってたって、言うのも不自然だし──。


「やってないですねぇ」

「そっかぁ……残念だな」


 真由美さんは本当に残念そうにそう言って、項垂れる。子供の様にパタパタと両足を動かすと、今度は空を見上げた。


「私、そのヒロってVTuber好きなんだよねぇ」


 え……好き? いま好きって言ったよね!? ウヒョー!! 嬉しいぜぇ!!!! 


 ──でも、ちょっと待て。それは恋している方か? 普通に考えれば芸能人が好きとか、そっち系の気がするが……真由美さんの事が好きな俺は超、気になるぞ!!!!


 俺がチラッと真由美さんの方に視線を向けると、真由美さんもチラッとこちらに視線を向けてくる。目と目が合ってしまい、真由美さんは照れくさそうに、プイっと顔を背けた。


 この反応って、まさか……ほぼ確信に近いぐらい分かっていて、煽ってるパターンか? だったらこれ以上、嘘をつき続けていても意味ない気が……だったら──。


 俺はゴクッと唾を飲み込むと「えっと……仮に、仮にだよ?」


「うん」

「俺が、そのヒロだったら。真由美さんはその……気持ち悪いとか、幻滅したり……する?」


 真由美さんはパタパタしていた足を止め、直ぐに大きく首を横に振る。そしてニコッと微笑むと「好きって言ってるのに、そんな事する訳ないじゃん」


「なるほど……えっと、俺がVTuberのヒロです」


 俺が気持ちを切り替え、直ぐに打ち明けると、真由美さんはクスッと笑う。拳を握り、手を伸ばすと、コツンと俺の腕を突いて「知ってた」


「はは……やっぱり? どうして分かったの?」


 真由美さんは落ち着かない様子で髪を撫でながら「え──好きな人の事だもん。それは気付くよ」


「──えっと……さっきから好きって言ってくれてるけどさ。その……それは恋愛としてって、意味で受け取って良いのかな」


 真由美さんは撫でていた手を止めると、俯き加減で「うん、もちろん」と言ってくれた。


 両想いだと知って、何とも言えない高揚感に包まれる──。


 何で俺なんか? とか、聞きたい事はまだあったけど「──ありがとう、嬉しいよ。俺も君の事が前から好きだったんだ」と、正直な気持ちを伝える。


 真由美さんは胸の前で両手を合わせると「本当! 嬉しい……」と、最高に可愛い笑顔を見せてくれた。


 ★★★★★


 俺達が付き合い始めてから数ヶ月が経つ。VTuberの方はマユ《真由美》も出てみたいというので、俺の部屋に呼び、二人でやっていた。


 付き合う前の漫画解説は、どうしても恋愛の部分が薄くなっていたけど、マユと一緒に解説するようになり、充実した内容になっていった。そんなある日──。


「生配信。超、緊張したな」

「でも楽しかったぁ」

「うん、マユのおかげで恋愛の方も好評だったしね」

「えへへ、嬉しい」


 マユはそう言ってテーブルの上にあったオレンジジュースが入ったコップを手に取り、飲み始める。


「──ねぇ、マユ」

「なに?」

「前から聞こうと思っていたんだけどさ。何で地味な俺の事なんて好きになったの?」

「え。何よ、突然」

「いや……恋愛トークしたばかりだから、その勢いで聞いちゃおうかなって思って」


 マユはテーブルにコップを戻すと、ピタッと俺の体に自分の体を寄せてくる。


「そんなの……一つの事を一生懸命やってるヒロ君が素敵だと思ったからだよ」


 それを聞いて体がカァ……っと熱くなる程、恥ずかしくなる。自分で聞いといて何だが、恥ずかしさのあまり、視線を逸らしてしまった。


「──ん?」

「どうしたの?」


 視線を逸らしたことで、コメント欄が何やら騒がしいのが目に入る。


「あ~~~~!!!!!!」

「ど、どうしたの!?」

「生配信が切れてない!!!!」

「えぇ~!!!!!!」


 慌てて切ったが、時すでに遅し。コメント欄が、俺達のやり取りをみた感想で、いっぱいになる。


 俺達は顔を見合わせてクスッと笑い、そのあと「ハハハハハ」と、声を出して笑った。


 これでVTuberのヒロは俺だと疑う人が出るかもしれない。だけど大丈夫──俺にはマユがいる。怖い物なんて何もない。


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