気まぐれ信号機

@ramia294

 

 私の通う学校の近く。

 シャッターばかりの小さな商店街があります。


 そんな商店街にもいくつかの交差点が、あります。

 小さな交差点ばかりの商店街。


 信号のある交差点はひとつだけ。

 その信号は点滅信号。

 商店街を横切る車が、優先。

 不思議な点滅信号。


 商店街には、人の姿を見かけることが、あまりなく、この商店街を横切る車は、地元の人々の運転。

 人の数より、鹿の数が多い奈良の都のシャッター通り商店街に、点灯を続ける信号は、必要とされません。


 真夜中。 

 日付が変わります。

 天空の月が、まあるい光の輪投げの時間。

 重なって、上を向く時計の針へナイスイン。

 シャッター通りの信号が、不思議な点灯をするという。

 その時を待つ私。

 

 年に数回あると、地元高校生だけが知る、気まぐれな点滅信号の恋の告白応援タイム。

 不思議な点滅信号。

 そんな時間帯は、鹿たちも夢の中。

 今夜は、いつまでも点滅を続ける信号機。

 地元の高校生の恋の応援信号機も。

 就寝中?


 古い都の気分を引きずる町。

 お役人も信号機の会社ものんびり。

 彼等は、誰も気づいていません。

 気づいているのは、

 夜中の町を駆け抜けるキツネやタヌキや、

 イタチのみなさん。


 応援タイムを待つのは、

 赤くて、細いフレームの眼鏡。

 の、奥の瞳に、真剣な光を宿す私。  

 私は、地元の女子高生。

 風に乱れる髪と弾む息。

 弾む息にくもる眼鏡。

 眼鏡を外して、くもりを拭う困った様な、表情の私。

 私は、タレ目の女子高生。


 日付が変わる寸前にと、走ってシャッター通りへ。

 すれ違うのは、ジョギングをされている人、

 たったひとり。

 奈良マラソンの練習ですか?


 人気が、少ない…。

 寂しい、シャッター通り商店街。


 年に数度の真夜中の奇跡。

 どんな点滅信号でしょう?

 三十秒ほどのその時間。

 その信号の光の中に、告白を。

 お互いの思いが、その恋を望めば、

 幸せの結末が保証されるという、

 地元の高校生たちだけの知る

 秘密。


 タレ目の私の憧れの…あの人。

 成績優秀。

 生徒会の会長。

 テニス部のキャプテン。

 学校の女子みんなの憧れ、

 同じ教室の隣の席の横顔。

 独り占めしたい、爽やかな笑顔。

 誰よりも…。

 私を…。

 見て欲しい、その優しい目。


 帰宅部の私。

 本ばかり読んでいる、赤い眼鏡の奥の少し困ったような顔。

 鏡の前で、笑顔の練習、

 ぎこちない笑顔。

 笑うたび、無くなってしまう私のタレ目。

 私の目は、何処に行ってしまうのでしょう?

 

 

 彼のもとに、迷わず飛び込むテニスボール。

 羨ましくて、泣きたい私。

 しかし、鏡の中。

 泣き顔の時も、

 無くなってしまう私のタレ目。

 告白する勇気が持てない私。


 何度打ち返されても、彼のもとに飛び込むボールの勇気、私にください。


 私の小さな胸に、告白する勇気のスペース。

 見当たらず。

 隣の席のあの横顔、

 時折、優しく話しかけてくれるあの笑顔。

 見るたび。


 私の心がギュッとなり、濡れタオルを絞る様に、好きという気持ちが、絞り出される。


 私の心。

 降り止まぬ初夏の雨の中。

 忘れられたタオルなの?


 毎夜通う私。

 毎夜すれ違うのは、

 ジョギングされている方、ひとりだけ。

 奈良マラソン、頑張ってください。


 信号は、点滅のまま。

 私の勇気もついたり消えたり。

 揺らぐ決心。

 くじける私。

 下がる目尻。


 今夜も、いつもと同じ点滅信号。


 翌日。

 少し眠い目を擦りながら、聴く先生の子守唄。

 ではなく、社会の授業。

 戦国時代の武将の雄々しい姿。


 女子高生の青い春の時代。

 恋の戦国時代。

 取り残されそうな私。

 負けいくさの…予感。


 眼鏡を外して、擦る目。

 眠気に、私の目。

 ますます下がり、無くなりそうに。

 私の目。

 異世界に、出かけたかしら?


 私を見つめる視線。

 隣の席のみんなの憧れ。

 彼に、眼鏡を外した、タレ目の素顔を見られて。

 困り顔の私。

 無くなりそうな私の目。


 私の胸の中にも、点滅信号が。

 それは、ピンチの赤。

 恥ずかしさに、頬も熱くなり。

 心、ますますくじける。

 目尻、ますます下がる。


 それでも諦めきれない、私。

 今夜も交差点。

 変わらない点滅信号。

 くもる眼鏡。

 いつものジョギングの方、

 すれ違う。

 そして…、

 立ち止まる。


 呼ばれる私の名前。


「やっぱりそうだったのか。眼鏡外していたから、判らなかった」


 ジョギングの方の声。

 教室の隣の席の君の声。

 慌てて、眼鏡をかける私。

 憧れの君、確認。

 胸の中の点滅信号、

 激しく点滅。

 タレ目の女子高生のピンチ。


「授業中、眼鏡を外した姿、確認したからな。ランニング中、すれ違う可愛い女のコが、君だと確信したよ」

 

 胸の点滅信号、さらに激しく。

 私の口は、パクパク。

 泣きそうな私の顔。

 私の目、

 まだあるかしら?

 今だけ、異世界へは、出かけないで。


「この信号だろ?例の信号。僕もどんな風に変わるのか、興味があった」


 私の思惑。

 バレバレ。


 恋の相手は、あなたなの。


 その言葉を喉元から先へと運ぶ勇気。

 私の小さな胸には、収まるスペースがありません。


「この信号に僕も願った。だから、奇跡をくれたのかな?こうして、君に告白するチャンスをくれたからね」


 あれ?

 何の事ですか?

 

「告白する勇気、持てなくてね。教室で、君の笑顔を見ると、僕は、いつも幸せになる」


 あれ?

 私、タレ目なのに?


 気がつけば、点滅信号が、丸からハートに。

 シャッター通りの信号機。

 私の憧れの彼の願いを叶える途中でした。

 彼への奇跡プレゼントは…、


 タレ目の私?

 

「私の願いもあなたなの」


 私の精一杯の後だし告白。

 少し卑怯?


「でも…。私はタレ目。笑うと目がなくなるのよ」


 最初から欠点を隠さず。

 少し正直。


「それが、可愛くて好きになった」


 きっと、いつまでも忘れない、君から貰った宝物の様な言葉。


 信号機のハート型のピンクの光。

 いつの間にか、点灯しつづけています。


 お月さまの光の中。

 近づいていく、あなたと私の影。

 

 ピンクハートの信号機の光。

 寄り添う影の真ん中に。


            (⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)⁠❤




 



 


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