ミリオンルーム
wadrock
第1話 ファーストルーム
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プロローグ
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閑静な住宅街にごく一般的な二階建ての家があった。その家のダイニングでは高齢の男性と若い女性がテレビを見ながら朝食を取っていた。
『ニュースです。本日未明、
老人は箸を置いた。
「新生化治療か。あの自分のクローンを用意して記憶を移し替えるって物だろ」
「そうね。最近はエステの代わりに受ける人もいるそうよ。ずっとキレイなままでいられるって素敵よね」
「人格まで年齢に合わせて矯正されるそうじゃないか。それはもう別人じゃないのか。わしは時が来たら自然に任せたい物だな」
「おじいちゃん、そんな寂しい事言わないで。ちゃんとした病院で受ければ安全だし、学校の皆も良い事だって言ってるわ」
いつもと変わらぬ日常。日本の人口は2000万人を切って久しく、人口の維持を目的とした若返りの治療が、全国のどこでも受けられるようになっていた。
老人の目はどこか寂しげだった。震える手でテレビのリモコンに手を掛けるのだった。
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第1話 ファーストルーム
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ジリリリリリン
ジリリリリリン
起きなくては。けたたましい金属音が聞こえる。
ジリリリリリン
「お、起きる。まて!」
ジリ、ガチャ
「目覚めたかね。それでは良い人生を」チン…
返事をする間もなく、無意識に取った電話は静かになった。
それは映画でしか見た事が無いようなダイヤル式の黒い電話で、そっと受話器を戻して辺りを見渡した。
「ここは?」
どうやら白いタイルが敷き詰められた10メートル四方の部屋にいるようだ。
壁はまっさらで、家具と言えるのは部屋の中央に電話が置かれている台があるだけだった。
「この変わった形の台は、もしかして手術台か」
急に寒気を感じたのは、不気味さを覚えた為か。
直前の記憶が曖昧だ…
俺の名はカイト、大学生だ。記憶は問題ないようだが、起きる前は確か。
「学校終わりにバイトに行って、仕事が長引いて深夜になったな。その帰りに公園のベンチに座ったら急に疲れが出て寝てしまったのか…」
体の感覚を確かめるが眠さはない、かなりの時間が経ったようだ。
「誰かいないのかー!」
辺りの壁を叩きながら歩いたが、分厚いコンクリートの冷気が手に伝わるだけだ。いや、一ヶ所だけ壁の色と同じドアがあった。
「おーい!開けるぞー!」
返事はない。ドアを開けるとそこには部屋全体にヒマワリの絵が描かれている部屋があった。中に入り思わず立ち尽くしていると、ふと入って来たドアが気になり振り返った。すると、まるで最初からドアなど無かったかのように壁があるだけだった。
「もどれないのか。ん、なんだあれは」
壁から振り返ると、そこには先ほどの部屋と同じように台があり、木製の台の上にはバナナが籠に入れられて置かれていた。急に空腹感を覚えた為、バナナを一本食べてみた。
「ううう、喉が痒い!忘れていた…」
そうだ。俺は軽度のバナナアレルギーがあった。大人になって症状が緩和されて忘れていたが、小さい頃は親が知らずにバナナを与えて顔が真っ赤になり、急いで病院に連れて行かれたと聞いた。
食べかけのバナナを吐き出し、次の部屋のドアを探した。すると入って来た方と反対側にまたドアがあった。
「他に行ける所は無いようだ。何が起きているか分からないが、一刻も早くここから出なくては」
焦る気持ちで次の部屋に入ると、そこは薄暗く、鉄製の柵に囲まれた広いプールがあった。水の底は見えないほど深く、間違って落ちたら助からなそうだ。
「何か上がってくるぞ。うわ!」
それはプールではなく水槽であった。深い闇の中からシャチが静かに現れ、じっとこちらを見つめていた。
驚いたが不思議と恐怖心は無く、むしろどこか懐かしい気持ちになった。
「確か子供の頃、水族館に連れて行ってもらったっけ。その時はシャチが好きで帰りに人形まで買って貰ったな」
シャチを見ながら鉄製の柵を頼りに水槽の周りを歩くと、この部屋も出口が一つだけある事が分かった。それからも神社の鳥居があったり、木々が生い茂る森のような部屋があったが、次第にいくつかの法則がある事が分かった。
「どの部屋もどこかで見た気がする。もしかして自分の記憶を頼りに作られているのか」
いつ終わるともしれない部屋を次々に開けて行ったが、明らかに異質な部屋にたどり着いた。
そこは壁が真っ暗に塗りつぶされた部屋で、足元には横断歩道があった。右と左の両端にはコンクリートの床があり、自分は道路の真ん中で立っている格好になっていた。
「おいおまえ!早くこっちに走れ!」
自分以外の声に驚いた。
「他にも人が居たのか!」
「良いから早く来い!死ぬぞ!」
声の方向に人影が見えた。嫌な予感がして声の方向に走ると天井がゆっくりとしたに向かって落ち始めた。
「急げ!早く走れ!」
『ドーン!』
声の所まで走りきると、今までいた場所は天井と床に挟まれていた。
「はあはあ、助かった…ありがとう!あんたは?」
声の主を見ると寒気が走った。自分がいたのである。
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