第3話 最後の部屋

30、80…。通過した部屋の数は次第に増えて行った。また、自分と同じような相手にも何度も合ったが、センのような男はいなかった。


「センは殺し合いじゃないと言っていたが何が違うんだ」


ある部屋は壁から炎が吹き出し、一人だけ入れるロッカーが中央に置いてある部屋があった。その時は相手に負けて先に入られてしまったが、相手がロッカーに入った瞬間に壁の火が止まり、それロッカーは二度と開く事が無かった。


「あれは学校で火事が起きた時だったか。俺と友だちはロッカーに隠れようとしたが追い出された。しかし自分は走って逃げて助かって、ロッカーの奴は助からなかったな…」


争いが終わると記憶が鮮明に甦ってきた。なぜ思い出せなかったのか分からない。


400、600…。


「セン。お前の気持ちが少し分かってきた気がする」


足元から水が沸き上がる部屋では唯一の救命胴衣を相手に着せてやった。すると壁の一面が空き、水が一気に流された結果、浮いている相手は耐える事も出来ず壁の向こうに流されて行った。


「やはり殺し合いでは無かった…。どう生きるかより、その状況になった自分ならどうしたか。記憶の通りに行動できたかが大事だったのか」


しかし悪趣味すぎる。どれだけ相手と協力しようとしても、二人が生き残れる事は決して無い。また一人になるまで大事な記憶を思い出す事が出来ない。


結局どれだけ抗っても理不尽な結果となり、自分が生きているのは全くの偶然と言うしか無かった。何をしても無駄、次第にセンの事を思いながら部屋を進む事しか出来なくなっていた。


「長かった。ついに1000部屋目か…」


ここでも自分と戦う事になるだろうが、どのような部屋が出るかは、ある程度推測できるようになっていた。それは「競い会う部屋の前にその部屋に関わる物が置かれている」という事であった。


ここ数回はバイトで使用した器具や大学の教科書など、最近の思い出と言える物が続いていた。となると次の部屋は新しい記憶から来るはずだ。


「バカな…ありえない」


そこには黒い壁に囲まれた、横断歩道があった。


「同じ部屋が二度出るなんてあり得るのか。いや違う、前は部屋に入ったら横断歩道の上にいた。今回はコンクリートの上にいる」


まさか俺がセンになるのか…


センが見れなかった部屋を目指して来たが、ここでは過去の立場の自分を相手にしないといけない。しかし自分の腕に傷はなく、自分はセンでは無い。


しかし、センならどうするか。センなら…


思い出の部屋で彼の事に考えを巡らした。もし、彼もこの部屋が二回目だったのなら生き残りたかったのか、相手を助けたかったのか。


「センは危険を知らせてくれた。この世界について教えてくれた。しかし何であそこまで優しかったんだろう」


何日もこの世界を過ごした事で、同じ経験をしたであろうセンも無意味は事はしないと思うようになった。


彼は「次の部屋に行きたい」と言っていた。それは本心だろう。それなら自分に声を掛けずに見殺しにしなかったのは、自分の感情に従っただけなのか。


何しろ生き残ろうとしようが、助け合おうとしようが、どちらが助かるなど最後まで分からないのだ。そうなるとセンが無意味な事はしないという前提ならばおかしい。


「いや、一回目のレッドは横断歩道の上で声をかけられなかった。それで生き残ったのなら。二回目は逆の立場だと気づいたらどうするか」


自分が横断歩道に出れない以上、もし生き残りたいのなら相手をこちらに呼び寄せるだろう。


「助けたいのなら『早く来い』じゃなく、『向こうへ行け』と言うはずだ」


それに、後悔した記憶をやり直すための部屋など一度も無かった。そういえば「父親が追いかけて来た」もセンが言ったから思い出せたんだ。


嫌な予感がする。


今思うと「並んでゆっくり歩けば良い」との発言もおかしい。


「もしかすると二人で縦に並んで横断歩道を渡り、後ろにいる方が事故に合うがセンのクリア条件なんじゃ…」


今まで部屋をクリアしないと記憶を鮮明に思い出せなかったが、二回目なら最初から覚えていても不思議はない。実際に自分の記憶ははっきりしている。


「もしかすると、センは途中で一人で走るつもだったのか。それが自分が驚いて先に走ったから…。あの時の叫び声も変だった。『この配置は危ない』なんてクリア条件を知っていないと言えない」


嫌な考えが頭を横切ったが、思い出の中の優しいセンを疑いたくはない。


すると横断歩道の横から光が漏れだし、何度も見た自分と同じ姿の者が入って来た。


「止まるな!向こうに走れ!」


するともう一人の自分は向こうの歩道まで走った。


「いや、センは優しい奴だ。これでいい」


向こう側のドアからもれる光が、人のシルエットを描いていた。


「そのまま行け!」


黒い影は手を振っていた。


「すまないセン、次の部屋を見る事は出来なかった。だが君との思い出を忘れたく無かったんだ」


初めて人がドアに消えるのを見送った。横断歩道の向こうに「頑張れ!」と声をかけ、自分が消えるのを待った。



何も起きない。


この部屋にはもう自分しかいない。自分しかいない!?


今まで最後の一人になるとドアが表れた。


「もしや」


振り替えると壁にはいつのまにかドアノブが付いていた。


「良いのか、行くぞ…」


ドアを開けると、白衣を着た細身の男性が椅子に座っていた。


「どうぞお座り下さい」

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