メイク・ブレイク

IKURAONIGIRI

第1話初めてのメイク・ブレイク

湧き上がる歓声、鳴り響く爆破音、美しくそれでいて堅牢な建物がライトアップされた舞台の上で激しく崩れていく様子が目の前に広がる。会場に設置されたスクリーンには盛大な拍手に包まれて笑ういとこの姿があった。


「やっぱりあの時のサシゴの姿はかっこよかったな」俺がメイク・ブレイクにはまるきっかけになったゲームを思いだしながら船に揺られ、新しい住居のある島<メイ・クラフトアイランド>に着くのを待つ。「またメイク・ブレイクの話してる。ビルド。」母さんにあきられるが、はやる気持ちを抑えられず、ソワソワしてしまう。落ち着きのない自分の姿を見てそれまで船に酔うからと遠くの方を見ていた父さんが笑った。「お前は本当にメイク・ブレイクが好きだな。」そう、こんなにも俺が興奮しているのは他でもない、(メイク・ブレイク)が見られるからだ。メイク・ブレイクとは今や世界中で人気のある建物を作って壊すゲームだ。ゲームはメイ・クラフトアイランドが開発した特殊装置を設置したスタジアムで行われる。「だって、生で見るのは久しぶりだろ。段々完成されていく建物も、完成された建物が目の前で崩れていくのも迫力すごいもん。あれを見て何も感じないやつはいないだろ。」これから見る予定のメイク・ブレイクに心躍らせ、いとこのサシゴがいる島につくのを待つ。


島に着いたとき、「おーい」とこっちに手を振る人の姿が見えた。「サシゴ!」久しぶりに見る姿は、昔見たそれ全然変わらない。しいていえば、目線がだいぶ近くなった。「サシゴ君、久しぶりね相変わらず元気そうで良かったわ。今日のメイク・ブレイク、楽しみにしているわ。」「チケット送ってくれてありがとう。ビルドがどうしても生で見たいとうるさくてな。」

余計なことを言う父さんを小突いておく。その様子を見たサシゴは笑いながら、父さんたちに言った。「おばさん、おじさん、ようこそ、メイ・クラフトアイランドへ。まさか引っ越してくるとは思いませんでした。チケットはそのお祝いです。」懐かしいいとこの姿に、両親のテンションも少し上がる。「そうだ、せっかくですし、この島の案内しますよ。おじさん達もこの島ひさしぶりでしょう。」そう言うと、サシゴは俺たちを連れて案内をし始めた。


「このメイ・クラフトアイランドは、ここ水の町、巨大な火山のある火の町、常に風が吹いている風の町の三つの町があり、その中央にこの島の名物、<コンストラクション>があります。たしかおじさんもここの出身でしたね。」「ああ」コンストラクションとは主に建築を扱う学校だ、しかしいろんな学部が増えていって、デザイン、芸術なども扱っている。他にもとサシゴが右に振り向く。「あそこに見えるのが、メイク・ブレイクのスタジアム<ファウンテン>、他にもスタジアムはあるけど、あれがこの水の町で一番大きいな。」「懐かしいなぁ。」父さんが呟いた。「ビルド覚えているか、お前小さい頃はサシゴの後ろちょろちょろついて回ってはなにかと真似事してたもんだ。水の町も変わらないな、昔の思い出が蘇るよ。」確かに見覚えのある建物もちらほらある。サシゴの案内を受け終え、俺はもう少し町を見て回る両親と別れ、サシゴとファウンテンに向かうことにした。メイク・ブレイクが始まるまでまだ時間はあるが、他に行くところもないし、サシゴと話したりなかったのでサシゴについていくことにしたのだ。「ビルドはさ、あのスタジアム覚えてたか。」ふいにサシゴが話しかけてくる。サシゴの方を見ると、なぜか照れている。あーなるほど、おそらくサシゴは昔サシゴが出ていたメイク・ブレイクについて俺に聞きたいのだろう。「もちろん、覚えているよ。サシゴのゲーム見によく母さんに連れて行ってもらってたから。メイクタイムもブレイクタイムも全部見てた。」メイク・ブレイクは建物を作るメイクタイムと建物を壊すブレイクタイムの二つに分かれる。一般的には派手で勢いのあるブレイクタイムの方が人気があるが、俺はメイクタイムの段々建物が完成されていく様を見るのが好きだった。俺の言葉聞いたサシゴは嬉しそうな顔をした。 それからファウンテンに着くまでの間俺とサシゴは会話に花を咲かせたのだった。 


ファウンテンに着くと、スタッフが集まって何やら深刻そうに話し合っていた。その中の一人がこちらに気づき、走って近づいてくる。「サシゴさん!良かった、探しましたよ。」あまりに慌てて話しかけてくるスタッフの様子に驚きながらサシゴが話し返す。「あれ、開始時間にはまだ余裕があるはずですが。」「それが、なんとサシゴさんのチームに一人欠員が出まして、このままだとメイク・ブレイクを開催出来ません。チームの人にも誰か参加出来ないか聞いてもらっているのですが、なかなかうまくいかなくて、サシゴさんにも助力願えたらと思いまして。」スタッフの言葉に俺は頭が真っ白になった。えっ、メイク・ブレイクが開催出来ない?一人ショックを受けている俺の隣でサシゴは少し考える素振りを見せ、目線をこっちに向ける。なんだかいやな感じだ。おしゃべりのサシゴが黙っているなんて良くないことに違いない。目線を合わせないようにしていると、サシゴがニヤッと笑いまるで子供のようにとんでもないことを言い出した。「なら、この子が出ますよ。名前はビルド、俺のいとこです。」次の瞬間、俺の言葉にならない声が響いた。何を言っているんだコイツは。またしても頭が真っ白になる。「えっと、ビルドさん?もメイク・ブレイクのプレイヤーなのですか。」スタッフが困った顔でサシゴに話しかける。「いや、けど知識はあるし、なによりメイク・ブレイクが大好きなんだ。ならなにも問題ないだろ。」嬉しそうに笑うサシゴ。スタッフを言いくるめ、気がつけば、俺はスタジアムの控え室にいた。もう訳が分からない。


目の前には見たことのある顔の三人組がいた。見たのはテレビで、だが。

「誰だ、そいつ。」真ん中の髭面の男が口を開いた。サシゴが俺の紹介をする。「この子はビルド、オレのいとこだ。欠員の代わりに今日のゲームに出てもらう。」髭面の男がため息をつく。「なに勝手に決めてんだ。お前はいつもそうだ、ったく。」雰囲気がピリつく。

今度は俺の方に向かって髭面の男は話しかけてきた。「お前も、悪いことは言わねぇ、やめときな、今日は特に。」今日はという言葉が気になり、つい聞いてしまった。「今日は、とはどういうことですか。」髭面の男の眉が少し上がる。「お前知らないのか、今日はランクマッチだ。そしてお前の横に立っているのがランク1位、今のメイク・ブレイクで一番のおとこだよ。」そんなこと聞いてない、という風にサシゴを睨む。ばつの悪そうな顔をしているサシゴが反論する。「別にランクマッチなんて関係ないよ、それに今はゲームを開催出来るかどうかの瀬戸際なんだぞ。ビルド以外にゲームに参加してくれる人がいるなら話は別だけど。」髭面の男の口調が少しきつくなる。「いないの分かって言ってんだろお前!ったく今日がランクマッチじゃなけりゃぁな、ただでさえお前と組みたがる奴いねーのに。」「みんな薄情だよな、前はよくチーム組んでくれたのに、ははは。」「笑ってる場合かよ。」まるで漫才かのようにはずむ会話に、これがスタンダードなのだろうと理解する。

「サシゴが1位なのは知ってたけど。なんでチーム組みたがらないんですか。」

今度は髭面の男の右に立っていた眼鏡の女が答えた。

「サシゴさんはここずっとランク1位をキープしていますからね。1位になりたければ、サシゴさんに勝つしかないでしょう。厳密に言えば他にも方法はありますが、現実的ではないですね。「確かに、同じチームにいればサシゴには勝てないですもんね・・・いや、人集まらないのサシゴのせいじゃん!」思わず突っ込んでしまった。髭面の男たちがうんうんとうなずいている。この人たちもサシゴに振り回されていたのか苦労が伝わってくる。「それより、作戦会議をしよう。ビルドの事もふまえると時間に余裕がない、さっさとしないとゲーム始まっちゃうよ。」当の本人は、ゲームをやる気満々である。どうやら、俺の参加は決定らしい。「俺に拒否権はないのか。」口にだした言葉サシゴが反応する。「でもやりたかったでしょ、メイク・ブレイク。」そう言われて、俺は何も言えなかった。実際に出てみたかったのは本当だし。今から始まるのはプロのゲームだというのに、なぜかわくわくしている。

「それじゃあ、自己紹介せんとな。」そう言って髭面の男の左に立っていた小柄の男が自己紹介を始めた。「僕はフラット、こっちの髭生えたおっちゃんがネギリ、眼鏡かけたおばさんがプレカットや。」「誰がおばさんですって。」眼鏡の女、プレカットは、フラットを睨んだ。「結局こうなるのか。お前ビルドといったか、俺はネギリよろしくな。」思っていたより友好的で戸惑いながら俺も自己紹介する。「あなたたちのことは知っています。皆さん有名ですし。俺はビルドっていいます。あまり力にはなれないと思いますが、よろしくお願いします。」自己紹介を終えると、すぐさま作戦会議に入る、専門用語が飛び交う話に俺はついていくのが精一杯だった。


「ビルドはメイク・ブレイク、したことある?」作戦会議の内容を振り返っていると、サシゴが話しかけてきた。「こっちにいたときは少しだけ、でも島の外へ引っ越してからは全然やってない。」「そうか、じゃあ久しぶりのゲームな訳だ。道具の使い方分かる?」そう言われて、目の前にメイク・ブレイクで使われる道具プリンターを差し出される。このプリンターを駆使して、建物を作っていく。「なんとなく分かるけど、一応説明して欲しい。こうしてゲームが始まるまでの間、サシゴとの特訓が始まった。


ある程度慣れてくると、サシゴが話しかけてきた。「念のためルール説明を、メイク・ブレイクには数多くのルールがあるが基本的な部分は変わらない。建物を作り、相手のと交換し、相手が守る自分たちが作った建物を壊しに行く。サシゴは淡々と説明を続ける。「まず、建物を作るとその後に評価が入る。耐久性とデザイン性の二つだ。この時点でそれぞれのチームにポイントが振り分けられる。その次に建物を交換して壊しに行くんだが、こちらは特に守らなければならないルールはない。とにかく急所をたたく。」「先に壊した方にポイントが入るんだろ。」俺が口を挟むと、サシゴはうなずき説明を続けた。「さすがに知っているか。そうだ、今回は基本のルールに加えて、メイクタイムに制限時間がつく。いわゆるスピードメイクマッチだ。」「スピードメイクマッチ・・・」たしかサシゴの得意とするレースだ。制限時間が有るので建物が小さくなりがちだが、その分いろんな仕掛けをつけたりデザインが凝っていたり、ブレイクの方が好きな人もスピードメイクマッチのメイクタイムは好きだって言う人も多い。「まぁ、ビルドは久しぶりのゲームだろうし、肩の力抜いて楽しんだら良いよ。指示は全部オレがするから。」そう言うとサシゴはオレの肩を軽くたたいてネギリに話しかけにいった。


メイクタイム開始の合図が鳴り、一斉に作業に取りかかる。自分の担当する場所はあらかじめサシゴに教えてもらっている。道具の使い方はさっき少し練習した。他の人より作業に時間がかかるが、その分担当場所は少ない。ザザッと耳につけているインカムが反応する。「ビルドお前、オレのゲームどの位見た?」サシゴの声だ。体に入っていた力が少し抜けた気がする。「それ今必要?集中したいんだけど。」「いやー君、絶対緊張してると思って、ただでさえ体使うのにガチガチに固まってたら動きづらいだろ。」確かに先ほどより動きやすい気がする。「サシゴのゲーム全部、何回も見てる。他のゲームも見れる範囲で全部見てると思う。

「なんで、自信なさげなんだよ。」サシゴの笑う声が聞こえる。「だって、ゲームの数多過ぎ、1ゲーム何時間かあるやつもあるし、全部は無理だろ。」そんな風に言い合いをしていると、いつまで喋ってんだとネギリに怒られる。もう少ししゃべりたそうなサシゴの声を切り、改めて設計図を確認する。今回俺が担当するのはひたすら壁を作っていくこと。先に基礎工事を進めるネギリ達の横で配管の図面を見ているフラットに話かける。「フラットさん少しいいですか。」「どうしたん?ビルド君」「先ほど教えてもらった配管場所の再確認をしとこうと思いまして。」そういうとフラットは丁寧に教えてくれた。「ビルド君の場所やと、後ろ側やから・・・」フラットに教えてもらったポイントをメモに取り、基礎工事を早くも終わらせたネギリたちと合流し、作業を進めていった。


「なっ、サシゴのチームに欠員が出た上に、穴埋めは素人がしているだと!わしをなめているのかあの小僧!」時間は少しさかのぼる。サシゴたちのいる控え室から離れた別の控え室から怒号が聞こえる。サシゴたちの対戦相手であるヨセムネは、事の出来事を伝えに来たスタッフの胸ぐらをつかみ、怒鳴っていたのだ。「まあまあ、落ち着きなって、ヨセムネさん。それで今日の試合がこちらの有利になるなら願ったり叶ったりでしょ。」そう言ってヨセムネの右腕キリズマが宥める。「何をあほうなこといっとる、そんなで勝っても嬉しくないわ。」

「そうはいっても、別に一人素人が混じったところで、油断できる相手じゃなし、作戦会議しますよ。」そう言うとキリヅマ達は作戦会議を始めた。


「ふん、何やら順調そうじゃないか。そうでないと困るがのぉ。」

「いつまで敵さん方みてるんです、ヨセムネさん。さっさと次の指示出してください。そろそろ時間終わりますよ。」

「もうほぼ完成しとるなに焦ることはない、イリモヤ、あれはどうなっとる。」

ヨセムネに尋ねられイリモヤと呼ばれた女が答える。「もちろん準備満タン、今回のマッチこちらが勝ちますわ。」


メイクタイム終了の合図が鳴り響いた。

初めての作業に時間がかかり、チームの人に助けられながらだが、なんとか完成に持って行くことが出来た。「お疲れさん、よく頑張ったじゃねぇか、十分な働きだった。」そう言ってネギリが頭を撫でてくる。大きかった観客の声がさらに大きくなる。評価が終わり、点が発表されたようだ。点差は大きくないが僅かにこちらが有利だった。

「さあ、次はブレイクタイムだよ。観客の盛り上がりも十分、張り切っていこう。あ、ビルドは僕と同じオフェンスだから、よろしくね。」フラットが肩を組んでくる。テンション高いなこの人。「なんか性格かわってません?」「フラットはブレイクタイムが好きなんだよ。」ネギリが言う。いよいよブレイクタイムが始まる。


開始の合図と共にフラット共に相手陣地に走り込む。建物の構造は自分たちで作ったからよく分かっている。ネギリにインカムで状況を聞きながら、相手に見つからないように進む。

俺は相手に見つからなかったがフラットの方が苦戦してるみたいだ。おそらく俺の方に敵が来ないように引き寄せてくれたのだろう。その分も俺が動かないと、落ち着こうとするも、焦る気持ちが勝ってしまう。壊す柱がある地点に着くとそこには一人の老人が立っていた。

「なんじゃ、サシゴが来るとおもうたが、素人がきよったかい。」目のまえの人物が話し出す。この人は、よくサシゴと対戦していた有名な建築家だ。名前はヨセムネ。屋根作りに関しては右に出るものはいないという。「悪いがそこ、どいてくれないか。その柱壊さないといけないんだ。」内心ビクビクしながらも表に出さないようにする。しかしそう簡単に退いてくれるわけでもなく、いきなり襲いかかられる。それをよけ、柱に近づこうとするがなかなか近づけさせてくれない。「何じゃ、おぬし、若いくせして動きがかたいの、もっと建物内を利用して立ち回らんか。」何故か敵に説教されるも、言っていることは確かだ。柱の陰に隠れて、機会をうかがっていると、インカムから目的のポイントを破壊したとフラットの声が聞こえる。その報告に焦った俺は待ちきれずに正面から相手に突っ込んでしまった。その隙を取られ、ヨセムネに投げ飛ばされる。追いかけてくるヨセムネから逃げるが、なかなか振り切れない。息が上がり、段差に足を取られ倒れ込んでしまう。ヨセムネが目の前まで近づいてきたとき、スタジアムにゲーム終了の合図が鳴り響く。俺たちの建物はまだ壊しきっていない。外へ飛び出すと、そこには自分たちの陣地だった建物が変わり果てた姿になっていた。相手のチーム名がスタジアムの巨大なスクリーンに映し出される。

俺の初めてのメイク・ブレイクは負けに終わった。

 

スタジアムの雰囲気に耐えられず、すぐ出て行こうとする俺の腕をサシゴが掴む、「待ってくれ、落ち着いて、負けたのはオレのせいだ。ビルドのせいじゃない。」きっと今にも泣きそうになっている俺の顔を見てサシゴは俺が自分を責めているのに気づいたのだろう。

けど今はぐしゃぐしゃになっているだろう顔をサシゴに見られたくなかった俺は、捕まれた手を振りほどき、足早に出て行こうとする。サシゴは俺を追いかけながら話しかけてくる。「ビルド、今日は負けてしまったけど、君には才能がある!オレ、今日とても楽しかったんだ。また君とゲームがしたい。だから気を追いすぎないでくれ、メイク・ブレイクをやめないでくれ。」そう話しかけてくれるサシゴを無視し俺はスタジアムから走って出て行った。


残されたサシゴはビルドを心配する。なにせ初めてのメイク・ブレイクで、しかも大きな舞台で負けてしまったのだ、自分が誘って参加してもらっただけに、罪悪感に苛まれる。

「あー、やらかした。」そう言って蹲るサシゴにネギリが言葉をかける。「まあ今回は仕方ねえ、相手はあのヨセムネだったしな。それにしてもビルドの奴、俺たちのゲームについてくるなんて、たいした奴だ。」ネギリのそばに立っていたプレカットも同意する。「サシゴさんフォロー入れといてくださいね。彼相当落ち込んでましたよ。」「分かってるよ。」

どうしたものか、サシゴは頭を悩ませるのだった。


「どうも、初めまして。ビルドっていいます。よろしくお願いします。」転校初日の俺の雰囲気は最悪だった。本当は来るつもりはなかった。昨日のメイク・ブレイクを思い出す。あの時さっさと柱を壊せていれば、そんなことがずっと頭に残っている。あんな恥を晒してメイク・ブレイク発祥の地である、この学校に来るなんて馬鹿みたいだ。昨日のことを聞きたそうな顔をしている新しクラスメイトたちを横目にチャイムがなった瞬間すぐさま教室からでていく。一目を避けながら散策していると、いつの間にか迷子になっていたようだ。やばい、戻らないと、頭では分かっているのに体は勝手に先に進んでいく、まるで何かに惹かれるように。そして進んだ先に豪華な扉が現われる。そこには、メイク・ブレイクの過去ゲームの功績が多く飾られていた。壁にに飾られている優勝チームの写真を眺める。凄い、どれも活躍しているひとが写っている。時間も忘れて見入ってしまう。ふと、隣の写真を見るとそこにサシゴの姿があった。なぜか見覚えがある。ついじっと見つめていると、後ろから突然声をかけられた。「おや、今は授業中のはずですが、何故ここに生徒がいるのでしょうかね。」驚き振り向くと、そこには校長が佇んでいた。突然の出来事に固まっていると、校長が喋りだす。「その写真は、ふむ、なるほど。」何がなるほどか分からないが、ここはすぐ謝って、教室に戻ったほうがいいだろう。そう思い口を開こうとすると、校長が再び話し出す。「君もメイク・ブレイクに興味があるのですか。ならこの学校のメイク・ブレイクのチームに参加してはどうでしょうか。」「いや、メイク・ブレイクをやるつもりはないんで。」

「それは昨日のゲームに関係しますか。」間髪入れず校長は話し続ける。「昨日ゲームは素晴らしかった。今やめてしまうとは、もったいない。」その言葉を聞いて、カッとなり言い返す。「あれのどこがよかったんだ。俺が足を引っ張ったばかりに、チームは負けサシゴの顔に泥をぬった。」昨日のことを思い出して握った手に力が入る。

「実はそこに写っているサシゴ君もねなかなか勝てなくて、よくいまの君みたいに落ち込んでは、授業サボってここに引きこもってたんですよ。」そう言うと校長は俺の横まで来て写真を眺めた。「ほら、ここに写っている彼号泣しているでしょう。実はこれが初めての優勝だったんです。ここにあるのは主に学校主催の年に二回あるメイク・ブレイクの優勝チームの記録でしてね。見てわかる通りどれも有名な建築家とかの若い頃が写っているでしょう。昔からここで勝てば一人前としていろんな職人からも一目置かれる、なんて言われています。サシゴ君も優勝を目指す生徒の一人でした。けど本当に勝てなくてそこにある写真が最後のメイク・ブレイクだったんですよ。そして周りの期待に答えて彼は優勝した。君も彼に期待した内のひとりだったのでは。」そう言われてもう一度写真を見る。思い出したのは自分がメイク・ブレイクにはまったきっかけになったゲームだった。「これが、あの時の・・・」

「人は弱い生き物です。建物に守ってもらわないと生きていけないくらいには。しかし仲間がいれば、その建物を作る事が出来る。君はまだ一人です。諦めるにはまだ少し早いと思いますよ。」メイク・ブレイクをやめないでくれ、サシゴの言葉が頭に響く。

「校長、貴重なお話ありがとうございました。」「何やら吹っ切れたようですね。」

校長に頭を下げ部屋を出て行く。授業の終わりを告げるチャイムが聞こえてくる。

次の授業は出ないとな。そう思いながら、教室に戻る。メイク・ブレイクの仲間を見つけるために。


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