花束

IORI

幸せ

 たった一つ願いが叶うなら、君は何を願うだろう。

 そんな野暮な独り言は、夜に消えていく。

 

 時の止まった君の横顔は、相変わらず眩しい。舞い踊る髪、揺れるスカート、宝石のような瞳。どれも僕には眩しすぎて、手を伸ばす権利などない。あの頃よりも伸びた背も、大きくなった掌も、君を守るために使いたかった。

 真白なドレスとベールに包まれる君は、見知らぬ彼と口付けを交わす。愛しげに視線を交わしては、幸せそうに微笑んだ。

 なんて綺麗なんだろう

 きっと僕には見せない顔。ー否、見ることなどできない顔。幸せを願うその他大勢になった僕は、もう君の瞳になど映らないだろうな。

 ふわりと舞う花束は、ゆるい綺麗なカーブを描き、何故か僕の腕に収まった。

 どうか幸せになってね

 

 そんな言葉聞きたくなかった

 

 夜の駅のホームは、あまりに人気がなく静かだった。足が重いのは、目が痛いのは、分かりきってる。華やかな花束と醜い僕。腕を振り上げると、勢いに任せゴミ箱にぶち込んだ。

 

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花束 IORI @IORI1203

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