♪5 それはAあるいはラ

 ギシッ。

 寝返りをうつとベッドがきしんだ。シャーッとカーテンを引く。雨はあがっていたが、空はくもっていた。音探しの旅は、今日はお休みにしなければならないようだ。

 ハァ。奏はため息をついた。それも一つの音であることに奏は気がついていない。

 布団を下唇の下まで運び、天井を見上げる。染みが顔に見えた。天井の汚れにまで笑われているのだ、と泣きそうになる。

「どうしよう、学校が始まったら」

 ぼやいてため息を吐いた後で、ジリジリジリジリ、と目覚まし時計のベルがなる。ベルという単語から、学校の始業ベルの連想につながり、心の欠片がぼろっとはがれた気がした。

 必要以上に乱暴に叩いて、騒がしい音を止めた。ものにあたらなければやってられない気分だった。

 この土地で祖父は有名人だったという。父親は誇りに思っているらしいが、奏は違った。母親は奏の心情も理解していた。それでも、どちらかといえば、父親寄りで自分のパートナーの父親は立派な人だったと認識していた。

 ピトッピトッ。

 夜の雨が水滴となり、落ちている。

「雨が降らなければ、聞くことのできない音もあるのかぁ」

 奏では壊れたテープレコーダーを握りしめた。


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♪♪♪音♪欠♪♪オ♪♪ン♪♪♪ガ♪♪ク♪ アカニシンノカイ @scarlet-students

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